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安価で俺は変わろうと思う  作者: aaa168(スリーエー)
一人っきりのダンスフロア
118/166

意地悪



「君が、とーまちの噂を広めたんだね」

「……だ、だから。そんな一気に広がるとは思わなくて」


「……」

「だってほら、事実じゃんか。アイツがクラブに入ってくのを見たわけで」

「彼が“そういうこと”してたの見たの?」

「それは……でも、実際そうだろ!? あんなとこ行く奴らなんて」


「リオもよく行くんだけど」

「え」

「君、リオの事も“そういう認識”で見てるってこと?」



星丘高校、昼休みの空き教室。

二人の少女に連れられた少年の顔は、次第に青()めていった。


最初は美女二人からの誘いで期待に溢れていたが、今は真逆。

星丘高校、暗い空き教室。



「それは……その……」

「なあ言ってみなよ。リオの事、男遊びしてるビッチだって」

「ひ、柊さんは違——」

「なんだそれ」

「ひっ!?」



柊の、教室では決して出ない低い声に。

情けない音を出す彼は——既に自分の行動を悔いていた。



「おい莉緒。そろそろ良いだろ」

「……はぁ。んじゃ君、二度ととーまちの事で変な噂流さないでね」

「は、い……」

「噂も撤回する様に。じゃ行こ、苺」

「ああ」



次なる二人の目的地は、職員室。

その足取りは重い。





「アレから連絡は来てないわね。きっと寝てるわよ」


「……そうですけど」

「……」



職員室、彼女達の担任の声を聞く二人。



「ふふっ、この質問3回目なのよね。そんなに心配だったかしら」


「え」

「最初に椛さん、2回目は如月さんと初音さんから聞かれたわ。ほんの軽い“頭痛”だけらしいから、そんなに心配しなくていいわよ」


「……そうですかね」

「……ありがとうございました」


「? ええ」


ほんの少し歯噛みをして、二人は職員室から出る。

莉緒はため息を吐いた。


担任との食い違いを感じたから。

その“頭痛”の理由が問題なのだ。



《——「俺に、話しかけないで」——》



彼女の耳から離れない。

その、低い彼の声が。


——バタン。

職員室から出て、二人は歩く。



「アタシが東町と距離を置くなんて言わなければ、こうはならなかったよな」

「そうだね」

「……スマン」

「謝る相手が違うし、リオも甘く見過ぎてた。リオも悪い」



(水曜の時点で、彼に気付くべきだった)



思えばヒントは散らばっていたのだ。

何度も兆候はあった。

まさかここまで追い込まれているとは予想出来なかった――その後悔は何度目か。



――ガララララ。


2-A教室。


彼女達がそこに戻った時、ほぼ男子全員は不機嫌そうな柊を見て怖気づいていた。

“次は自分じゃないか”、なんて。



「……はぁ」



(つまんない男ばっか)



また彼女はため息を吐いて――瞬間。


ピコン、と着信音。



「えっ」

「莉緒も来たか?」




リオ☆『とーまちー大丈夫?』


東町一『ありがとう 大丈夫だよ』




彼女がスマホを見れば、着いた返信。

彼からのそれ。

朝から、全く音沙汰なしだったが……。



「ど、どうしよ……なんて打つ?」

「普通に聞きゃ良いんじゃねーか」

「いやいや! 地雷踏んだらヤバいじゃん!」

「そうか?」

「そうだよ!」

「……ま、待ってるぞ……とかか?」

「それ逆に来づらくなるやつ!」

「どうしろってんだ……」

「わかんない!!」



キーンコーンカーン――



「って予鈴なった――ってもうアレだよね!?」

「ダンスの発表だな」

「わーもーまともに踊れないよ!」



慌ただしく、彼女達は鞄を手に更衣室まで走っていく。








「それじゃ、○×君のグループから!」



体育教師の声が、体育館に響き渡る。

その後、緊張した面持ちで6人の生徒達が壇上に上がった。


《♪》


やがて流れる音楽に、ぎこちなく身体を動かし始めていく。


この創作ダンス発表は、男女合同で行われる。

持ち時間は2分まで。


二年のイベントの一つというのもあって、何だかんだ盛り上がる事が多いこのイベント。


普段の体育とは異なり、金曜日の五限六限の合計2時間を使って男子から女子の順番に踊っていく。

二年生が昼休みに練習する光景は、もはや恒例こうれい行事である。



「良いぞー」「ずれてるずれてる!」「がんばれー!」



ある者は恥ずかしがったり、本領を発揮出来なかったり。

笑って壇上から降りる者、悔しそうに降りる者。


そしてその中の五人だけは、先ほどの返信でマシになったとはいえ――まだまだ浮かない表情だった。


体育館で、ただ一人居ないクラスメイト。

一体彼は、今どんな表情をしているのかと。






「はぁ、やっぱり緊張するね〜」

「大丈夫よ、堂々としてたらいいわ」

「あやのんってこういう時全然動じないよね……」

「練習した事をするだけじゃない」

「えぇ……」



さすが学年一の美人。

ずっと見られているから慣れてるのかな。


「は〜……」


男子達が踊るのを見ながら嘆く。

女子の前に踊ってくれるのはありがたいよね。


一人居ないけれど。

……本当に、大丈夫なのかな。


タイミングがタイミングだから。

昨日の噂で……体調崩してたりなんかしたら。


「東町くんはきっと平気よ。さっき返事来たんでしょ?」

「そうだけど……」

「しゃんとしなさい。彼の事、信じられないの?」

「……ううん」


彼女の声に首を横に振る。

ああもう、駄目だよね。こんなのじゃ。



「私も心配よ。でもそれで失敗したら彼が悲しむでしょ?」

「! う、うん」



あやのんの言葉にハッとする。

気を引き締めよう。


男子が終わればわたし達の番だ。

あやのんにも迷惑掛けるし、今は自分の事に集中しなきゃ。


……でも、いっちのダンスは見てみたかったな。去年の体育祭の時はお手本みたいな動きだったし、きっと得意なんだろう。



「本番は足引っ掛けちゃ駄目よ」

「が、がんばる」



……わたしのダンスは見なくていい。

恥ずかしいから。






東町君が居ないまま、ダンスの発表は続いていった。

男の子のグループは無事終了。


僕達はなんと……女子の中で最後らしい。



——「き、綺麗だ……」「ほんと美人だよね」「同じ人間と思えないよぉ……」



音楽に合わせて、壇上で初音さんと如月さんが踊っている。

如月さんに関しては、男女ともに歓声と……羨ましがる様な声も。


——「桃ー!」「桃かっこいー!」「こっち向いて!」


初音さんは、男の子よりも女の子の歓声が多い。

両者とも人気のある生徒だ。

そして東町君と仲の良い二人でもある。



「……凄いなぁ」



終始黄色い声を上げられながら、踊りきった二人。

思わず声が漏れた。


自分ならきっと萎縮いしゅくして、あんな風に踊れないや……。



「えっと、次は柊さんのグループだね!」



そして次。

壇上に上がっていったのは、またも東町君と仲の良い二人だった。


如月さん達の後だったけれど……全く臆する事無くそこに立っていて。



《——♪》



——「えっすご」「めっちゃ格好いい」「動画上げたらバズりそう」



ポップ調かつ、重低音の聞いた曲。

それに合わせたキレの良いダンス。


見てすぐ……“かっこいい”と思った。

美人な二人というのもあるけれど……なんというか、凄く堂々としているのだ。


ダンス部よりも動きは劣るかもしれないけれど——それでもこのオーラは真似できない。



「……私達、あの二人の後かー……」

「辛いですね……」



神様は意地悪だ。

東町君も居ないし、順番も辛い。


でも——頑張らないと。





「えっと、これが最後だね。立花さんのグループ! 頑張って!」


「……っし。行こ詩織ちゃん」

「……はい」



先生の声に僕達は立ち上がる。


最後ということで、かなりの視線を感じる。

それも彼女達の後だし……。


ああもうだめだ僕、覚悟を決めないと。



「あっ」

「ちょっ詩織ちゃん!?」



緊張し過ぎかもしれない。

靴が滑って、転んでしまった。



――「大丈夫かあれ」「あの二人の後はかわいそー」



うぅ……。辛い。

幸先悪すぎて嫌になる。



「それじゃ、行きますよー!」



《♪》



先生の声。

その3秒後に音楽が流れる。


僕達のダンスは基本的なパターン5つを繰り返して踊るだけ。



「っ!」



二週間。

長いようで短い期間で、僕達はかなり練習した……と思う。

立花さんは運動神経の悪い僕に、ため息一つつかず付き合ってくれた。



《♪》



手と足を、ぎこちなくも動かしていく。

練習通り、練習通り。


それでも——



——「あちゃー」「ずれてね?」



どうしよう、どうしよう。


どこか違和感があった。

そしてそれは、僕ではなく他の生徒も気付いたみたいだ。


覚えた通りに踊る事を意識し過ぎて——音楽に合わせる事がおろそかになった。



「……っ!」



聞こえてくる声を受け止めながら、何とか横の立花さんに合わせる様に修正しようとするけれど……うまくいかない。


早くしないと終わってしまう。

リズムからズレたそれは、きっと酷く滑稽だ。



——「発表会の醍醐味だね」「最後の最後でやっちゃったなー」「あーあ」



せっかく練習したのに。

やっぱりダンスなんて苦手だ。もう、止めてしまいたい。


そう思ってしまうけれど。

ここで諦めてしまったら、きっと昔の自分のままだ。


もし今、東町君が見ていたなら——



「っ!」



止めるな、止まらないで。

音楽に耳を傾けながら、なんとか軌道修正。


またズレて、修正。ズレて修正。

みっともないけれど、ひたすらそれを繰り返して。


なんとか立花さんと揃ったのは、ほんの最後の十数秒で。



《——♪……》



曲が終わろうとするその瞬間、僕は嘲笑を覚悟した。


——でも。


曲が終わった瞬間、『体育館の入口』で。



「……ぇ」



“遥か遠く”のその場所で。

パチパチ、パチパチと。

一つの手のひらを叩く音が聞こえた。


小さい。

けれどそれは、確かにこの体育館に響いていて。



「そんな……っ!」



やがてそれは、連鎖して大きな拍手となった。


僕はその光景に、呆然と立ち尽くしてしまったまま。

この現実を受け入れるのに、時間が掛かってしまった。



……ああ。

神様は、本当に意地悪だ!




「——東町くんっ!」




彼が来ていたのなら、教えてくれたら良かったのに!


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