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安価で俺は変わろうと思う  作者: aaa168(スリーエー)
一人っきりのダンスフロア
116/166

『8:25』


キーンコーン――



体育は終了。

授業以外はできるだけ教室に入りたくなくて、すぐに図書室へ駆け込んだ。

授業開始ギリギリになったらそこへ入る。


6限、HRが終わればすぐに帰宅。

誰からも、今は視線を浴びたくなかった。



「っ」



制服を脱いで、着替えて……座り込む。


ずっと、心の奥底にあったモノ。

初音さん、如月さん、椛さんに夢咲さん、柊さんも。

全て女の子だ。


異性。

同性ではない。

彼女達から見て、俺はどう見えているのかと。



《――「あの“五人”で満足出来ないのかよ」――》



そして、“それ以外”から見てどう見えているのかと。


……当然、そんなの決まってる。

“普通じゃない”。


髪が虹色なのも、学年一位のテスト順位も。

この、創作ダンスも。



《――「狙ってるぞアレ」――》



でも俺は、そんな“それ以外”の目は気にならなかった。

なんでかと言えば――五人の彼女達は、俺と仲良くしてくれたから。

テストの勉強会も。波乱だった合コンも、山遊びも、カラオケから初音さんも連れ出した時も。

色んな事があって、彼女達と遊んで――笑った記憶がある。


楽しかった。

友達として――ずっと、このまま。



でも。

そうは、ならない。



《――「……おう」――》



最近の、夢咲さんと柊さんの反応も。



《――『ごめんね 今日からあやのんとダンスの練習するから』――》



最近、露骨に距離を取る初音さんも。

当然、その親友の如月さんも。



《――「お休みに遊んだりしても大丈夫、ですよね」――》



同性の友達ができた椛さんも。

その、常識に。

きっと――この“異常”に気が付く。



「……」



嫌でも想像してしまう。


金曜日――ダンスの発表の後。

俺から離れて行く、五人の彼女達の事を。



「……っ。くそ……」



自宅、時計の音が鳴り響いている。

イヤホンを耳に突き刺しても、それは消えない。


最悪な未来も、当然このまま。

それは既に、明後日に迫っているけれど。


この針の音をかき消す為に――俺は、家を出た。

衝動的に。

欠かさず身に付けていたニット帽を、忘れた事に気付いたのは電車に乗った後だった。





《――♪》



暗闇を刺す光線に、流れる爆音のミュージック。


今はそれが心地良い。

居心地が良すぎて、逆に怖い。


一人でいる事が、おかしくない場所だからだろうか。



「――っ」



基本のステップを刻みながら、音の波に溶け込んでいく。


……気付けば一時間は経っていた。

自分でも少し怖いほど、のめり込んでいた。

ずっとこのままで――そう願うものの、そうは言ってはいられない。


明日も学校だ。

帰って……授業の予習をしないと――



「――やっほー★」



なんて。ひとしきり踊って、帰ろうかなと思った時だった。

シックな黒のワンピースに身を包んだ――ずっとここで声を掛けてくる女の人。


羽織さんだった。

正直、今会いたくなかった。

全てを見透かされそうで。



「なんかあった?」

「っ!?」



……やっぱりこの人怖い。思考を読まれている気がする。

雰囲気もなんか重圧感? あるし。



「そんな驚かんでも。顔見ればわかるかな。顔見なくてもわかるけど」

「……そうですか」

「うん」



不思議な人だ。

前は怖い印象しかなかったけど、今は優しい雰囲気を受ける。


海の向こうの母親も、きっとこんな風だった。



「抱え込んじゃダメだよ、そういうの」

「……はい」

「人ってのは、落ち込むと視野がどんどん狭くなるからねー」

「……」

「ちょっと、聞いてる?」

「はい」

「もー。とにかく誰かに話してみな、友達でも誰でも」

「……はい」



その友達が離れて行っている――とは言えなかった。



「赤の他人でも★」

「いやいや……」

「キミには居るでしょ、たくさん。聞いてくれる人が」

「え」

「もちろんこのハオさんでも——」


「――オーナー! 〇×の社長さんがVIP席で呼んでます」

「あっ……結構急用? 今はちょっとなー」

「例の新事業の話したいらしく……」

「ああ……マジか」



……これ聞いてていいの?



「ごめーん、呼ばれたからまた今度ね!」

「は、はい」



その疑問が解決する間もなく、人込みに消えていく彼女。

オーナーだったのかよあの人。道理で怖いわけだ。



「帰ろ……」



ああ。なんか、ここにきて一気に疲れが来た。

帰ったらすぐに寝よう。

スレ住民に相談しようかなと思ったけど……安価で決めた趣味でこうなったと思われそうで止めた。


それに。

友達全員女の子なんて言ったら――住民すらも、離れて行ってしまいそうで。




《――「君には居るでしょ、たくさん」――》




その言葉の意味は、未だに分からない。





そして、翌日。

朝。

また、HRギリギリで教室に入る。



――瞬間。



「アイツ、クラブ行ってたってマジ?」



そんな声が、俺の耳に入って来た。

背筋に冷たい汗が流れた。




「……ぇ」




おかしいと思った。

明らかに、この場所に来るまでに、いつも以上に視線を感じたから。


男子だけじゃない。女子からも。

テストで学年一位になった時とは――今回は、明らかに“質”が違う。



――「なんか出てくるところ見たらしい」「会員制のとこ」「やっぱり“そういう”人なんだ」――



全く気付かなかった。

あの時、誰かに見られてたなんて。


校則じゃもちろん禁止なんてされていない。

デイタイムの入場は、高校生でも全く問題ない。


でも――抱かれるイメージはきっと、最悪だ。

それこそ、あの場所を知らない者なら。

いや、知っているならなおの事か。



「はは……」



思わず乾いた笑いが零れる。

本当に、転がり落ちる様に。


金曜のダンス発表なんて、もはや関係ない。

それを待つまでもなく――俺はもう、一人だ。


ぎこちなく椅子を引く。

ああ、悪戯はされてないか……それならまだマシだ。



「おい、東町」

「と、とーまち――」



もしかしたら彼女達がそこにいたおかげかもしれない。

机、荷物を置いて逃げようとしたら……隣の二人が声を掛けてきた。



珍しく、途切れた声。

自分の指を弄る柊さんなんて初めて見た。


……心配してくれてるんだろうか。

なら、それをするなら彼女達自身の方だ。



「俺に、話しかけないで」



その優しさを嚙み締めて、彼女達に言った。

震えた声なのは勘弁してほしい。

本当は大丈夫じゃないけれど――彼女達まで、この視線を浴びて欲しくない。



大事な友達だから。

これからは……もうそうじゃないかもしれないけれど。






バスケ部、部室。

そろそろ暑くなっちゃって、制汗スプレーが必須になっちゃった頃。


今日の朝練を終えた時だった。



「先輩やばいっす」

「……え」


「東町? さんでしたっけ。運動部の男子の間でめちゃくちゃ出回ってます」

「な、なにが?」


「あの人、クラブ通い? してるらしくて。とにかく女の子をその……食いまくってる奴、みたいな」

「え……」



明ちゃんが、こそこそと耳打ちする。

そんなわけない――いっちが、そんな事できるわけない。


クラブに行ってる事は知ってる……あの二人との会話で。

ばかな男子が、言ってるだけだ。

多分……嫉妬もあるだろう。



「なに、それっ」

「わ、わあアキに怒らないでくださいよう!」


「桃……大丈夫なの?」

「吹雪まで! いっちがそんな事出来る訳ない!」

「えぇ」

「でも、そこら辺じゃ凄い噂なってます」


「……うそ」

「ほんとです……もう、学校中で」

「えっ」

「マジで一瞬です。噂ってすごいっすね」



……なんで。

そんな信ぴょう性もない、意味不明な噂が。



「も、桃先輩が過去イチ怖いっす……」

「ちょっと桃、落ち着いて」


「……っ」



ずっと気持ちを整理出来なくて、話せていなかったけれど。

今はそんなこと言っていられない。


すっと、冷静になっていく。

最悪の未来が見えた気がしたから。


彼から逃げていくがあまり、彼の顔を見れていなかった。

一番見なくちゃいけない時に。




もも『学校、変な噂流れてるけど気にしないで』

もも『今日、一緒に帰らない?』




「……」



打ってから、不安が募る。

一番の心配はこの噂を、いっちがどう受け止めるか。


……わたしから離れて行くことだけは、絶対にしてほしくない。


体操服の裾を掴んだ。

汗が、じっとりと手に付いた。





休み時間――席を見れば彼は居ない。


昼休みも。6時間目が終わっても。HRが終わっても。


まるで消えた様に、教室から居ないのだ。



《——「すいませんっ! と、東町君の事、なっ、何か知りませんか?」——》



あやのんといっちを探していたら、詩織さんが初めて話しかけてきたけれど。



《——「メッセージも、返ってこなくて……図書室のいつもの場所にも……どこに居るんでしょうか」——》



そう言う彼女も。近くの席の柊さん達も、どこか浮かない表情で。


きっと、誰も彼と話せないまま時間は過ぎて。


そして。

今。夕方、ようやくその返事が来る。




東町一『ごめん』



たった、その一言だけ。

それ以降――何を打っても、返事は来なかった。







一限、二限、三四限。

いつもの様に授業を受ける。

休み時間は人気のない自習室に逃げた。

図書室の自習スペースは目線がある。テスト前じゃないとこんなところ誰も使わないから助かった。


昼休み。

ご飯も食べずに、ひたすら自習室。

知らない生徒がちょっと居たけれど、その壁に隠れる様に黙々と励めば、時間はすぐに過ぎて行った。


五限、六限。

HRを終えて――家へと向かう。



「……ふー」



誰とも喋らず、今日を過ごして。

駅のホームで息を吐いて。


なんだ、全然平気じゃないか。


大丈夫。

“元”に戻っただけだ。



――「ねえ、アレ」「あの人ヤバいらしいよ」「高校生でクラブ通いとか――」



「…………」



イヤホンを着けて、やがて来る電車に乗り込む。

揺られ揺られて最寄り駅。

降りて歩いて家に到着。



「疲れた」



教材を取り出し、勉強机に座る。

何かを忘れる様に、頭に詰め込んでいく。


消えない。消えない。


その視線が。

その声が。

彼女達が、離れて行く光景が。



「――っ」



明日。

俺は一体どうなるのだろうか。


ダンス発表で――笑われるのだろうか。

わざと手を抜く? ……それは絶対に嫌だ。

ここまで来て意地を張る自分に驚く。



「……っ」



もう、分からない。

なにもかも。


この先、全てが暗闇に閉ざされたみたいに重苦しい。

詰め込んでいる英単語は、この状況を助けてくれない。


それでも――まだ気が楽になった。

勉学に逃げるこの今が。

……同じだ。あの時と。


変わる前の黒髪の自分。

俺は——何も変わっちゃいない。







「……」



金曜日。

目が覚めたら、朝の3時だった。

二度寝する気も起きず、ひたすらに勉強。

5時になったらジャージに着替えて、公園にて日課になった鉄棒を終えて。


朝6時。

料理する気が起きなくて、朝には適当な菓子パンを食べて。


7時。

今日の授業科目を確認、鞄に教材を入れて。

制服の袖に腕を通す。

髪をくしで整えて――そうしていたら家を出る時間。


7時半。

靴を履く。

扉の取っ手に掛けた手が、震えていた。


8時。

玄関、座り込む。

足が震えていた。


8時10分。

靴ひもを何度も結びなおす。

結局それを解いて、リビングに戻った。


頭が、ズキズキと痛い。

呼吸が、上手く出来ない。



「っ」



8時20分。

玄関でもう一度止まる。

ラストチャンスはとっくに逃した。

もう、遅刻は確定だ。


それでも――まるで己を守るかの様に――この足は動かない。


動けと思えど動かない。

目の前の扉が、馬鹿みたいに遠く思えて。



《――「見ろよアイツ」「勉強出来るからって何してもいいわけじゃねーよな」「あの噂ってホントなの?」――》



誰もいない玄関。

昨日の、聞きたくない有象無象の声が聞こえてくる。



《――「うわっ来たよ」「どんな神経してんだろうな」「結局見た目通りだったね」――》



今日も、きっとそれは聞こえてきて。


そしてその声は、五人の彼女達にも聞こえる訳で。


それなら――それならもういっそ。



「……はは」



やっぱり、俺はなにも変わっちゃいない。

変わると誓ったあの時から。


逃げて、逃げて。周りの視線が気になって仕方なくて。

結局今――地面の底だ。



「っ」



制服のまま布団に潜る。

気持ち悪いぐらいそこは心地が良い。


まるで逃げる自分を迎えてくれる様だった。

携帯、その電話番号を打ち込んだ。

先生の声が聞こえた。



「東町です……今日、頭が痛くて。すいませんが休みます……はい、また経過は連絡します……大丈夫です」



電話を切る。

これで、良かったんだ。


朝の8時25分。

逃げる様――俺は布団の中に潜り込んで。


聞こえるはずのない時計の音が、俺を馬鹿にするように響いていた。

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― 新着の感想 ―
事情知らないとはいえイッチに助けられてる女バスすら彼をヤバイ奴扱いなのモヤるなぁ… 多分5人の中で一番自責の念にかられてそうなのって、唯一現状を把握してたのに友達に乗っかる形で距離取ってた柊さんな気が…
自分を高めず他人の足を引っ張る輩。ええ、彼らは悪くない。ただくそったれ野郎なだけで
原因がダンス部だったとしても、ダンス部は悪くねーなー。煽ったの空気読めない体育教師だし。普通に精神科とかで診断書もらえば、体育教師クビにできるくらいの失態だぞ。
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