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安価で俺は変わろうと思う  作者: aaa168(スリーエー)
一人っきりのダンスフロア
115/166

最悪の未来へ


「……」


黒い液体をカップに入れ、口に運ぶ。

その強い苦味に顔をしかめた。


今日のコーヒーは失敗だ。

思えば、昨日も珍しくカレー作りに失敗した。

気分転換にいつもと違う方法で作ったからだろう。


その代わり、創作関係はいつもより進んだ。

音楽にイラスト、小説。

まだまだ初心者だけど、この3つは本当に楽しい。

特に音楽。最初は辛かったけれど、一か月も立てば多少はモノになった。

自分の好みの音を作れる様になったら凄く楽しくなった。

しかしながら曲を作る……なんてのはまだ雲の先。


現実逃避といえば、それだけだけど。

後は勉強。これはずっとやってるからか。



「……そろそろ行かなきゃな」



だからこそ、この狭い創作部屋から抜けたくなかった。

携帯の運行情報を眺めながらそう呟く。


いつもは余裕を持って出発しているけれど。

今日は――ギリギリを狙う。

HL開始5分前に到着する、そんなダイヤで。


……久しぶりだ。

学校に行くのが、苦痛に思えるのは。

今日は体育もある。目を瞑ったら、来週の月曜になっていないだろうか——





「えー、この公式は——」


「……」



案外、一時限目の授業は集中して受けられた。

勉強が現実逃避になっているのかもしれない。



キーンコーン——



「はい、んじゃ今日はここまで——」


「っ」



そして、授業が終われば席を立つ。

時計の音が、聞こえる前に。

体操服を鞄に入れて。





男子は教室で。

女子は専用の更衣室で。


体操服の着替えは、それぞれの場所で行われる。


ダンスの場合はそこから、男子は第一体育館。

女子は第二体育館。

第一の方がここから遠いんだよね。



「……」



一限が終わり、廊下を歩き1分ぐらい待って教室に入れば――大半の生徒は慌ただしく着替えていく。

第一体育館は第二よりも遠く、余裕を持って到着する者が多いのだ。


この時間が、一番視線を感じなくて良い。

女子は居らず男子は慌ただしいから。


我ながら、本当に陰キャだと思う。

最近は普通に着替えてたんだけど。一年の時はずっとこうだったっけ。





「はーい、いよいよ次の金曜日にはダンス発表でーす!」



――「はやすぎでーす!」「無茶ぶりだってー」「全然完成してないよ俺達」――



「泣き声言いません! まあでも結構大変なのは分かるので、先生が順次アドバイスしていきまーす!」



二週間といえど、本当にあっという間。

俺の周りの生徒は不満を口にする。



「あと、優秀な人には授業の真ん中の方に“お手本”として踊ってもらうので! 分かったねダンス部?」



――「……知ってた」「参考にさせてもらお」「頼んだぞー」――



ガヤガヤする体育館内。

この悪い予感が、当たってくれないと良いんだけど。





やることは変わらない。

部分部分ごと、それぞれ完璧に出来る様に反復練習。


音楽は流さなくても耳に染み付いた。

ひたすら精度を上げて、ひたすらミスを潰していく。


ダンスは楽しい。

だから、気にならなかった。

時折感じる――敵意の様なその視線が。



「はーい、それじゃ皆集合!」



そのまま時間は経つ。

このまま終わってくれればよかったけれど。



「とりあえず三グループ、先生のお眼鏡に叶った方々に踊ってもらいます!」


「それじゃまず――〇×君! はい壇上上がって上がって!」



――「やっぱダンス部かー」「来た来た」「ダンス部、パクらせてもらお」――



「……ふぅ」



その先生の声に一息付く。

このまま呼ばれないで欲しい思いと、もう一つの思い。


それに気付かないフリをして、壇上に上がる生徒を見た。





「はーい! ありがとうございました!」



――「やっぱダンス部スゲーわ」「ここまで完成度高いんだな~」――



そのまま、一人のダンスを終えて。

次の二人目もダンス部だった。俺はその人を知らないけれど、周りの反応で分かった。


……二人とも、その顔は自信に溢れている。

もちろん恥ずかしさもあるだろうけれど……俺とは違う。


動きも俺とは違う。

“集団”で踊る事を意識した、分かりやすいモノ。もちろんクオリティも高い。

一年の時、体育祭でも踊ったのはそういったダンスだ。



「……」



そうか。

それなら、呼ばれないか。


俺は“一人”だから――



「――それじゃーラスト! 東町君!」


「えっ」



なんて。

そう、勝手に安心していた時。聞こえてきた先生の声。



「はい! こっちこっち!」

「……ぁ。はい……」



――「ダンス部じゃねーの?」「なんで?」「……」――



先生に手招きされ、前に出る。


周囲からの声。

ちらほらと感じる、敵意の視線はより強くなった。


……でもどこか、心は浮足だっていた。

“もしかしたら”。

奥底で俺は――この状況を、望んでいたのかもしれない。



「音源はこれで良いんだよね?」

「だ、大丈夫です」

「それじゃ上がって上がって!」



先生に言われるまま、壇上に上がる。


パターン3の内――選んだのはパターン1。

一番ミスが少ないであろう、一番難易度が低いもの。

この精神状態だと多分他2つじゃミスるから。



「っ……」



男子40名近く。

それが見える景色は、緊張し過ぎて頭がおかしくなりそうだけど。


明後日には――もっと増えるから。

その中には、五人の友達も居るから。

失敗なんてしてはならない。



「それじゃースタート!」



ここでミスするぐらいなら、きっと明後日は目も当てられない。

だから――


流れる音楽に。

いつもの様に。


俺は、身を任せていった。



《――♪》



聞きなれたイントロが、俺の足を自然と動かしていく。

ステップ、ステップ。

刻む様に――その音に乗る様に。



「っ!?」



でも。

見えたのは、“理想”の風景では無かった。


足が、鉛の様に重く感じた。

普段の様には踊れなかった。

久しぶりに、踊るのが楽しくなかった。





「――はーい! 東町君ありがとう、凄い良かったよ。皆も負けないよう頑張れ!」


「……どうも」



壇上、踊り終えて下る。

目下、その視線を出来るだけ浴びないよう先生に目を向けながら。



「それじゃ皆練習に戻ってー! それぞれアドバイスしていくからねー」



その声を皮切りに散り散りになる生徒達。


俺も、それにすがる様に立ち去った。

歩く度――背中にジトっとした視線がくっつく。


“もしかしたら、この踊りを見た彼らが話しかけてくれるかも”。

そんなダンス前の期待が、そうとう馬鹿な考えだったんだと分かる。

どこまでも受動的な。どこまでも他人任せな。



――「見た?」「どんだけ練習したんだよ」「アレ明後日やんの?」――



本人達は、聞こえてないと思っている声。

その中で、聞こえてないフリをする俺。


酷く惨めに思えた。

無視すればいい――そんな理想を、俺の聴覚は許してくれない。


鋭く、事細かに拾い上げる。

音楽よりも。その声を。



――「どんだけモテたいんだよ」「見てるこっちが恥ずいって」「ダンス部でもないのにな」――



……違う。

そんな理由で、俺は踊ったんじゃない。


ダンスが好きだから。

“安価”で決まった趣味だけど――この思いは確かだ。


なのに。



――「如月さんへのアピールか?」「明後日は女子も見るからなー」「狙ってるぞアレ」――



本人はさぞ楽しいと思っている、そんな雑談に。



――「急になんか目立ち始めたよな」「テストもアレだし」「遅すぎた高校デビューか?」


「勉強の次は運動か」「一年の時のアイツ知ってる?」「調子乗ってるよな」


「学園の姫じゃ足りねーんだろ」「流石にキモいわ」「あの髪色で優等生気取りかよ」――



研ぎ澄まされた聴覚が。


聞こえてくる、陰口に。



――「あの“五人”も引くだろアレ」「マジで笑うわアイツ」「あそこまでやる?」――



……その声に。


あるはずもない時計の音が――また一段と大きくなった。


止まらない。止まらない。

最悪の未来が、頭の中に広がっていく。


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― 新着の感想 ―
どうしてこんないいやつが苦労しなきゃいけねえだろうな
早く掲示板をみるんだ。俺たちがアドバイスしてくれ。
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