三十一話
瞼が重たい。
自分が今どこにいたのか、何をしていたのかを考えているうちに、少しずつ意識が浮上してくる。
そうだ。確か突然全身に痛みを感じて、それから意識を手放したのだと思い出す。そして、自分がベッドらしき場所に寝かされているであろうことを、布団の感触で感じ、ゆっくりと瞼を開けた。
痛みはないが、喉に違和感を感じる。
「あ・・あぁ・・・」
声に異変はなく、とりあえずほっとしてから体を起き上がらせて辺りを見回した。どうやら救護室のようであり、外は日が暮れ始めている。おそらく誰かが運んでくれたのだろう。
自分は一体どれほど眠っていたのだろうか。
手のひらをぐーぱーと動かしても、異変はなく、先ほどの痛みは一体何だったのだろうかと首を傾げたくなる。
その時であった。
カーテンが開かれ、現れた人物に、ローズは目を丸くした。
「目を覚ました?」
そこには、ジルがいた。
何故ここにジルがいるのだろうか。意味が分からずにローズはただ目を丸くし、動きを止めてしまう。
ジルが、目の前にいる。
ずっと会いたかったジルが。
なのに、体が上手く動かず、名前を思わず呼ぼうとしても口が開かない。
「倒れていたのを偶然見つけて、僕が運んだんだ。気分はどう?お医者さんによると、疲労だろうって。」
「疲労?」
あれが疲労の痛みだろうかと眉間にしわを寄せ、そして口に出せる言葉と出せない言葉があるという違和感に気が付いた。
ジルの名前を呼ぼうとしても、口をぱくぱくと動かす事しかできない。
これは一体何だろうかと思わず喉を押さえると、ジルが心配げな瞳で言った。
「大丈夫?」
「え・・・っと。はい。大丈夫です。あの、助けていただき、ありがとうございました。」
取りあえずはお礼をと思いそう口にすると、ジルは優しげに微笑んだ。
「うん。良かったよ。今日一日休んだら大丈夫だろうってお医者さんも言っていたよ。」
「そうですか。」
ローズは、久しぶりにジルに、不思議と緊張しており、心臓がバクバクと鳴っているのが分かった。何故こうも緊張しているのだろうかと自分でも不思議に思いつつ、顔に熱がこもっていくのも感じる。
「とりあえず、今日はここで安静にしなよ。また明日、話がしたいから、僕の部屋に来てくれる?」
「え?」
「朝食を取った後すぐにね。よろしく。それじゃあね。」
ジルはそう言うと去って行ってしまい、ローズはジルの後ろ姿を見送ると、一体何がどうなったのだろうかと不思議に思う。
ジルに会えた事は良かった。
早く自分がローズだという事を伝えたい。ただ、何故か伝えようと思うと、口から言葉が出てこないのである。
明日になれば伝えられると、ローズはため息をつくと、先ほどのジルの姿を思い出して小さく息をついた。
「すぐに気づいてくれると思ったんだけどなぁ。」
甘い期待に、項垂れてしまう。
と、そこでやっとローズは自分の魔力が何かによって押さえつけられていることに気が付いた。
「何・・・?」
魔法が使えないわけではない。ただ、魔力が幕のようなもので押さえつけられているのだ。それに気づいた時、やっとローズは気が付いた。
「まさか、呪い?」
ローズは頭を抱えると、自分の体に新たに降りかかった呪いについて、考え始めたのであった。
頑張ります!




