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42/42

42・宣戦布告

 教室で打ち上げパーティーも終わり、俺は帰途につくことになった。

 すっかり辺りも暗くなっていて、まるで俺達を祝福するように満天の星空が広がっている。


「それにしても……勝ててよかったな」


 思い返してみれば、色々なことがあった。


 文化祭で二組と勝負して……女子のみんなにメイド服を着てもらって……朱里に呼び出されて……そして一組はMVPを取れることが出来た。

 今までに起こったことを思い出すだけで、どっと肩に疲れがのし掛かってくるようであった。


「文化祭が終わって、気が抜けたな」


 しかし一組を勝たせるという重要任務も完了したし、しばらくはゆっくりしよう……。


 そんなことを思っていたら……。


「せーんぱい」



 不意に後ろから声をかけられる。

 振り返らなくても、誰かがすぐ分かった。


「朱里……」


 幼馴染の朱里は後ろに手を回して、ゆっくりと俺の方に近寄ってくる。


「一体なんのつもりだ? 俺には関わらないでくれと言ったばかりだ。まだいちゃもんを付けてくるつもりなら、俺にも考えが……」

「先輩にどうしても伝えたいことがあって」


 朱里は俺の言葉を遮って、こう続けた。



「やっぱりわたし、先輩のことが大好きみたいです」



 ——!


 予想外のことを言われて、一瞬言葉が詰まってしまう。


 だが。


「……なんの冗談だ。いくらなんでも笑えなすぎだぞ」


 なんとか考えて、そう言葉をひねり出した。


 なにも返さなかったから舐められてつけこまれると思ったからだ。

 それくらい、今の俺は朱里のことを警戒している。


「冗談なんかじゃありませーん」


 朱里の憎たらしい声。


「わたし、気付いたんです。今までわたしが先輩にちょっかいかけていた理由を」

「…………」

「多分、わたし。先輩のことが好きだったんです。それで他の女の子に取られたくなかったから、こんなことをしていたんだと思います。

 二組のことを手伝ったのも、先輩に振り向いて欲しかったからです。先輩の邪魔をすれば、きっとわたしの方を振り向いてくれるから……そうしてたんです」

「まあ確かに振り向きはしたな」


 しかしそれは『好意』で振り向いたのではなく、虫がいたから仕方なく振り向いたようなものだ。


「正直……超迷惑だった」

「ですよね。だからわたし、先輩に嫌われちゃうんですよね」


 ……なんのつもりだ?


 こんな素直な幼馴染の姿を見たのは初めてかもしれない。


「また結婚を前提に付き合ってください、なんて言うつもりか? 何度も言うが、未来永劫それを受けることはないと思うぞ」

「もう言いませんよ。わたし、先輩にいっぱい迷惑かけちゃいました。もうそんなことをする資格なんて……()のわたしにはないですから」

「そ、そうか。ちょっとは考えを改めたみたいじゃないか。だが、絶縁宣言は覆すつもりはない。俺は疲れた。じゃあな」


 これ以上なにかを言われる前に退散しておこう。

 なんかこいつの言葉を聞いていると、頭がグルグルしてくるのだ。


 俺は朱里の前から去ろうと、足を一歩踏み出す。


「先輩。最後に一つだけ、言わせてください」


 矢先、朱里の真剣な声音。


「……聞くだけ聞いてやる」


 それがせめてもの、幼馴染への情けだと思うから。


「目を瞑ってください」

「目を?」


 またこいつはなにを言い出すつもりだ?

 もしや……目を瞑っている間に、なにか攻撃を仕掛けてくるつもりか!? 暗殺か? こんな平和な日本で、俺を殺すつもりか?


 こいつがなにをするつもりか全く読めず、俺は混乱していた。


「どうしてそんなことを——っ!」


 目は瞑らなかった。

 気付けば、朱里の顔が目の前まで迫ってきて……。



 そのまま、彼女は俺の頬にちゅっとキスをした。



 思考が停止する。


「宣戦布告です。ぜーったい、これから先輩のことを振り向かせてあげますからねっ!」


『あっかんべー』と舌を出して、朱里は小走りで俺から離れていった。

 彼女の背中がだんだん小さくなっていく。


「結局なんだったんだ……あいつ」


 しかしあいつも成長したようだ。

 俺の説教がとうとう効いたのか? いや、朱里に限ってそれはない。きっと今のキスもただの気紛れだったのだろう。


「だが……自分のミスを認められるようになったのは、大きな成長と言えるかもしれないな」


 すっかり朱里の姿は夜の闇に溶け込んで、見えなくなっていた。


 宣戦布告か……。


 やれやれ。どうやら俺はとんでもないヤツを敵に回してしまったらしいな。

 俺がどれだけ叩きのめしても、あいつはきっと諦めないだろう。なんせあいつは諦めが悪く、しつこい女だからだ。


 そういう彼女が嫌いだった。

 だから絶縁したのだ。


「……まあ俺を振り向かせるなんて不可能だと思うけどな」


 しかしその宣戦布告、受けてやろうじゃねえか。

 せいぜい無駄な努力をしてみるがいい。

 もしかしたら、俺も振り向くまでは至らなくても、ちょっと彼女を視界の片隅に入れるくらいになっているかもしれないからな。


 これが俺と朱里の関係性なのだ。

 朱里が迫ってきて、俺が逃げる。


「そういや……せっかくだから言い返してやればよかったな」


 最後に朱里にこの台詞を吐き捨ててやればよかったのだ。



 俺はお前から逃げ通してみせる……と。



 だからな、朱里。

 追いかけられるもんなら、追いかけてみろってんだ。

これにて完結です。

今までお読みいただきありがとうございました。


よろしければ新作はじめていますので、下記のリンクからどうぞです〜。


「無能はいらない」と言われたから絶縁してやった 〜最強の四天王に育てられた俺は、冒険者となり無双する〜

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― 新着の感想 ―
[一言] 朱里ちゃんがこうなる前に優のお母さんがどうにかアドバイスをしてあげられらなかったのかなって思っちゃう
[一言] 流行りにのったのはいいけど、なんか飽きてきちゃったな~ って感じでしょうか? なんとなく気持ちはわかりますけどw 自分が書きたいものをかけばいいと思うので今後も創作活動頑張ってください。
[気になる点] つまらんかった。ザマァ成分微量すぎる
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