38・文化祭開幕
そしてとうとう文化祭当日になった。
「おお、看板もすごくキレイに作られてるじゃないか」
『二年一組 サンドイッチ屋』と書かれている看板を見上げて、俺はそう口にした。
「私がやりました……!」
市川がドヤっている。
彼女にこういう特技もあったなんてな。
「しかも調理器具やエプロンもしっかり準備できている……! これはビラか? お客さんがすぐにでも寄ってきそうだな」
「それは私が用意したぞ。なんとかして二組に勝ちたいとな」
どうやら北沢も頑張ってくれたようだ。
みんな、岸川から例の話を聞いてやる気になっている。
俺の作るサンドイッチがどれだけ旨かろうとも、集客できなければ意味がない。
しかし店構えや宣伝ビラを見て、俺はほっと一安心するのであった。
そして文化祭が開幕。
「いらっしゃいませー! 美味しいですよー!」
北沢が店から出て、お客さんの呼び込みをしてくれている。
「お……なんか可愛い子だな」
「ちょっとオレ、買いに行ってみるわ」
「お前はナンパしたいだけだろうが」
「おいおい。奥でサンドイッチを作っている子達もみんな可愛いぞ」
「吾妻高校はレベルが高いな〜」
文化祭は一般開放されている。
そのため、近隣住民や他校から来る生徒も来るのだ。
次から次へとお客さんが押し寄せてきた。
「う、うめええええ! なんだ、このサンドイッチ!」
「高校生のレベルじゃねーぞ」
「売り子の女の子も可愛いし……全く、最高じゃねえか!」
「他のヤツ等にも教えてやらないと!」
うむ。
評判は上々のようである。
さらに口コミがだんだんと周囲に広がっていき、気付けば一組の『サンドイッチ屋』は行列を作る人気店となっていた。
「わっ! 人がいっぱい来るよー!」
小鳥遊が焦っている。
店の前には行列ができている。
しかし……サンドイッチを作れるのは、実質俺一人だけだ。
もちろん他の人達も手伝ってくれてはいるが、到底間に合わない。
どうしてもお客さんを待たせてしまう時間が生じてしまう。
「お客さんの回転率が悪いな……」
そうこうしているうちに。
「美味しいサンドイッチと聞いて期待してたんだが、さすがにこれ以上は待てない」
「他のとこ行こー。時間の無駄だよ」
行列から何人かが離脱してしまった。
「ま、まま牧田君! 大丈夫でしょうか……?」
それを見て、市川も不安がっている。
しかし。
「大丈夫。ここまでは予想通りだ」
俺達は高校生。
バイトをしている人もいるが、そもそも接客に不慣れなヤツの方が多いのだ。
「だが……これ以上に魅力的なコンテンツがあったら、お客さんは待ってくれるはずだ」
「魅力的な……? も、もしかして……やっぱりあれを着ないといけないんでしょうか?」
市川が顔を歪めた。
「ああ……このままじゃ二組に負けてしまう。頼めるか?」
「分かりました。私だって、ここまで来て二組なんかに負けたくありませんからね。他の女の子達にも言ってきますね」
しかし渋々市川は了承し、その場から離れた。
市川が周りの女子達に耳打ちすると、彼女達は店から離れていく。
一人……また一人。
あっという間に女の子達が全員この場から離脱し、俺達男連中だけが残されてしまった。
「優! すぐに戻ってくるからな!」
「それまでなんとか持ちこたえてね!」
「早く……着替えます!」
北沢と小鳥遊、市川がそう言い残して校舎の方へ消えていった。
正直、このタイミングでの一時離脱は厳しい。
しかし……少しだけでも持ちこたえれば。一組の出店はさらなるお客さんで溢れかえるだろう。
俺はさらに気合を入れ直し、サンドイッチを作りながら彼女達を待った。
◆ ◆
そしてしばらくして……。
「「「おまちどおさま!」」」
女子達が一斉に店の方に戻ってくる。
「「「おおおおお!」」」
その女の子達の姿を見て、男子から興奮の声が上がる。
それは周囲のお客さんも同じであった。
「あの子達……メイド服?」
「メッチャ可愛いじゃないか!」
「メイドに接客してもらいたい……! 僕、あそこに並ぶよ!」
「おい、ちょっと待て。オレだって……」
お客さん……特に男共が一組の出店の前に並ぶ。
そう……これが俺達の用意した第二の秘策。
『クラスの女子達にメイド服姿になってもらって、お客さんの満足度を上げよう!』
作戦である!
「優……変じゃないかな?」
「こういうヒラヒラしたの着ると、なんだか落ち着かないね」
「恥ずかしいです……」
北沢と小鳥遊、市川の三人が俺の前に立つ。
もちろん彼女達もメイド服だ。
黒のワンピースに白色のエプロン。頭にはカチューシャを付けていて、なんとも可愛らしい。
「おお……! 三人とも可愛いぞ。正直想像以上だった」
「そ、そうか!? 優にそう言ってもらえて嬉しい」
「よーし、ボク。頑張っちゃうよー!」
「私も!」
クラスの女子達が売り子、ビラを配る係、行列を作っているお客さんの話し相手……とそれぞれの持ち回りへと移動した。
よし!
メイド目当てに来るお客さん。
長い行列だろうとも、彼女達が雑談してくれているおかげで、お客さんがさっきみたいに離れない。
俺の作戦は的中だったようだ。
「後は俺が頑張るだけだな。俺の腕……持ってくれよ!」
しかし何度も何度もサンドイッチを作ることによって、スピードが速くなってきた気がする。
『慣れ』の部分が大きいのだろう。
これも全て計算通りだった。
口元に手を当てると、無意識に俺は笑みを作っていた。
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