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33・文化祭の出し物

 中間テストも終わり、落ち着いてきた頃くらいに文化祭が行われる。

 これ以上引っ張ると、三年生の受験勉強が本格化してくるからだ。


 というわけで、俺達のクラスもなにをするか決めることになったが……。



「なにする?」



 放課後。

 クラスの文化祭実行委員の女の子が教壇に立ち、みんなにそう呼びかけた。



「演劇とかはどうかな?」

「えー嫌だよー」

「演劇は恥ずかしい」

「無難に出店を出しておけばいいんじゃないか?」



 みんなが各々話し合っている。

 しかしなかなか意見はまとまらないようだ。


「では投票を取ります。演劇か出店……」


 一斉に投票が行われ、俺達のクラスは『出店』をすることになった。


 ちなみに俺も出店に一票入れた。

 演劇なんて性に合わないし、それなら出店で適当に売り子でもしている方が楽だと思ったからだ。



「でもなにを出すかが重要だよね?」

「僕達でも作れるものか……食べ物だよね?」

「当然」

「ならお好み焼きとかどうだ?」

「いーや……お好み焼きも難しいと思うぜ。火も必要になってくるしな。それだったら……」



 うーん、やはりなかなか一つに絞りにくい。


 ちなみに俺はみんなに合わせるつもりだ。特になにかをしたいという意見はない。


 それからみんなでしばらく話し合っていた。


 そんな中。


「サンドイッチとかどうかな?」


 と小鳥遊が手を挙げ、意見を言った。


 すると。



「サンドイッチ……いいじゃん!」

「簡単そうだしね」

「おっ洒落〜」



 とみんなが小鳥遊が言った『サンドイッチ』という方向に傾きつつある。

 サンドイッチというのは無難な選択だろう。


 やがて文化祭実行委員の女の子がパンパンと手を叩き、


「決まりだね。じゃあウチのクラスはサンドイッチにしよう。反対意見がある人は−?」


 促すが、誰からも飛び出してこない。


 そのまま俺達のクラスは『サンドイッチの出店』というわけで、意見が固まった。


「じゃあ……話し合いは終わり! 明日から本格的に準備を始めよう」

「「「はーい」」」


 放課後の話し合いが終わり、みんなが散り散りになった。


「小鳥遊」


 みんなが帰り支度や部活に行く準備を始める中、俺は小鳥遊に話しかけてみた。


「サンドイッチとはなかなかいいじゃないか。前から考えていたのか?」

「今思いついたんだよ! ボクに良いアイディアがあってね」

「良いアイディア?」

「うん!」


 小鳥遊は自信満々に。


「『焼きそばサンドイッチ』! それを作ってみんなの前に出そう!」

「却下だ」

「がーん」


 小鳥遊が崖から突き落とされたような、絶望の表情を作る。そんな顔、しなくてもいいのに……。

 焼きそばサンドイッチってなんだよ。爆死する未来しか思い浮かばないぞ。


「お前が食べたいだけだろ」

「へへ。バレちゃったか」


 小さく舌を出す小鳥遊。

 焼きそばうんぬんはともかく、サンドイッチなら俺でも調理に参加できそうだな。

 今から文化祭が楽しみだ。


「……ん?」


 何気なく教室を眺めていると、片隅でぽつーんと座っている女の子を見つけた。


 あれは……。


「どうした、岸川。なんか表情が暗いようだが?」


 文化祭実行委員の女の子、岸川だ。

 さっきまで教壇に立って、みんなを仕切ってたというのに……どうしてそんなに元気がないんだ。


「牧田君」


 岸川が俺に気付き、顔を上げる。


「サンドイッチが嫌だったのか?」

「ううん、そういうわけじゃないよ。サンドイッチは良いアイディアだったと思う。だけど……」

「だけど?」

「…………」

「言いにくいことなら無理して言わなくてもいいが、同じクラスメイトとして聞かせて欲しいな。なにか解決できることかもしれないし」


 岸川がはっと目を大きくした。

 自分で言っておいてなんだが、俺らしくない発言だったな。言ってから少し後悔する。


 しかし人間というものは助け合いが肝心だ。

 そのことを、俺は北沢と朱里の一件で学んだ。


 それに朱里と絶縁してから、俺も積極的になってきている。

 岸川が暗い顔をしていて、とてもじゃないが、見過ごすことができなかったのだ。


「実は……」


 とつとつと語り始める岸川。


「隣のクラスも文化祭で出店をやるらしいんだけど、なにをするか知ってる?」

「さあ……あんまり他のクラスには興味ないしな」

「ケーキを出すらしいよ」

「ケーキ?」


 一高校生にしては難易度が高いように思える。

 だが、それだけで岸川がこれだけ暗い顔をするのが分からない。


「それのなにが心配なんだ?」

「私、文化祭実行委員として、最近よく委員の話し合いに参加するんだけど……その時によく、隣のクラスからウチのクラスの悪口を言われてね」

「はあ? どうしてそんなこと、言われなくちゃならないんだ」


 問いかけると、岸川は少し言いにくそうにしてから、


「えーっと、その……どうやら隣のクラスの人達は牧田君のことが気にくわないらしいよ」

「お、俺のせいか?」


 予想だにしていないことを言われ、つい前のめりになってしまう。


 しかし岸川は「そ、そんなことないよ!」と顔の前で手を振り。


「ただ……牧田君に嫉妬しているだけだと思う。ほら、牧田君。カッコいいし運動神経抜群、勉強もできるから……だから気にくわない人がいるんじゃないかな」

「とんでもない逆恨みだな」

「だね」


 岸川が頷く。


「それで……よく言われてるんだ」


 その時の会話を、岸川は細かく喋ってくれた。



『お前等、牧田一人だけのクラスだろ? 調子に乗ってんじゃねえよ』

『調子になんか乗ってないよ。あなたもただ嫉妬しているだけじゃないの?』

『はっ! 誰が嫉妬するかよ。あんな見てくれだけいい男に』

『ならどうしてそんなことを言うの?』

『気にくわねえんだよ。全く……あいつに女共がきゃーきゃー媚びやがって。見てろよ。次の文化祭で目にもの言わせてやる。あの牧田とかいう野郎をぎゃぷんと言わせてやんよ』



「目にもの言わせてやる……って。文化祭はそういうもんじゃないだろうに」


 酷く私怨が混じっているように思えるな。


 それにしても何故文化祭に照準を絞ったのだろうか? 

 なにか勝算でもあるんだろうか。


 だが、それよりも……。


「普通そんなに敵対心を燃やすものか? 違和感があるんだが……」

「実は隣のクラスの文化祭実行委員の男の子、私と幼馴染なんだ」

「……!」


 幼馴染。

 その単語を聞いただけで、心臓がきゅっと縮み上がる思いがする。

 否応がなしに朱里の顔を思い浮かべてしまうからだ。


「小さい頃からよくちょっかいをかけられていた。だから今回もその延長線上で、私達のクラスのことを悪く言うんだと思う」

「……最悪なヤツだな」

「牧田君もそう思う?」

「ああ」


 その男がなにを考えているか分からないが、実際岸川が不快な思いをしているなら、今すぐ止めた方がいい。


 だが、こういうヤツには言葉でいくら言っても治らない。

 そのことを俺は朱里で嫌というほど学んでいるのだ。


 ……仕方ないな。


「……はあ」


 溜息を吐いて、俺はこう続けた。


「じゃあ文化祭でそいつのことを見返してやろう。俺達の方が人気の出店を作ることができれば……そいつも考え方を改めるはずだ。お前へのちょっかいも少しはマシになると思う」

「そうかな?」

「まあただ文化祭を楽しむだけも、ちょっと退屈だからな。こういう競争要素があった方が俺も燃えるし」


 勢いでそう言ってしまったが、参ったな。

 俺はただ無難に文化祭を過ごすつもりだったというのに……しかし今の話を聞いて、そういうわけにもいかなくなった。


 幼馴染に不快な思いをさせられている岸川。

 彼女の思いを、どうしても晴らしてやりたかったからだ。

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[一言] あれ?岸川の幼馴染って、男版朱里じゃね?
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