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30/42

30・目立たないようにしていたが、また騒がれた

 中間テスト当日となった。


 今回のテストは現代文(+古文)、英語、数学、日本史、化学の五つが実施される。

 五教科で500点満点のテストだ。まあ一年生の時もほとんど同じだったから、今更焦る必要もないが。


 テストを終えて、


「どうだった?」


 俺はまず小鳥遊に話しかけた。


 彼女は机に突っ伏して、頭から蒸気を出している。

 茹で上がったタコみたいになっていた。


「疲れたよぉ……」

「そうか。まあ疲れたってことは、力の限りを尽くしたということだろう。手応えはどうだ?」


 小鳥遊は机に頬を付けたままで、親指を上げた。


「完璧! 優に教えてもらったしね。40点は固いと思う!」

「おっ、良かったじゃないか」


 40点は別に高くないと思うが……まあそれをいちいち指摘しても仕方がない。


「優」

「牧田君」


 小鳥遊と会話をしていると、北沢と市川も近寄ってきた。


「おお、二人とも。その表情だったら、二人も手応えを感じてそうだな」

「うむ。やはり、優達と勉強会を開いていたのが良かったのだろう。いつも以上に力を出せたような気がするよ」

「私もです……! 牧田君には感謝しかないです」


 どうやら二人もテストのできは上々だったようだ。


「優はどうだった?」

「俺か? うーん……まあまあだったかな。いつも通りだ」

「そうか。あれだけ教えるのが上手いんだからな。優もきっと良い点数だと思うんだが……」

「買いかぶりすぎだ。俺はいつも通りやっただけだ」


 そう……()()()()()な。


 やはりというか、二年生に上がってテストの難易度も上がっていた。

 しかしだからといって、慌てずに取り組めたと思う。

 後は人事を尽くして天命を待つとやらだ。


「テストの結果が楽しみだな」


 俺が言うと、三人は一様に頷いた。



 ◆ ◆



 一週間が経過して、やっとのことで全教科の答案が返ってきた。


「やったよ、優! ボク……赤点じゃなかったよ!」


 小鳥遊が嬉しそうに答案用紙を見せつけてくる。


 全て『35点』とか『42点』というような点数であった。

 しかしそんな表面上の点数より、自分の目標を達成したことが重要であろう。


「おお、すごいじゃないか。小鳥遊はやればできる子だな」


 だから褒めてあげた。


 すると。


「優の教え方が上手かったからだよ! 本当にありがとねっ!」


 彼女は俺の両手を握って、ぶんぶんと振ってきた。


 とはいえ、自分の目標点数に達したのは小鳥遊の努力があったためだ。俺のためではない。

 やっぱり努力家だな、小鳥遊は。


 ガヤガヤ……。


「ん……?」


 なにやら教室が騒がしい。

 どうしてだ?


「どうしたんだろう?」

「え……優は聞いてないの?」

「なにがだ」

「二年生になってから、テストの順位表がみんなの前に張り出されるんだよ。もうどこのクラスもテスト、返ってきたと思うし……この様子だったらもう張られているみたいだね」


 なんと。

 先生達がそんなことを言っていたような気もするが、ちゃんと聞いてなかった。


 それにしても参ったな……。

 順位表が張り出されるとなったら、困ることがあるじゃないか。


「優。早速見に行ってみようよ! 昇降口のところの掲示板に貼られてると思うからさっ!」

「お、おい。手を引っ張るなって……」


 小鳥遊と一緒に俺達は昇降口に向かった。


 掲示板の前には既に人だかりができていた。

 うむ……やはり張り出されているようだな。その前にこそっと帰りたかったが……それは叶わなかったようだ。


「優!」

「北沢も来ていたのか。おっ、市川も」


 どうやら二人は一足早く、順位表を見に来てたようだ。


 俺の姿を見るなり、北沢が駆け寄ってきて。


「ゆ、優はまだ見てないのか!?」

「ああ。今来たばかりだからな」

「じゃあ早く見てみるといい!」


 俺は人混みの後方から掲示板に貼られた順位表を眺めた。


 ふむふむ……どうやら全員分の順位が張り出されているわけではないらしいな。

 三十位以内の人の名前が書き連ねられている。

 まあ当たり前か。


 俺が真っ先に目に入ったのは、北沢の名前である。



『29位・北沢茜  412点』



「すごいじゃないか、北沢。頭良かったんだな」

「わ、私のことはどうでもいいんだ! そんなことより……! 上位二人を!」


 褒めるが、北沢は本当にどうでもよさそうであった。

 視線を上げていく。



『2位・市川花音 481点』



「市川もすごいな。勉強会なんて必要なかったんじゃないか?」

「そ、そんなことありません……っ! こんな順位は初めてです。三位とも差を付けていますし……」


 よく見ると、三位の人とは20点もの差が付いていた。

 結構差を付けたんだな。


 さて……最後は一位を残すのみである。


 正直、ここまできたら結果は分かりきっているので、この場から逃げ出したかった。

 しかし北沢が俺の服の裾を掴んでいるせいで、それはできない。


 俺は諦めの溜息を吐きながら、一位の名前を見た。



『1位・牧田優  493点』



「優が一番だ!」

「優、すごいじゃん!」

「牧田君……頭良いと思っていましたが、まさかこれほどだなんて……」


 三人が驚いている。


 テストは既に全教科返却されている。

 なので二位の得点が分かった時点で、俺の一位は分かっていたわけだが……改めこう名前を見ると、複雑な気分になる。


「ん? どうして優、なんか嫌そうな顔してるのさ」

「これ以上騒がれるのも面倒臭いからな」


 とはいえ、まだみんなは順位表を見ることに必死なようで、俺には気付いていないようだ。


「私……一年生の時からずっと二位だったんですけど……もしかして、牧田君。ずっと一位でした?」

「ん……まあそうだな」


 頬を掻く。


 一年生の時は順位表は張り出されず、個人に成績表が渡されるだけだった。

 なので俺が一位だということは、みんなにバレなかった。


 そういや、幼馴染の朱里のことを思い出すな。

 テストが終わるたび、いつも成績表を無理矢理奪われていた。

 そしてそれを見るたび、



『せーんぱい。やっぱりガリ勉ですね。勉強だけはできるんですね、ほんとにっ。でもみんなにこのことは言ってはいけませんよ? ガリ勉だとイジめられちゃいますから』



 と言っていた。


 あの時は納得していたのだが……今思えば、みんなの俺に対する評価を上げないためだったんだろう。

 つくづく俺をおとしめようとしてくるヤツだった。


「勉強もできるなんて……本当に優はなんでもできるんだな!」

「優の教え方が上手かったのも納得だよー」

「牧田君、あなたは本当にすごい人ですね」


 三人から賞賛された。


 その後、こいつ等が名前を連呼するものだから、周囲の人達にも俺の存在がバレて……いつも通り騒がれた。

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