30・目立たないようにしていたが、また騒がれた
中間テスト当日となった。
今回のテストは現代文(+古文)、英語、数学、日本史、化学の五つが実施される。
五教科で500点満点のテストだ。まあ一年生の時もほとんど同じだったから、今更焦る必要もないが。
テストを終えて、
「どうだった?」
俺はまず小鳥遊に話しかけた。
彼女は机に突っ伏して、頭から蒸気を出している。
茹で上がったタコみたいになっていた。
「疲れたよぉ……」
「そうか。まあ疲れたってことは、力の限りを尽くしたということだろう。手応えはどうだ?」
小鳥遊は机に頬を付けたままで、親指を上げた。
「完璧! 優に教えてもらったしね。40点は固いと思う!」
「おっ、良かったじゃないか」
40点は別に高くないと思うが……まあそれをいちいち指摘しても仕方がない。
「優」
「牧田君」
小鳥遊と会話をしていると、北沢と市川も近寄ってきた。
「おお、二人とも。その表情だったら、二人も手応えを感じてそうだな」
「うむ。やはり、優達と勉強会を開いていたのが良かったのだろう。いつも以上に力を出せたような気がするよ」
「私もです……! 牧田君には感謝しかないです」
どうやら二人もテストのできは上々だったようだ。
「優はどうだった?」
「俺か? うーん……まあまあだったかな。いつも通りだ」
「そうか。あれだけ教えるのが上手いんだからな。優もきっと良い点数だと思うんだが……」
「買いかぶりすぎだ。俺はいつも通りやっただけだ」
そう……いつも通りな。
やはりというか、二年生に上がってテストの難易度も上がっていた。
しかしだからといって、慌てずに取り組めたと思う。
後は人事を尽くして天命を待つとやらだ。
「テストの結果が楽しみだな」
俺が言うと、三人は一様に頷いた。
◆ ◆
一週間が経過して、やっとのことで全教科の答案が返ってきた。
「やったよ、優! ボク……赤点じゃなかったよ!」
小鳥遊が嬉しそうに答案用紙を見せつけてくる。
全て『35点』とか『42点』というような点数であった。
しかしそんな表面上の点数より、自分の目標を達成したことが重要であろう。
「おお、すごいじゃないか。小鳥遊はやればできる子だな」
だから褒めてあげた。
すると。
「優の教え方が上手かったからだよ! 本当にありがとねっ!」
彼女は俺の両手を握って、ぶんぶんと振ってきた。
とはいえ、自分の目標点数に達したのは小鳥遊の努力があったためだ。俺のためではない。
やっぱり努力家だな、小鳥遊は。
ガヤガヤ……。
「ん……?」
なにやら教室が騒がしい。
どうしてだ?
「どうしたんだろう?」
「え……優は聞いてないの?」
「なにがだ」
「二年生になってから、テストの順位表がみんなの前に張り出されるんだよ。もうどこのクラスもテスト、返ってきたと思うし……この様子だったらもう張られているみたいだね」
なんと。
先生達がそんなことを言っていたような気もするが、ちゃんと聞いてなかった。
それにしても参ったな……。
順位表が張り出されるとなったら、困ることがあるじゃないか。
「優。早速見に行ってみようよ! 昇降口のところの掲示板に貼られてると思うからさっ!」
「お、おい。手を引っ張るなって……」
小鳥遊と一緒に俺達は昇降口に向かった。
掲示板の前には既に人だかりができていた。
うむ……やはり張り出されているようだな。その前にこそっと帰りたかったが……それは叶わなかったようだ。
「優!」
「北沢も来ていたのか。おっ、市川も」
どうやら二人は一足早く、順位表を見に来てたようだ。
俺の姿を見るなり、北沢が駆け寄ってきて。
「ゆ、優はまだ見てないのか!?」
「ああ。今来たばかりだからな」
「じゃあ早く見てみるといい!」
俺は人混みの後方から掲示板に貼られた順位表を眺めた。
ふむふむ……どうやら全員分の順位が張り出されているわけではないらしいな。
三十位以内の人の名前が書き連ねられている。
まあ当たり前か。
俺が真っ先に目に入ったのは、北沢の名前である。
『29位・北沢茜 412点』
「すごいじゃないか、北沢。頭良かったんだな」
「わ、私のことはどうでもいいんだ! そんなことより……! 上位二人を!」
褒めるが、北沢は本当にどうでもよさそうであった。
視線を上げていく。
『2位・市川花音 481点』
「市川もすごいな。勉強会なんて必要なかったんじゃないか?」
「そ、そんなことありません……っ! こんな順位は初めてです。三位とも差を付けていますし……」
よく見ると、三位の人とは20点もの差が付いていた。
結構差を付けたんだな。
さて……最後は一位を残すのみである。
正直、ここまできたら結果は分かりきっているので、この場から逃げ出したかった。
しかし北沢が俺の服の裾を掴んでいるせいで、それはできない。
俺は諦めの溜息を吐きながら、一位の名前を見た。
『1位・牧田優 493点』
「優が一番だ!」
「優、すごいじゃん!」
「牧田君……頭良いと思っていましたが、まさかこれほどだなんて……」
三人が驚いている。
テストは既に全教科返却されている。
なので二位の得点が分かった時点で、俺の一位は分かっていたわけだが……改めこう名前を見ると、複雑な気分になる。
「ん? どうして優、なんか嫌そうな顔してるのさ」
「これ以上騒がれるのも面倒臭いからな」
とはいえ、まだみんなは順位表を見ることに必死なようで、俺には気付いていないようだ。
「私……一年生の時からずっと二位だったんですけど……もしかして、牧田君。ずっと一位でした?」
「ん……まあそうだな」
頬を掻く。
一年生の時は順位表は張り出されず、個人に成績表が渡されるだけだった。
なので俺が一位だということは、みんなにバレなかった。
そういや、幼馴染の朱里のことを思い出すな。
テストが終わるたび、いつも成績表を無理矢理奪われていた。
そしてそれを見るたび、
『せーんぱい。やっぱりガリ勉ですね。勉強だけはできるんですね、ほんとにっ。でもみんなにこのことは言ってはいけませんよ? ガリ勉だとイジめられちゃいますから』
と言っていた。
あの時は納得していたのだが……今思えば、みんなの俺に対する評価を上げないためだったんだろう。
つくづく俺を貶めようとしてくるヤツだった。
「勉強もできるなんて……本当に優はなんでもできるんだな!」
「優の教え方が上手かったのも納得だよー」
「牧田君、あなたは本当にすごい人ですね」
三人から賞賛された。
その後、こいつ等が名前を連呼するものだから、周囲の人達にも俺の存在がバレて……いつも通り騒がれた。
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