28・中間テストが近付いてきた
北沢と朱里の一件。小鳥遊との映画鑑賞。市川と読書会……。
こうして並べてみると、いかに最近が充実してたか、しみじみと分かるな。
しかし時が過ぎるのも早いもので、俺達学生にとっての一大イベントが始まろうとしていた。
「中間テストか……」
二年生上がって、初めての試験である。
周りでは、
「うげえー、そろそろテストか……」
「赤点取らないように気をつけないとな」
「あーあ……テストなんて、なくなってしまえばいいのに」
と迫り来るテストに対して恐れを抱いていた。
だが、俺はこのテストというものをどうしても嫌いになれない。
そもそも学生の本分は勉強だ。こんな時、普段遊びほうけている人間だけが堕ちていく。
それにテストの時は一斉に部活動も禁止になる。そのおかげで学校が普段よりも静かになるのだ。
静寂と平和を愛する俺にとって、このような状況は好ましい。
「優」
そんなことを考えながら、昼休みを過ごしていると。
北沢茜が話しかけてきた。
言わずもがな、俺と疑似彼女の関係にある女の子である。
「どうした?」
「実は君に頼み……というか提案があってな」
「提案?」
「うむ。も、もしよかったら、私と一緒にテスト勉強をしないか?」
意を決したように北沢が言った。
「別にいいが……」
「ほ、本当か!?」
北沢がパッと表情を明るくする。
まあ断る理由もないしな。
それよりも……。
「いきなりどうしたんだ。北沢なら別に一人でも勉強できるだろう?」
北沢は部活も勉強も一生懸命な女の子だ。
俺に頼らなくても、一人で黙々とストイックに勉強するタイプに見えるが……?
「確かに今まで一人で勉強してきた」
「だったらどうして?」
「しかし……それだけでは壁を感じるのだ。私はもっと上を目指したい。優と勉強すれば、それが達成できるような気がするのだ。というわけで……お互い高め合いながら、勉強しないか? ……ということなのだ」
「なかなか殊勝な心がけだな。まあどちらにせよ喜んでお受けするよ。こういう機会も貴重だと思うしな」
「そ、そうか! ありがとう!」
北沢が俺の手を握ってくる。
「では早速今日の放課後とかにでもどうだ?」
「いいな。図書室にでも行って勉強するか」
「うむ。では頼む」
そう言って、北沢が俺から離れていった。
女の子と勉強会か……夢のようなイベントだな。
北沢みたいな可愛い女の子と一緒にいたら、勉強に集中できないんじゃないか?
……いや、この程度で動揺していてはダメだ。
『心頭滅却すれば火もまた涼し』という言葉もある。
たとえ女の子が隣にいようとも、俺は立派に勉強を成し遂げてみせよう。
「あっ! 良いところにいた。優!」
放課後の勉強会のことを考えていると、今度は小鳥遊が寄ってきた。
「どうした?」
「今日は優にお願いがあるんだ! お願い!」
小鳥遊はパチンと手を合わせて、
「ボクに勉強を教えて!」
と声にした。
「はあ?」
小鳥遊が手を合わせて、苦い表情を作っている。
「いきなりどうしてまた……」
「ボク! 勉強、苦手なんだ!」
「いや……それは見ていれば、なんとなく分かるが」
「がーん」
「そう落ち込むなって」
無論ではあるが、小鳥遊とは同じクラスだ。
一緒に授業を受けているため、彼女がよく教師からの質問に答えられないことはチェック済みだ。
そのことから、小鳥遊が決して勉強が得意な方でないことは、なんとなく察しが付いていた。
「つ、次のテストもこのまま行くと赤点を取っちゃうかもしれないんだ! もう優に頼るしか、ボクはこの学校で生きていけない!」
「大袈裟だな」
「大袈裟じゃないよ! それで……優、どうかな。ボクに勉強を教えてくれる?」
「別に良いぞ」
「ほんと!?」
小鳥遊が近くの机をバンと叩いて、顔を近付ける。
「どうせながら賑やかな方が楽しいと思うしな」
「そうだね! 楽しく勉強しよー!」
「決まりだな。じゃあ今日の放課後とかどうだ? 図書室で」
「良いよー! ありがとね!」
そう取り決めて、俺から離れていく小鳥遊。
さて……放課後の勉強会のメンバーがこれで俺を含め三人になった。
まあ一人増えようが、特に変わらないだろう。いつもの俺でいけばいい。
「牧田君……」
そうこうしていると、今度は市川が寄ってきた。
「先日の読書会はありがとうございました」
「こちらこそだ。楽しかった」
「はい……! また行きましょうね」
それにしてもあれだな。
なにか市川も喋りたそうだ。
……はっ!
このパターン……俺の勘が告げている!
先回りで言ってみるか。
「よかったら、市川も放課後一緒に勉強するか?」
「!」
市川の肩がびくんっと震える。
「わ、私も同じことを言おうと思いました……! 牧田君と一緒に勉強したいと思いまして」
「おう。市川の考えていることはお見通しだ」
「すごいです、牧田君! まるでエスパーみたいです!」
「それはさすがに言い過ぎだと思うが……」
北沢と小鳥遊の時と同じような雰囲気を感じ取ったしな。
市川は嬉しそうである。
「それにしても……どうして市川は俺と?」
「!!」
さっきよりも市川の肩が大きく跳ねた。
「ま、牧田君と一緒にいたら集中できるかなって思って……! 一緒にいたいといいますか……」
「市川は誰かが近くにいた方が、集中できるタイプなのか?」
「いえ……普段はそうでもないんですが、牧田君だけは特別と言いますか……」
もじもじする市川。
何故か歯切れが悪いな。
「じゃあ放課後、図書室で待ち合わせな」
「はい……! 二人でお勉強頑張りましょうね」
「二人? おい、市川……」
呼びかけるが、その時には市川は背を向けて走り去ってしまった。
そういや、北沢と小鳥遊がいることを伝えるのを忘れていた。
まあいっか……彼女も俺と二人きりは気まずいかもしれない。他に女の子がいた方が喜ぶだろう。
◆ ◆
こうしてあっという間に放課後がきた。
俺達は図書室に集まったのだが、
「どうして、優と二人きりじゃないんだ!?」「どうして、優と二人きりじゃないの!?」「どうして、牧田君と二人きりじゃないんですか!?」
集まった北沢、小鳥遊、市川の三人に詰め寄られた。
みんな、俺と二人きりの方が良かったのか!?
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