表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/42

27・読書会

 時が過ぎるのも早いもので、あっという間に土曜日になった。

 駅前で市川と待ち合わせたわけだが……。


「ま、牧田君。眼鏡!?」


 俺を見るなり、何故だか市川は驚いて目を見開いた。


「変かな?」

「へ、変じゃないです! でも牧田君の眼鏡姿、初めて見るから……目、悪かったんでしたっけ?」

「いや、悪くはない。両目とも一・五だ」

「それじゃあどうして?」

「賢く見えるかなと思って」


 くいっと人差し指で眼鏡を持ち上げた。


 そう。今日の俺は黒縁の伊達眼鏡を付けている。


 どうしてこんなことをしているのか?


 決まっている。

 今日の読書会に備えてのことだ。


「今日は本好きのヤツ等が集まってくるんだろう?」

「はい」

「だったら、まずは見た目から入ろうと思って。本好きって賢そうな人が多いイメージあるからな。こうすれば読書会にも溶け込めるかな……って」

「本好きの人達にどんな偏見があるんですか!?」


 市川にツッコミを入れられた。


 だが、備えあれば憂いなしだ。

 実を言うと、自分の眼鏡姿もまあまあ気に入ってしまった。

 たまには積極的になろう……と思って、自分からファッションとして取り入れたつもりだが、果たしてこれが吉と出るか凶と出るか。


「と、取りあえず、待ち合わせ場所に向かいましょうか」


 俺達は隣り合って、読書会の会場に歩き出した。


 ちなみに……読書会は喫茶店の二階を貸し切って、そこで行われるらしい。

 朱里と一悶着あった喫茶店だ。

 あそこには少し苦い思い出もあるが……あれから、喫茶店の店長とは仲良くなって、よく利用させてもらっている。


「でも……牧田君の眼鏡姿、初めて見るから新鮮で……カ、カッコいいですね……」


 歩いていると、市川が突然耳たぶまで顔を真っ赤にして言った。


「そうか? そう言ってもらえると嬉しいが」

「うん……なんかインテリジェンスで」

「市川も良い感じだぞ。いつもの制服とは違って、なんだか新鮮だ」

「ほ、ほんとですか!?」


 市川が嬉しそうな顔になった。

 休日とうこともあって市川も私服だ。彼女らしい淡くて春らしい服でとても似合っている。


「あ、ありがとうございます……! 牧田君にそう言ってもらえて、とても嬉しいです!」


 と市川は花が咲いたような笑顔になって喜ぶのだった。



 ◆ ◆



 喫茶店に到着。

 早速二階に上がると、既に読書会の参会者らしき人達が集まっていた。

 各々で楽しそうに喋っている。


 十人くらいだろうか……?

 参加者の人数もそれくらいだと聞いていたし、どうやら俺達は集まるのが最後の方だったらしい。


「……どうすればいいんだろう」

「ど、どうしましょう! 輪に入りにくいです……!」


 二人で途方に暮れる。

 そうしていると、一人の女性が近付いてきて、


「こんにちは」


 と俺達に挨拶をした。


 上下スーツを身にまとっていて、落ち着いた雰囲気のある大人の女性である。


「初めまして。初めて読書会に参加させていただきました牧田と言います。高校生です」

「い、市川です。牧田君と同じ学校に通ってます」

「初めまして。そんなに肩肘張らなくても大丈夫だよ。可愛いけど」


 女性は快活に笑う。


「もっと気軽にしてればいいから。そんなに大したこともしてないしね〜。各々、自分の好きな本について話すだけの緩い集まりだから。牧田君と市川さんはどんな本が好きなのかな?」


 女性は興味津々に目をくりくりさせた。


「私は……幅広く読みますね。純文学から文芸まで。最近ではライトノベルも読んでいます」

「いいね〜。読書家だね。牧田君は?」

「俺はもっぱらラノベで……」


 バカにされないだろうか?

 いや、ラノベというのは日本が誇る文化だと思う。漫画に比べたらイラストも少ない中、文字だけで読者の想像力を膨らませる術は他のメディアにない特徴だ。


 しかしやはりラノベというのは『オタク趣味』として、下に見られる傾向がある。


 身構えていると……。


「いいね! ラノベ、私も好きだよ!」

「そうなんですか?」

「ラノベ以外も読むけどね〜。それにしても、君みたいなカッコいい男の子もラノベなんか読むんだね」

「カッコいい……俺がですか?」

「あれ、自覚なかった? こんなカッコいい男の子が読書会に来てくれて、私も嬉しいよ」


 じろじろと頭の天辺からつま先まで視線を移動させる女性。


 ……なんだか、じっとりとしていて怖いぞ。


「ま、牧田君を狙っているんですか? そんなこと、私が許しませんからっ!」


 しかし俺を取られるとでも思ったのか。

 市川がすぐさま俺の右腕に抱きついて、女性から遠ざけようとした。


「そ、そんなことないさっ。いくら私が独身で彼氏がいなかったとしても、高校生に手を出すわけが……ね。うん。きっとそんなことはない。高校生に手を出すのは、いくらなんでもさすがにヤバい。そうなんだ、ヤバい……ヤバい……」


 女性は自分に言い聞かせるように、何度も繰り返していた。


 この女性……優しそうに見えたけど、ちょっと癖のある人物のようだ。気をつけよう。



「あっ、初見さん〜」

「いらっしゃーい。読書会に」

「僕達とも喋ろうよ!」



 それから流れがつかめたのか、次から次へと人が俺達のところに集まってきた。

 ラノベに偏見が持っていると思っていたが……どうやらそうでもないらしい。


 中には俺以上のラノベ好きもたくさんいて、非常に楽しい時間が過ぎていった。



「では! 今日の読書会はここで終わりにしたいと思いまーす」



 おっ、もうそんな時間か。

 やがて規定の二時間はあっという間に過ぎたのであった。


 読書会のリーダーらしき人——って、最初に俺に喋りかけた女性の人だったのか——が会の終わりを告げると、ぱちぱちと拍手の音が響いた。


「あっ、そうそう。もうみなさん、喋ったと思うけど、今日は初めての人が二人来てくれました。牧田君と市川さんです。是非二人とも、今後も読書会に参加してくれたら嬉しいですー」


 順番が逆のような気がするが……俺達の紹介がされる。

 まあみんな優しくて、喋りかけてくれる人も多かったしな。おかげで比較的人見知りの俺でも、色々な人と喋ることができた。


 それから市川と会場の喫茶店を後にした。


「あの……楽しかったですか?」


 市川は恐る恐るといった感じで俺に問いかけてくる。


「ああ、楽しかったぞ」

「良かった……! もしそうじゃなかったら、誘った身として申し訳ないといいますか……牧田君が楽しんでくれて幸いです!」

「また二人で行こうぜ」

「はい……! 是非!」


 次の読書会はまた来月に行われるらしいしな。


 参加者と喋っていると、他のジャンルにも興味が湧いてきた。

 それまでにラノベ以外の本も読んでみるかな。


 今日みたいに大人の人と喋るのも貴重な経験だし、実に有意義な時間であった。

【作者からのお願い】

「更新がんばれ!」「続きも読む!」と思ってくださったら、

下記にある広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして評価していただけますと、執筆の励みになります!

よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ