25・さらに人気者になってしまった
「おはよー」
ある日、いつも同じように学校に登校してきた時であった。
ガヤガヤ……。
ん?
なんか教室が騒がしいような気がするぞ。
先に登校していた小鳥遊が俺を見かけるなり、
「優!」
と慌てて駆け寄ってきた。
「お、おう。おはよう。今日も良い天気だな」
「おはよ! ……ってそうじゃないよ! 優は今朝の新聞見てないの?」
「新聞か? 俺の家、新聞取ってないし」
「じゃあ見せてあげる!」
小鳥遊が新聞紙を広げる。
前、インタビューを受けた新聞記者の松本さんの会社だな。
そこには……。
『お手柄高校生! ひったくり犯捕獲!』
どでかい見出しが載っていた。
「……はあ?」
思わず間抜けな声が出てしまう。
「ちょ、ちょっと小鳥遊。もっと詳しく見せてもらってもいいか?」
「うん」
俺は小鳥遊から新聞を受け取り、記事を読んでいった。
一面……というわけではさすがにないが、かなり目立つところに記事が掲載されている。
あの松本さんとかいう記者……「載らないと考えていて」と言っていたが、どうやらその予想(?)は裏切られたようだ。
まあここまでは可能性が低いと思っていたが、考えられたことだ。
問題はこの後である。
『牧田優君は陸上部に所属していない。
しかしあれはまさしく、未来のオリンピック選手である。サバンナのチーターのような速さであった。
これだけの実力を見せつけてなお、牧田君は「普通のことですよ」と謙遜を忘れなかった』
「謙遜とかじゃねー!」
つい叫んでしまった。
それに……未来のオリンピック選手って!? オリンピックに出場するため、必死に頑張っている人達に失礼だろうが!
これだけでもお腹一杯だ。
だが、それだけで記事は終わっていなかった。
『また牧田君は危険を顧みずにひったくり犯を追いかけた理由について、次のように語っている。
「気付いたら体が動いていました。だってそうでしょ? 目の前で困っている人がいたら、見逃せません。人として当然のことをやったまでです」
このような高校生がいれば、日本の未来は明るいだろう』
「なんかめっちゃ美化されてるー!」
ツッコミどころ満載だ……。
俺は記事に書かれているような素晴らしい人間ではない。
それに『日本の未来は明るいだろう』……って。話が飛びすぎである。俺に日本を背負わせるな。
「は、はは。なかなか面白い記事だったな。冗句が効いている」
無理矢理作り笑いをして、小鳥遊に新聞を返す。
「なんだよ、このスーパー高校生って感じだよな。普段の俺はそんなんじゃないのに……」
と続けて口にしようとした時であった。
「優! すごいよね! まさか新聞の記事に載っちゃうなんて! めっちゃカッコいいこと言ってるじゃん!」
小鳥遊が目を輝かせて、捲し立てるように言った。
「いや……だから、これは相当美化されていて……もっと違うことを言ったというか……」
「優は人間ができてるねー。友達として誇らしいよ」
ダメだ……なにを言っても、誤解は解けそうにない。
そしてそれは、小鳥遊だけではなかった。
「牧田君! 超カッコいい!」
「吾妻高校の宝!」
「抱いて!」
周りのクラスメイトも寄ってきて、俺を賞賛してきた。
このパターン……何回目だよ。変な風に誤解されて、賞賛されるパターンは。
まあ気分は悪くないし、良いんだけどよ。
もういい加減慣れてきたしな。
しかし……今日はそれだけでは終わらなかった。
「ねえねえ。あの人が牧田君かな?」
「隣のクラスにカッコいい男子がいることはチェックしてたけど……あれは想像以上だね」
「トークのID交換してくれるかな?」
「ちょっと、ずるいわよ! 私も交換してもらうんだから!」
なんて言いながら、隣のクラス……いや、他の学年らしき女子達も教室に雪崩れ込んできたのだ。
そのせいでクラスはちょっとしたパニック状態になる。
「お、押すなって!」
叫ぶ。
しかし俺がいくら言っても、女子達の勢いは留まることを知らない。
「じゅ、順番だから! トークのIDくらい、いくらでも交換してあげるから!」
「「「やったー!」」」
順番に並んでもらって、次々とIDを交換していく。
このままじゃ女子のIDだけで百を超えるぞ……ちょっと前は朱里だけだったのに、短期間でよくここまで増えたものだ。
ID交換も慣れてきた。手際よく進んでいく。
……しかしさすがに朝の時間だけで、ここにいる全ての女子達とIDを交換することは不可能だった。
俺は昼休みに続きをやることを約束して、取りあえず帰ってもらった。
「ふ、ふう……疲れた」
「優はモテモテだねー」
机に突っ伏していると、小鳥遊が隣で唇を尖らせていた。
「どうして不満顔なんだ」
「いや……ボクだけの優だと思ってたから。優をみんなに取られたみたいでなんだか悔しいんだよ」
「なに言ってんだ。あの子達はほとんどミーハーみたいなもんだ。それに今日の女の子達、顔と名前がほぼ一致していないしな。小鳥遊とは違う。それなのに取られたって……変なことを言うな、小鳥遊は」
「で、でも……」
「小鳥遊は特別だ」
俺がそう言葉にすると、彼女は一瞬固まった。
「こんなに気軽に話せる女子は他になかなかいない」
いるとするなら……疑似彼女継続中の北沢くらいだろう。
「だからそんなこと思わなくてもいいぞ。これからも変わらず、遊んでくれると嬉しい」
「し、仕方ないな〜。これからも優に構ってあげるんだからねっ!」
そう言う小鳥遊の表情は満更でもない様子だった。




