15・ラブラブ(に見える)二人
朝。
「土曜日は色々あったな……」
土曜日のことを振り返っていた。
北沢と待ち合わせをして喫茶店に向かおうとしたら、邪魔者が俺達の前に現れた。
かと思えば田中が助けに来てくれて……最終的には喫茶店で朱里に水をぶっかけることになったのだ。
少しやりすぎか?
そう思いかけるが、すぐに首をぶんぶんと横に振る。
あいつのことだ。
『先輩がわたしの言うことを聞かないなんて、生意気ですよ!』
と全く懲りていないに違いない。
「とはいえ逆恨みしてこないとは限らない……なるべくあいつに会わないようにしないとな」
そんなことを呟きながら、制服に袖を通す。
「じゃあ行ってくるよ、母さん」
「行ってらっしゃい」
いつものように家から出る。
すると……。
「「あ」」
隣の家から幼馴染の朱里も出てくるところであった。
うわっ……最悪のタイミング。
会おうとしなくても、朱里はお隣さんだ。こうして鉢合わせになることは十分予想できたんだが。
「せ、せんぱ……っ」
朱里がなにかを言いかける。
しかしそれに俺は答えず、背中を向けた。
追いかけてくるだろうか?
いや。
「……先輩、ご、ごっ、め……」
振り返ると、朱里は伸ばしかけた手を引っ込められずにいた。
その場から動かない。
さすがに土曜日のことで気がくじけたのだろうか。
いつもの朱里より、何倍もしょぼんとしているように見えた。
「……謝っても許さねえからな」
朱里には聞こえないくらいの声量でぼそっと呟く。
こいつは土曜日、北沢に酷いことを言った。
あの後、俺がどれだけ大変だったかこいつは分かっていないだろう。
『すまん、北沢! 不快な気分にさせたよな?』
『なに気にしなくていい。君が怒ってくれたしな。私はそれで十分だ』
あれから俺は何度も北沢に謝った。
しかし彼女は天使のように微笑み、許してくれたのだった。
とはいえいつか北沢にも恩を返さないとな。
そんなことを思いながら、俺は学校へと向かった。
◆ ◆
教室に着き、自分の席に座っていると。
「ねえ、聞いた? 牧田君。バスケの大会で大活躍だったらしいよ」
「バスケって……牧田君、バスケ部だったっけ?」
「ううん、違うよ。ただ出場するための人数が足りなかったら、急遽出てくれたらしい」
「マジ? 牧田君、めっちゃ優しいじゃん! マジエンジェル!」
「しかも牧田君が活躍したおかげで、なんとうちのバスケ部……県大会にも出場するらしいよ!」
「え……すごっ。この高校のバスケ部って弱かったはずだよね?」
「それをたった一人で県大会まで導くなんてすごすぎだよ。他校の友達にバスケ部のマネージャーがいるんだけど『吾妻高校のあのカッコいい男子って誰!?』って評判になってるらしい」
「まあ当たり前だよね。牧田君、カッコいいもん」
どうやら俺のことで話題になっているらしい。
あの時の目撃者はたくさんいたからな。少し時間差でクラスにもとうとう伝わってしまったらしい。
「よっ、牧田」
「田中」
バスケ部の田中が近寄ってきた。
「土曜日はすまなかったな。あれから大丈夫だったか?」
「なあに、ちょっと話し合いをしただけだ。平和的に解決した」
「はは。具体的になにをしたかは聞かないことにする」
「それが良い。あっ、あいつ等はもうお前に近付かねえと思うぞ。オレが教育してやったからもう安心しろ」
やはり……ただの話し合いではないらしいな。
「優」
田中と楽しく話していると、今度は北沢が来た。
「北沢も土曜日はありがとう」
「いや、礼を言うのは私の方だ。私の方こそ楽しかった」
むっ……生温かい目線を感じる。
隣で田中が俺達のことをジロジロ見ていた。
「お前等、ほんとにラブラブだな」
「田中にはまだ説明してなかったな。別に俺と北沢は……」
一瞬躊躇する。
疑似とはいえ、一応北沢は『彼女』という設定だ。
あまり激しく否定するのも、北沢の気分を害してしまうのでは?
「まあまあ、気にするな」
その沈黙を『照れている』と勘違いしたのか、田中がぽんぽんと俺の肩を叩いた。
「オレは空気の読める男だ」
「この場合は適切に読んでいないと思うんだがな」
「そして……口の固い男でもある。お前等がそういうつもりなら、わざわざみんなにバラしたりしねえよ」
……ダメだ。
今更否定しても、こいつの中で既成事実が作られつつある。
まあ休日に、しかも私服で駅前なんかふらついてたら、本当に付き合っていると勘違いされても仕方ないよなあ。
心配になって北沢の方を見ると、
「わ、私は問題ないぞ……! この関係のままでも……また優と遊びに行けたら嬉しいしな……!」
耳たぶまで顔を真っ赤にして言った。
この関係のままでも……か。
朱里の一件も終わったことだから『疑似彼女』を解消しても良いと思っていた。
しかしどうやら、北沢はまだこの関係性を続けたいみたいだ。
俺としても北沢と一緒にいることは楽しい。それにすぐに解消して、朱里になにか勘ぐられても面倒だ。
「……しばらくこのままでもいっか」
まあこのことはまた後で北沢とちゃんと話し合うか。
なんとも言えないむずむずするような感覚。
しかし不思議と嫌な気持ちにならなかった。
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