あつまれ! 逢桜町民ズ 男性陣編
それでは、気を取り直して突撃取材第二弾!
ここは、町の中心部を流れる逢川河川敷にあります町営スポーツパーク。町民からは「あさくらスパーク」の愛称で親しまれています。
その一角にあるサッカー場が、今回お邪魔する新興eスポーツ・バーチャルサッカーのプロクラブ「VFC逢桜ポラリス」の練習拠点。今日はここで選手たちが自主練習を行っているとのことです。
「こんにちは、市川さん。本日はよろしくお願いします。狭ければタブレットをご用意しますが、大丈夫ですか?」
いえ、お気遣いなく。私はこう見えて縮尺自在、画面の大きさは気にしませんよ。
それより、せっかくなので自己紹介をお願いできますか?
「VFC逢桜ポラリス、運営事務局次長の川岸一徹です。本日はよろしくお願いします」
皆さんはもうお気づきでしょうか。こちらの茶色いマッシュルームヘアと下がり眉が特徴の男性は、澪さんのお父さまにして流華さんの旦那さま。町長の命でポラリスに派遣されている役場職員の方です。
ご用意いただいた端末の設定を調整し――いざ、取材開始!
「ハヤさん、お客様をお連れしました」
「ありがとう、一徹君。キミが役場広報室の市川さんだね?」
観戦スタンド下、ロッカールームの向かいにある会議室へやってきました。今回の取材協力者がいらっしゃいます。さっそくお話を聞いてみましょう!
こんにちは、お世話になります! ポラリスのゼネラルマネージャー、徳永隼人さんでしょうか?
内閣府の官僚とお伺いしたのですが……着物に袴姿の和装がよくお似合いです。ざんばら髪で顔の右半分隠してるのもミステリアス……。
あ、誤解のないように言っておきますが、褒め言葉ですよ!
「はっはっは、ずいぶん緊張しているようだね。気を楽にしなさい。そんなに早口では視聴者の皆さんが聞き取りづらくなってしまうよ」
「わかります。ハヤさんは優しそうに見えて妙な威圧感が……」
「一徹君。聞こえてるよ?」
不敵に笑う徳永さんを見て、部下が凍りつきました。
こ、怖い! 笑顔が怖すぎます、この人! 糸目というか、細い目の奥で何を考えておられるのかまったくわかりません……!
不可視の重圧に震え上がりながら、私たちは次の場所へ移動しました。関係者用の通路から、いよいよ選手たちの待つグラウンドへ。
そして――あっ、いましたいました! ポラリスの選手たちです! 一際小柄な選手が、大柄な二人を相手に実戦形式でシュートの練習をしていますね。
「小林! カット、カット! そこで止めろ!」
「えっ、ちょ……ああっ!?」
「脇が甘ぇんだら、おんしゃー!」
決まったァ――ッ! 華麗なミドルシュート、りょーちんナンバーワン!
……失礼。ここはキャプテンでフォワード、背番号10の佐々木シャルル良平選手、とお呼びすべきでした。
Jリーグ出身の実力者、そのうえ金髪碧眼の童顔ハーフイケメンとくれば、当然モテないはずもなく……「チャライカー」とあだ名されるほどのチャラ男なのに、不思議と干されないんですよねこの人。
「はあああああああ!? 何だよ今のシャルルターン! 急加速で一気に小林抜いて、スピードそのまま切り返し、横に出て俺も撒くとかおかしいだろ!」
「だって、おまえが『チャライカー日本代表』なんて言うから」
「俺はまだいいが、高校生相手には過剰火力だろ。しかもお前のファン。やっぱりょーちんには敵わない、って心バッキバキに折れたらどうすんの?」
その佐々木選手に食ってかかる、すっきり丸く整った黒髪の男性が羽田正一選手。かなり身長高いですね、一九〇センチ近くあるでしょうか。
ポジションはミッドフィルダー、背番号9。普段は車椅子で生活している不動産屋の社長さんです。
え? 普通に立ってるじゃないか、と? ええ、これは立体ホログラムですから。
羽田選手は上半身にモーションキャプチャをつけ、別室でご自身の3Dモデルを操って試合に参戦するバーチャルゲーマーなのです!
「折れない折れない。ガチのりょーちんリスペクト勢はこうなる」
「今のが、本物のシャルルターン……! やっぱり強ぇ、最ッ高!」
「メンタル化け物かよこのフォワードども!」
わっ! この子も背が高いですね。少し長いテラコッタ色の髪が爽やかな彼は、小林公望さん。澪さんと七海さんのクラスメイトで、時々お二人のご厚意で練習に混ぜていただいているようです。
ということは、高校一年生で身長一八〇センチ? 逢桜高校サッカー班(部)期待の大型新人と聞いてはいましたが……まさか「大型」って物理的な意味!?
三人が集まったところで、徳永さんが声をかけ休憩を促しました。華やかで爽やかなスポーツ男子たちがすぐ目の前に迫ってきます! きゃー!
「みんな、練習お疲れさま。休憩がてら取材に応じてくれないか」
「お、はるみんじゃん。どした? 何の用? 何訊きたい?」
『早い早い早い、距離詰めるの早すぎだぞマスター! そんなんだからチャライカーって呼ばれるんだ!』
ひえぇぇぇぇぇ、近い! ちーかーいー! なに自然に(私の入った端末を持ってる一徹さんごと)壁ドン仕掛けてるんですかこの人――!?
そんなフレンドリーすぎる佐々木選手の隣に現れ、ブレーキをかけてくださったのは彼のパートナーAGIにして敏腕マネージャー、手代木瀬名さん。私が今回ご紹介する男性陣は、この人で最後ですね。
パートナーAGIとは、インプラント手術でこめかみに埋め込む通信機器〈Psychic〉に搭載された汎用AIのこと。自分好みにカスタマイズ可能、フィギュアサイズのアバターであなたに寄り添うこともできるんですよ。
黒のもっさりくせ毛にウェリントン系の黒縁メガネ、という野暮ったい見た目からは想像もつかないほど、実はすごい個体なのです。
『……まったく。悪いな、うちのマスターがとんだ粗相を』
「小林。悪いことは言わねえ。推しを見習うのはピッチ内にいる時だけにしとけ」
「ショウまでひどいな、まるで俺のことをチャラ男みたいに」
「チャラ男以外の何物でもないだろうが!」
い、いえ! 私はファンなので嬉しいしむしろ役得ですけど、後ろで見ているりょーちん親衛隊(過激派)から袋叩きにされないかがちょっと……。
すみません、改めて――お話、よろしいでしょうか?




