あつまれ! 逢桜町民ズ 女性陣編
はい――というわけで、本日は町内の一大ランドマーク・逢桜高校へ来ています! いや~、赤レンガ張りの外壁が美しい校舎ですね!
取材協力者との待ち合わせ場所は、調理実習室。二つある校舎のうち、A棟と呼ばれるほうの一階にあると伺っています。
私、市川晴海は実体がありませんので、教室備え付けの電子黒板にプラグイン。画面上部のカメラを用いた双方向通信で、見たものをリポートしたいと思います。
皆さ~ん! 本日はお忙しい中、取材にご協力いただき――
「忙しいと分かっているなら来るな」
「鈴歌!」
あ、あはは……予想はついてましたが、やっぱり塩対応でした……。
ロングの黒髪が印象的なブレザー姿の水原鈴歌さんは、クールな一匹狼。天才少女との呼び声高い、頭脳派女子高校生です。
「事実を指摘しただけなのに何の問題が?」
「そういうのは思っても言っちゃダメ! 市川さんに! めっちゃ! 失礼!」
そんな彼女を諫めたのは、茶髪の左サイドハーフアップがトレードマークの川岸澪さん。小説を書くのが趣味という、鈴歌さんの幼なじみです。
彼女こそが、本編『トワイライト・クライシス』の主役を務める女主人公! 今回、この場に私を招いてくださった取材協力者でもあるんですよ。
「えーっと、一ノ瀬ちゃん? このあと、どうすればいいんだっけ」
「わたしのことは、どうぞ〝マキナ〟とお呼びください。このあとはムース生地を作成して型に流し込み、冷やし固めて完成です」
「いいね、簡単! これなら小学生にも作れそうだよ」
「ありがとうございます。お役に立てて光栄です」
おや、手前の調理台が賑やかですね。キャッキャウフフしてらっしゃるのは、澪さんのお母様。確か、流華さん……とおっしゃいましたか。
緩く波打つ長い赤毛のポニーテールが、どこか凛としてカッコいい小学校の先生。四年生の学年主任だそうです。
そして――調理の補助に入っている、おっとりした雰囲気の女子生徒。アステラシア社製の美少女アンドロイド・一ノ瀬マキナさんですね!
聞くところによれば、彼女はこの学校で生徒会副会長を務めているとか。銀髪、ツーサイド……ハーフアップ? お嬢様系の子がしていそうな二つ結びの髪型に、ルビーのような赤い目が特徴の人間離れした綺麗な子です、はい!
「まったく、なぜ自分がこのような雑務をこなさねばならないのですか」
「しーちゃむ、これ雑務ちゃう。人間の自立スキルやねん」
……なんか、一番奥の台から不穏な会話が聞こえてきましたね。ちょっと興味――いえ、心配なので様子を見てみましょうか。
耐熱ボウルを手にした黒髪ウルフカットの小柄な女性は、高野四弦さん。防衛省から来た陸上自衛官とのことです。
お嬢様育ちだそうですが、やはり物事は形から入るタイプなのでしょうか。この中で唯一割烹着姿とは、別の意味で戦闘力高そうですね。
そんな彼女を〝しーちゃむ〟と呼び、なぜか関西弁でツッコミを見舞った金髪パリピギャルが工藤七海さん、といいます。
この子、全方位にフレンドリーなんですよね……相手が誰であろうと、独特のあだ名をつけて呼ぶ。怖いものないんですかあなた!?
「ってか、なんでまた料理なんか始めたの? もしかして好きピが――」
「いません。嘘八百を並べ立てないでください」
「まあまあ、こういうのはやる気が大事よ。動機が何であれ、嫌々やるのと進んでやるのとでは習熟度に差がつく。一生懸命頑張りましょ」
流華さんの言葉に、ほかの女性陣もうなずいています。どうやら、皆さんはいつもお世話になっている男性陣を料理でねぎらおうとお考えのようですね。
ではここで、お相手の方々についての情報を整理してみましょう。詳細は後々お伝えするとして……肩書きでいうと、
「つかみどころのない官僚」 ※既婚者
「兼業主夫の役場職員」 ※既婚者
「女性が苦手な不動産屋社長」
「経験豊富(意味深)なプロサッカー選手」
「AIマネージャー」
「クラスの中心、人気者の男子生徒」
おおぅ……これはなかなかクセ強――いえ、錚々たる顔ぶれですねぇ……
乙女ゲームなら、攻略難易度ノーホープモードといったところでしょうか。
「なんでもない日に、自分の手料理を口にするという身に余る栄誉。味わった面々の感涙にむせぶ顔が目に浮かぶようです」
「うーん、このテンプレ勘違いヒロインフラグ。対しーちゃむ激辛審査員が何人か混じってんのに、自信エベレスト級でななみん大草原なんだが」
「しーっ、言わないであげて工藤さん!」
高野さんはツッコミに一切聞く耳を持たず、手近にあった箱と缶と袋の中身をスプーンでボウルに量り入れると、調理台の下のオーブンレンジに投入しました。
加熱する料理に何か混ぜたのだと思い、あまり気に留めていなかったのですが……今、明らかに「ぼこん」と異音がしませんでしたか?
「そういえば先輩、黒板の前にドライイーストの箱ありませんでしたっけ?」
「ベーキングパウダーの缶も見当たらないな」
「わたしはどちらも見ていません。ところで、薄力粉の袋はどちらに?」
「……まさか……」
ここで澪さんと水原さん、一ノ瀬さんの発言を聞いて顔色を変えた工藤さんが、先ほど耐熱ボウルに混ぜ込まれた添加物の表記を確かめました。
一同の足元では、ぼこん、ぼこん――と地獄の釜が煮え立つような発泡音がどんどん加速していきます。
ようやく事態を理解した高野さん。とても、とてもよく通る大声で、室内にいる全員に呼びかけました。
「総員、退避――ッ!」
「なんでレシピどおりに作らないんですか高野さ――ん!」
大爆発に巻き込まれる前に、私は間一髪で電子黒板から脱出しました。
私、昼間の和やかな町の様子をリポートしに来ただけですよ? なのに、何をどうしたらこんな放送事故になるんですかぁぁぁぁぁ!
果たして私は無事に取材を終え、逢桜町と本作の魅力を発信することができるのか……。続いては男性陣編、場所を変えてリベンジです!




