本当の私は弱くって
今回は安見さんの心の声の話になります。
花火大会が終わって、帰ろうと言われたときに、閑散とし始めた屋台の中から味柑のお土産のためにベビーカステラの屋台に並んで、一番大きい袋の物を購入して、みんなと一度合流しました。
「やぁ、二人とも。 別のところで花火を見ていたのかい?」
「そんなところかな。 綺麗に見れる場所を教えて貰ってね。」
「それはよかったです。 みなさんで見られなかったのは残念ですが。」
「来年も来ればいいんだよ! 今年だけじゃないんだからさ!」
「それもそうだな。 ほらよ。 これ館と須今の分だ。」
小舞君が袋を渡そうして差し出した手を取ろうと思ったのですが、なぜだか上手く手に取ることが出来ません。
「安見ちゃん? 少し震えてるけど、どうしたの?」
加奈美さんに言われて、自分の手を見たときに分かったのですが、確かに小刻みに震えているのが分かりました。 なぜなのか分からない。 無意識に震えているので、余計に分からなかった。
「ありがとう小舞君。 僕が安見さんの分まで持つよ。 お金は今渡した方がいい?」
「いや、僕の奢りだから気にしないでくれたまえ。」
佐渡君の粋な計らいで本来私たちが食べる屋台の食べ物をもらうことが出来ました。
その後は駅に向かってみんなで歩いて、駅の改札口付近で立ち止まって喋り始める。
「花火大会も終わったので、これで解散といきましょうか。」
「そうだねぇ。 次はプールの時まで会えないのかな?」
「会えないことはないと思うぞ。 私達だって似た場所にいるのだ。 偶然会うことだってあるだろう。」
「そんなことしないでも連絡は取り合えるしな。 んじゃ、これでな。」
そう言ってみんな駅に向かっていきます。 残されたのはここの近くに住んでいる私と館君だけになりました。
「僕達も行こうか。 安見さん。」
「ええ、そうですね。 あんまり遅いと心配させてしまいます。」
そう言って私たちは自分達の家に歩き始めました。 帰りも館君と一緒になりました。 少し後ろから追いかけるように館君の後ろ姿を見ていると、どこか安心が出来るようになっていました。
「ねぇ安見さん。」
そんなことを考えていると館君から声がかかりました。 私の顔を見ないようにするためか、前は向いたままです。
「やっぱり、まだ園路の事を忘れられない?」
その名前を聞いて、私の体は反射的に「ビクッ」となりました。 体だけは正直なようで、多分小舞君の事を触れようとしたときに震えていたのを見ていたのだろう。 だからこそそんな心配をしている。 でも・・・そんなことで彼を心配させたくない。 だから・・・
「そんなことはないですよ。 全然平気・・・」
「今は男の人に触れるのは怖い?」
嘘をつこうとした矢先に、そんな事を言ってきた。 多分館君は分かってる。 私が嘘をつくことも、館君を心配させないようにしようとしてるのも。
「・・・はい。 小舞君は悪くないんです。 私が、あの行動をされたときに、思い出してしまったのが、いけないんです。」
だから館君には隠さない事にしました。 本当は聞いて欲しかったのかも知れない。 私の弱いところを。
「・・・そっか。」
その言葉を言う館君の声は、どこか寂しげで、でも私を慰めるかのように優しくて。
「私は今の体質上、よく眠たくなってしまいます。 彼は館君とは別の方法で、私を眠くしないようにしていました。 最初は感謝していました。 だけれど慣れてくるにつれて、危うい行動を取ることが多くなりました。」
「危うい行動?」
「平たく言えばボディタッチです。 それをされないように必死になっていた時期もありました。 だから休みの時ではなく、授業中に寝てしまう事があるのです。」
授業中に寝てしまう理由も喋った。 私は本当はダメな人間なんだ。 自分でも分かるくらいに自虐している。 あの時館君は、自分を悪く言うことで私の心を和らげようとしていました。 今になってなんでそんなことをしたのかが分かってきました。
館君はなにも言い返してきません。 言葉が出ないのか、呆れているのか、どちらかは分からないですが、沈黙が不安を煽り立てるように私の心を侵食していきます。
「安見さん。」
名前を呼ばれてまた体を震わせてしまいました。 声だけで反応してしまうのは、やはり染み付いているからでしょうか。
「安見さんの家に着いたよ。」
館君の言葉通り私の家の玄関に着いていました。 そんなに歩行速度は速くなかったと思ったのですが、ついていくうちに着いてしまったようです。
「安見さんが園路になにをされたのか分からないし、園路が言っていることが嘘だったとしても。」
そう言って館君は振り返り、
「僕は安見さんに不快な想いなんて絶対にさせない。 それは今日のことで僕自身が決めたことなんだ。 だから、これからも笑っていこうよ。 お互いにさ。」
館君は真剣な表情を見せた後に、柔らかな笑みを見せてくれました。 その言葉と笑みに心拍数が上がっていました。
「手を出して、これ、渡さないといけないからさ。」
私は彼の言葉に導かれるように両手を差し出して、袋を受け取りました。 先程震えていたのを考慮しての行動でしょう。 館君はなにからなにまで優しい人です。
「それじゃあ、またね。」
そう言って手を振って、去ろうとする館君。 そんな彼に胸が締め付けられる想いを感じました。 別れたくない。 まだ不安な私を宥めて欲しい。 でもそれでは館君に迷惑がかかってしまう。 そんな事を考えるのに1秒、私は両手に持っていた袋をすぐに片方の手に持ち直して、彼を背中から抱き止めていました。
「え? 安見さん?」
困惑している館君。 迷惑なのは承知の上なのだけれど、私はただ一言言いたかった。
「明日も・・・会って・・・くれませんか?」
彼といると安心する。 その優しさで、今は心を埋めて欲しかった。 わたしのわがままなのは分かっている。 でもそう言いたかった。
「・・・分かった。 安見さんが言うなら僕は構わないよ。 だから離してくれるかな?」
承諾を得れたので、安心して体を離すことが出来ました。そしてそのまま館君は帰っていきました。 私はその背中を遠くなるまで見ていました。
「お姉? 帰ってきたなら入ってよ。」
味柑が玄関から出てきてなにかを言っているようでしたが、私はこんな弱い私を見てくれる、優しい館君の背中を見えなくなるまで見るのに目を奪われていました。 そして見えなくなった後に、私は小さく手を振った後に家の中に入っていきました。




