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須今 安見は常に眠たげ  作者: 風祭 風利
第1章 入学~一学期
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夏休みがはじまる

 残り少ない授業を終え、終業式を終えたその教室。


「はぁー! やっと終わった! これで夏休みが始まるんだぁ!」


 小舞君の全力の叫びに教室全体が響き渡る。


「確かに。 長期休暇に入る前の時期というのは、どうしても時の流れが遅くなる感じがする。 人間の体感的ななにかが刺激されていると言われているらしいが・・・」

「そんなことよりも! 夏休みだよ! 夏休み! 高校生の夏休みは、全力で謳歌したいんだよ!」

「そうですね。 こうしてみんなで集まって過ごせれるのは、やはりいいことですし。」


 江ノ島さんがそう嬉しそうに語る。 それもそのはず。 今回の期末テストは、誰も赤点を取っていないため、補習というものは誰も起きていないのだ。 因みに順位としては上位陣は僕と安見さんが若干順位を落とす程度で、みんな順位はほとんど変わらず、前回の順位で留まっていた。


「夏休みが、始まりますね。」

「そうだね。 去年までとは違う夏休みを過ごせそうだよ。 今年は。」


 そう胸に想いを寄せながら、1学期最後のHRが始まるのだった。



「ただいま。」


 帰ってきたのは昼と夕方位の時間帯。 夏休み期間中も定期的に部活には顔を出す予定であるが、今日はその期間に合わせるために、やり残していた作品を仕上げてきた。 これで夏休みに配りに行く分は余裕を持てた。


「お帰り。 今日は終業式だったんでしょ? 帰りが遅いんじゃない?」

「部活をしてきたからね。 それぐらい目を瞑ってよ。」

「怒ってる訳じゃないからいいわよ。 なにか冷たいものでも飲む?」

「んー。 お水でいいよ。 あ、氷は少しでいいからね。」


 母さんも夏休みに入る最初の日ということで会社が早めに終わらせてくれたそうだ。 母さんと台所でやり取りをしていると、僕は部屋で着替え直した後、リビングの椅子に座り、教材と数冊のノートを広げる。


 このノートは学校から出された、所謂「夏休みの宿題」である。 僕は小中の時から、宿題が出たときは先送りにすることなく取り組んでいた。 そのお陰で慌てることなく、次のことが出来た。 夏休みや冬休みの宿題も先に終わらせることで残りを有意義に過ごせれるようになったものだ。


「相変わらずね。 最初くらい休みなさいな。」

「最初のスパートって大事だよ。 後に残すよりは断然楽だし。」

「そう言うところも昇さんと一緒ね。 本当に親子そっくり。」

「父さんも今日は早いのかな?」

「どうかしらね。 その辺りは仕事次第だと思うわ。」


 そっかと話を区切って、僕は宿題に取り込むことにした。



「ただいま。 お、光輝。 随分と張り切っているな。」


 そう言って入ってきた父さんと目が合う。


「お帰り父さん。 昔からそうだったでしょ? 今さら誉めないでよ。」

「はは、それもそうか。 でも両親からの誉め言葉はしっかりと受け止めて置いた方がいいぞ。 お互いに「あの時」と後悔するよりはね。」


 それは確かにそうなのだけれど、ほとんど一緒に暮らしていた母さんと違って、なかなか会えなかった父さんに誉められるという事にむず痒さを感じるだけだ。

 本当にそれだけなのだ。


「昇さんも帰ってきたことだし、夕飯にしましょ。 光輝も一回宿題を片付けて?」

「待って、ここの問題だけ解かせて。 ・・・うん。 片付けるよ。」


 片付けると言ってもすぐに再開させるので、リビングの奥のテレビを見る時等に使われる低い机に宿題を置く。


「今日の夕飯はなんだい?」

「今日は豚肉が安かったから冷しゃぶにしたわ。 夏って食欲が落ちちゃうけど、ちゃんとしたもの食べないと、もっと無くなっちゃうからね。 おろし醤油かゴマだれを付けて食べてね。」

「陽子さんが作ったご飯を残すわけないじゃないか。 なぁ光輝。」

「母さんの料理は好きだよ。 好き嫌い無く食べさせてくれたのだって、母さんの工夫された味付けのお陰だし。」

「ふふっ。 2人とも嬉しいことを言ってくれるわね。 それじゃあ、食べましょうか。」


 そう言って母さんが椅子に座って手を合わせる。 こうして3人揃って食べるのも懐かしむと共に、次に出来るのは何時だろうかと考えてしまう。


「「「いただきます。」」」



 夕飯を食べ終わって直ぐには宿題は再開させない。 満腹感の余韻に浸りながらテレビから流れてくるバラエティーをぼんやりと見ていた。


『これからの夏にぴったりなサマーバケーションプラン! 朝から晩まで楽しめる場所! そうそれがここ・・・』


 夏の特番なのは大いに分かるが、盛大に説明するのは、行けない人からしてみたら大分毒な気がする。 お金を払えば行けるという簡単な話ではないわけだし。


「光輝は今年はどこかに行かないのかい?」

「んー? いや、今年はいろんな場所に行く約束してるからね。 そのためにも宿題をいち早く終わらせたいんだよ。」

「へぇー。 やっぱり安見ちゃんと?」

「二人きりって訳じゃないよ? 他のみんなも一緒だよ。 お金がかかるから、どうしようかなと考え中でもある。」

「それはいいことだ。 お金の事は、父さんたちに甘えなさい。」

「それは良くないよ。 ちゃんと自分なりにお金は作るって。」

「こういうときくらい、親らしいことをさせてくれ。 自分の子供を甘やかす事が困難な父さんの願いだ。」

「・・・そこまで言うなら・・・」


 あんまり頼りたくはない。 親のお金だと慣れてしまう前に、なんとか対策を取らなければ。 夏休み中は平行してアルバイトでも探してみようかな。


「それにしても光輝、大丈夫なのかい?」

「? なにが?」

「みんなで行くとはいえ、夏の魔力というのは恐ろしいものでね。 父さんも高校生の時に味わったものだよ。」

「だからなにが?」

「あれだよ。」


 そう言って父さんが指を指す場所。 それはテレビに映った女性リポーターだった。 そしてその後にCMで流れる、大型プールの告知。 それを見てもさっぱり分からなかった。


「母さん。 父さんはなにが言いたいのかな? 僕には分からないよ。」

「あんまり女の子と接点が無かったからね。 光輝はちょっと鈍いところがあるかもね。」


 母さんまで何を言っているのか分からなくなってきた。 あのテレビの映像に何があるというのさ?


「昇さんはね。 光輝が目移りしないかの心配をしているのよ? こういう場所って人が多いから。」

「目移り?」


 そして改めて女性リポーターを見てみる。 今映っているのは、早くもどこかでお祭りをやっている風景。 そして女性リポーターが来ているのはピンクの浴衣だ。 浴衣姿でお祭りを散策している風景が流れている。


「それと女の子と行くなら、本当に気を付けなきゃいけないのよ。」


 その言葉と共に再度同じCMが流れて・・・


「あぁ!!」


 父さんの言った「夏の魔力」、そして母さんの言った言葉でやっと理解が出来た。


 花火大会と海、つまり普段の皆とは違う姿で会うことになるのだ。 それは当然安見さんも、ということになる。


「ま、青春を謳歌するには十分なイベントよ。 いつ行くのかだけ教えてね。」


 母さんの一言で、沸き立つなにかを抑え込めた。 冷静になるんだ館 光輝。 


 そんなのは仮の話だろ? まあ海の場合は仮ではないけれど。 うん、だから冷静になれ? そんなことは無いはずだ。 無いはずなんだ。


 まさか安見さんの浴衣姿や水着姿であてられるような僕じゃないさ。 そうでしょ? 宿題をすることを忘れ、ずっと煩悩のようなものと戦った夏休み前夜だった。

恋愛系の主人公は鈍いのは定番ですよね。

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