お土産話
ゴールデンウィークも終わった月曜日。 登校をしている生徒の顔はなんだか気だるさみたいなのを感じる。 やっぱり長期休暇の後だとこんな感じになるんだよね。 僕があんまり長期休暇を好きになれない要因のひとつだ。
まだ教室には誰も来ていない。 先週までのみんなの登校具合を考えると多分ゴールデンウィーク気分が抜けていないのだろうなと感じる。
「おはよう、ございます、館さん。 随分と、早くに、登校されたの、ですね。」
その声の方を見ると円藤さんがそこにはいた。 久しぶりの制服姿も逆に新鮮味を感じる。
「あれ? 館さん?」
「あ、あぁごめんね。 おはよう、円藤さん。」
「今は、安見ちゃんは、いないようですね。」
「そうみたいだね。 まだ寝てるのかな?」
なんだろうか、平然と冗談が言えるようになっているくらいに馴染んでいるのだろうか。
「ゴールデンウィークは、楽しめました、か?」
「うん。 とっても楽しかったよ。」
「その、紙袋に、入っているのは、なんですか?」
「ああ、これはみんなが来てから渡そうかなって思ってるんだ。 だからそれまではまだ見せられないかな。 ごめんね。」
「いえ、問題ありません、です。」
円藤さんとそんな話をしていると後ろのドアが開けられる。
「おや、まだほとんど来てないようですね。 長期休暇の後と言うのはどうしても気分が抜けきらないみたいですね。」
そう言って入ってきた安見さんを僕らはいつものように出迎える。
「おはよう安見さん。 その様子だと安見さんは普通に来れたんだね。」
「おはよう、安見ちゃん。 ご機嫌だね。」
「今日はお弁当の出来が良かったので、機嫌がいいのですよ。」
今日の安見さんは珍しく目が生き生きとしている。 いつも目が悪いみたいな言い方になるが、そう考えるほどに安見さんの状態に驚いていた。
少し時間が過ぎて、ある程度集まり始めた頃。 まだ授業が始まるまでには時間があり、みんなそれぞれのグループに分かれて会話に華を咲かせている。
それは僕らも同じで、ゴールデンウィークでデパートに集まったみんなで会話をすることにした。
「いやぁ、高校になったら宿題とかないから、その辺りは気楽で良かったぜ。」
「ゴールデンウィークが終わるとなんか気だるくなるのよねぇ。 何て言ったっけ? この現象。」
「五月病というやつですね。 ギャップに悩まされると聞きます。」
みんながそれぞれの反応をする。 こういったのも悪くはない。
「そうだ。 みんなに渡したいものがあるんだ。」
そう言って先程円藤さんが気にしていた紙袋から、あるものを取り出す。
「それは?」
「お土産にと思ってストラップを買ったんだ。 みんなのイメージに合わせて僕が勝手に選んだものだから、気に入らなかったら許して。」
僕はそれぞれにストラップを渡す。 因みにストラップとして描かれているのは如月テーマパークにあるアトラクションだ。 円藤さんにはコーヒーカップ、江ノ島さんには空中ブランコ、坂内君には錯覚迷宮の鏡の部屋、小舞君にはジェットコースター、濱井さんにはフリーフォールにした。
「それで、これは安見さんに。」
そう言って安見さんに渡したのは観覧車のストラップだった。
「私にもあるとは思いませんでしたよ。」
「まあ、記念にね。」
一緒に行ったとはいえ、安見さんだけ渡さないのも、申し訳ないと思ってさ。
「私もお土産、あるんですよ。 私はお菓子なんですけれど、良かったら皆さんで分けてください。」
安見さんが取り出したのは如月テーマパークの名物の観覧車の焼き印が押されているクッキーだった。 15枚入りらしいので、1人2枚は貰える。
「みんな喜んでもらえて何よりだよ。」
「当たり前さ。 こうして貰えるだけでも嬉しいじゃないか。」
「このクッキー、実は甘さが控え目なんですよ。」
「へぇ、減量中だったから心配だったんだけど、それなら安心して食べられるよ!」
そんなことをしていたらHRが始まるチャイムが鳴る。 先生が来る前に、みんな元の席に座る。
「みんないるか? 今日から本格的に・・・」
そうして担任の先生が話をしていると、不意に隣から脇腹をつつかれる。 こんなことをするのは安見さんしかいないと思い横を見ると、やはりといった具合に、安見さんが口角を上げていた。 「してやったり」的な顔だ。
そんなことを考えていると、不意に安見さんが握り拳を出してきた。 なんの握り拳だろうか? よく分からないまま握り拳で返すと、安見さんは首を横に振る。 どうやら違うらしい。 ではと思い、手のひらで差し出すと、安見さんは握り拳を僕の手のひらに乗せて、なにかを乗せた。 そこに乗っていたのは先程僕があげた観覧車のストラップだった。
「これは・・・」
「私もあなたへストラップを買っていたんですよ。 同じものが被ってしまうのは想定外でしたが、受け取って貰えますよね?」
まさか同じ事を考えていたとは夢にも思わなかった。 その言い方を拒否を出来る訳がない。 ありがたく受け取らせてもらう。
「これでお揃いですね。」
そう言って彼女が持っている、僕があげた観覧車のストラップを掲げる。 それをみた僕もストラップを掲げて「チンッ」とお互いのストラップを軽く当てて、音を鳴らすのだった。
思い出の品は同じもので。




