2人のゴールとスタート
この物語も遂にグランドフィナーレへ。
ここはとある結婚式会場。 その控え室で僕、館 光輝は白のタキシードに身を包んで時を待っていた。
「あの誓いから5年か・・・長かったような短かった・・・事はないか。」
あの文化祭後の告白の事を思い出しながら、気持ちに更けていた。
僕達はそれぞれ別の道に進みつつも、二人で色んな所へと回っていっていた。 この会場も安見さんとの二十歳のデートのジューンブライドの催しとして体験させて貰った時に「ここで結婚をするのも悪くないですね」と終わり際に言った事を覚えている。
それからは二人で会う度に、同居の場所やら式場のプランやらを念入りに話し合ったもので、かなり頑張ったと思う。
「そろそろ時間だ。 迎えに行こう。」
そう言って僕は自分の控え室から出て、最愛の花嫁の控え室へとやってきた。 そしてノックをする。
「安見さん。 準備できた? そろそろ歩くよ。」
そう問いかけるけど返事がない。 これから始まると言うのにどうしたと言うのか。
「安見さん? ・・・開いてる? 入るよ?」
女性の身支度中に入るのは失礼に値するのは百も承知だけど、時間が時間なので許して貰いたい。
そして部屋を空けて中に入ると、そこにはウェディングドレスに身を包んだ安見さんはいた。 ただし居間スペースで横になってお腹の辺りで手を合わせて、まるで毒リンゴを食べさせられて眠らされた白雪姫のように眠っている姿で、だが。 その姿に僕は溜め息をついた。
結局安見さんのこういった睡眠癖は根本的には治っていない。 ただ大事な場面での睡眠の頻度は確実に減ったと思っていたのだけれど。
とにかくそんなことを嘆いても仕方がないので、安見さんを起こすために彼女に近付く。 そして改めて花嫁姿の安見さんに心臓の鼓動が1拍速くなった。
「・・・安見さん。」
僕は手を、顔を安見さんに近付ける。 そして
「・・・起きてるでしょ?」
そう耳元で囁くと、安見さんの体が少しだけ「ピクリ」と反応した。 その反応に僕は「やっぱり」と肩を竦める。
何時からか安見さんが「寝た振り」を覚えて僕の独り言を聞いたり、行動をわざと行わせるなどして楽しむようになっていた。 最初のうちこそ分からずにただただ困惑しかしていなかったけれど、長い付き合いになってくればなんとなくで安見さんが寝た振りをしているのが分かるようになってくる。
ならば僕はどうするか。 答えとしては既に決まっていた。
「安見さん。 もうすぐ時間なんだ。 だから、悪いけど強行手段を取るよ。」
そう言って僕は安見さんと顔をゆっくりと近付けて、そのまま唇を重ねた。 そして数秒重ねた後に僕はその唇を離して
「お目覚めはいかがですか? 眠れる僕の花嫁さん?」
何度もやっているはずなのに恥ずかしさは健在のままで、それは安見さんも同じこと。 顔を赤く染めながら目を開ける。
「・・・全く、王子様気取りですか?」
「先に仕掛けたのはそっちでしょ? さっきも言ったけど時間だから、ほら、手を取って。」
「はい。」
そう言って僕の手を取った安見さんと共に控え室を出て、用意された式場まで歩いていく。
僕と安見さんは高校を卒業した後、自分達の目指す道のために別々の学校に進学した。 僕が教育関係の学校へ、安見さんは料理学校へ進み、既に就職先も決まっている状態である。
僕は幼稚園教諭免状を取得したのでその流れで幼稚園の先生に、安見さんは調理師免許の他、料理に纏わる資格を取得しているようで、最初は下積みとして料理屋へ勤めることを決めたそう。
この結婚も大学生を卒業してからにしようと思っていたのだけれど、「それなら記念日の日にしましょう。 卒業前記念日と結婚記念を同時にやってしまって」と安見さんが言ったので、学生結婚と言う形になったのだ。
学生結婚って実際にはどうなのだろうと考えたのだが、僕も安見さんも学校で悪目立ちはしていない。 むしろ成績や単位は優秀まで備わっている。 互いに認め合ったならそれで良いじゃないか、と言っていたのは大学で出来た友人だったか先生だったか。
とは言え二人で決めたことなので誰かに憚れる理由はない。 同棲する場所も既に決めてある。 この式が終われば僕達は晴れて夫婦になれると言うことだ。
そして結婚式場の教会の扉が開く。 かなり小さな教会で行われる為、招待客は互いの両親の他、僕達を支えてきた人物に限られている。 それでも祝福の拍手は止まらない。 みんなもそれぞれの席で迎えてくれた。
「おめでとう、2人とも。 この舞台は最高のものとなるだろう。」
「おめでとうございます館君、安見さん。 とてもお似合いですよ。」
拍手の中で最初に声をかけたのは坂内君と江ノ島さんだ。 彼らもそれぞれの道を歩みつつも、2人でいる時間も忘れていない。
坂内君は高校卒業後、本格的に劇団に入れるように必死に努力した結果、今いる劇団のニューホープとして海外公演を行うそうなのだが、そんな忙しくなりそうな中で、僕達の結婚式に参加してくれた。
江ノ島さんも銀行員を目指すとして、入るのが難しいと言われていた理大で目下勉強中とのこと。 優秀な銀行員になってもらいたい。
「館! 俺達もすぐにお前達と同じ位置に立つからな!」
「幸せにね! 安見!」
逆サイドからは小舞君と濱井さんペア。 彼らは二人三脚状態で、支え合いながら同棲をしているそう。 2人とも家族環境は良好なのだが、2人でこれから生きていくからには、手を借りずともやっていけることを証明したかったのだそう。 進学はしなかったものの、彼ららしさを出しつつ生活していけることだろう。
更に前には沢渡君と円藤さんが手を振っている。2人の身の回りは大分変わったようで、沢渡君は女子に囲まれるようにはならなくなったし、それによる女性に対する忌避感も薄れたそうな。
そんな彼も江ノ島さんに負けず劣らずのようで、偏差値のかなり高い大学へと駒を進めていった。 何になりたいのか聞いてみたら「経済を学びたい」と言っていた。 彼なら良い政治家になれると僕達は信じている。
そして円藤さんなのだが、彼女が最も変化が大きく、立ち振舞いは変わらないが、なんとここ数年でDIYにはまったそうで、今ではモノづくり関係の学校へ行っているそうだ。 最初にあった頃の弱々しい彼女は今はもう幻のようだ。
「先輩方! 本日はおめでとうございます!」
そう言って席を立ったのは拓三君と早妃さんだ。 2人もこの結婚式の関係者と言うことで参加して貰った。
というのもこの結婚式の費用、半分以上が足利家持ちだったりするのだ。
結婚の話をした時に拓三君からそんな申し出を聞いて、最初こそそこまでする必要はないと2人で断っていたのだが拓三君達の根気と慕ってくれている眼差しに僕達が折れざるを得なかった。 盛大にやらないことを条件にしたのだが、小規模なりに豪華に装飾されてしまったので、複雑な気分である。
拓三君は大学を卒業すれば実家で稼業をするらしい。 その間早妃さんはどうするのかと聞いたら、足利家でお手伝いをするそうだ。 なんでも足利家もそれなりに大きくなり、色々と手入れが届かなくなってきたので人手が必要なのだと言っていたらしい。 2人の仲を取り繕った足利家のお節介かも知れないけれど。
そして最前列にはそれぞれの家族が座っている。 僕の方は父さんも母さんも嬉しそうに僕らを歓迎しているし、安見さんの方もみんな祝福の拍手を送ってくれている。 音理亜さんも味柑ちゃんもそれぞれパートナーを見つけたようで、その人たちも一緒に祝福してくれていた。
それぞれの両親には僕達が付き合った報告をして貰った時のように同時に報告した。 まぁ流石に「結婚を前提に」というのには驚いてはいたものの、その後は案外平常運転だった。 そんなこんなでみんなからの祝福を貰いながら僕達は神父の前へと歩を止めた。
「新郎 館 光輝 貴方は今 須今 安見さんを妻とし神の導きによって夫婦になろうとしています。 汝 健やかなる時も病める時も、喜びの時も悲しみの時も、富める時も貧しき時もこれを愛し、敬い、慰めあえ、共に助け合い、その命有る限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「誓います。」
「新婦 須今 安見。 貴方は今 館 光輝さんを夫とし神の導きによって夫婦になろうとしています。 汝 健やかなる時も病める時も、喜びの時も悲しみの時も、富める時も貧しき時もこれを愛し、敬い、慰めあえ、共に助け合い、その命有る限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「誓います。」
「では誓いの口付けを。」
僕は安見さんと向き合いベールをめくる。 そこには見慣れたはずの、だけど緊張やら何やらで頬を紅く染めている安見さんの顔があった。 僕もこういった場面だからか、かなり緊張してしまっている。 だから僕は一度深呼吸をして、改めて安見さんを見つめて、安見さんもそれ以上はなにも語らずに目を瞑り、そして、誓いのキスを立てた。
数秒の間は2人だけだと思う時を過ごして、唇を離す。
「それではお二人の誓いを果たしたところで、夫婦になって初の共同作業、ケーキ入刀をお願い致します。」
奥から現れたウェディングケーキと共に僕達に入刀用のナイフを渡される。 そしてちょっと小振りなウェディングケーキに安見さんと2人で入刀をした。 この後は少し時間があるそうなので、ウェディングケーキをみんなで食しつつ、募る話をしに行くことにした。
「改めておめでとう館君。 これから新婚生活を楽しんでくれたまえよ。」
「どっちも学生だから、まだ当分先かもだけどね。」
「にしてもまさかあの「魔嬢」がこんなことをするなんてな。 人間なにがあるか分かったものじゃないな。」
そう。 今食べているこのウェディングケーキ、実は作成者は「魔嬢」こと晴山 景希なのだ。 とはいえ彼女もあの婚約の誓いの日の時に心を入れ換えたと言うか、考え方を変えたと言うか。 とにかく噂を出すような事をしなくなった。
『それだけ見せられたら私も諦めないといけません。 私もなにか別の面白いものを見つけないとなぁ。』
そんな風に言っていた。 ちなみに普通にパティシエになるために努力すれば良いのでは?と言ったら
『それは既に目標にしているので。 母の名に恥じないように。』
と言っていたので、じゃあなんでこんなことをと聞いたら『秘密です』と言わんばかりに手に人差し指を当てていたのを思い出す。 そんな彼女も実家のスイーツ店で手伝いをしながら日々勉強をしているそうだ。 機会があれば会いに行こうとも思ってる。
そうして時間が流れていき、改めて僕と安見さんだけになった教会から扉が開かれて、紅い絨毯の上を2人で歩く。 その光景にみんなから紙吹雪を貰いながら道の先にあるハネムーン用の車まで歩を進める。
「安見さんとこうして結婚式を挙げることが出来るようになるとはね。」
「おや? 人生は結婚がゴールではありませんよ?」
それは分かっている。 こうして歩けることが目標とは思っていたけれど、これからの方が長いのだ。 感傷に浸っている場合などではない。
そして僕達がハネムーン用の車に乗ると、皆から声援をくれた。
「館君。 海外から戻ってきたら、是非劇団を見に来て欲しい。」
「安見さん。 これから頑張ってくださいね。」
「館! ハネムーン楽しんでこいよ!」
「安見もね!」
「2人にとって最高の思い出を作ってきてくれ。」
「きっと、どんなものでも、思い出に、なりますから。」
「先輩! 最高の思い出を!」
「私たちも、応援してます!」
友人を始めとして、後輩になってくれた人達。
「私達も何時かは・・・」
「うん。 何時かは迎えよう。」
「お姉。 お土産よろしくね!」
「おいおい、そんなことを言ってやるなよ。 お兄さんも良い思い出を!」
音理亜さんと味柑ちゃん。 そして
「光輝。 幸せにな。」
「たまには連絡してよね。」
「安見。 2人で支えあって生きてね。」
「帰ってくる場所は用意してある。 2人とも、何時でもいらっしゃい。」
何年も僕達を見てきた両親からの言葉。泣きたい気持ちを抑えつつも、僕はエンジンをかけてハンドルを握る。 そして
「光輝君。 これからが私達2人の人生のスタートです。 私はこうして、大好きな貴方と一緒にいられるようになって幸せです。 これからももっと幸せにして下さいね。」
助手席に乗っていた安見さんから、頬へとキスを貰う。 それに僕は笑顔で返してから
「それじゃあみんな、行ってきます!」
車のアクセルを踏んで、後ろから響く空き缶の音色と共に、僕と安見さんの新たなるスタートを走り出したのだった。
というわけで「須今 安見は常に眠たげ」遂に完結致しました!
前回までのような詐欺ではありません。 本当に終わります。
思えばこの作品も4年程前から書き始め、続編の形で続きを書き始めたのですが、なかなかペースが伸びず、本当はもっと色々と話しとかも随分と削りながら今回完結まで持っていきました。
元々結婚式エンドは考えていたことで、完全な終わりの締めくくりとしては自分でも良いものだと思っています。
なんだかんだでこの作品も300話近く書いていて、本当に終わるのかと自分でも実感しています。
そんなわけでこの作品は終わりですが「風祭 風利」としてはまだ活動していきます。 また次回作にてお会いしましょう。
ご愛読ありがとうございました。




