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りんご庭園のグラニエス夫人〜炎侯爵の愛が強すぎて砂糖まで溶けそうなので遠慮してくださいませんか〜  作者: リーシャ


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05人が怖い侯爵子息

機材もないし、知識のある人材などいないしと、手を挙げでお手上げポーズする。


「じゃあ、剥くから食べようか。火種頼むね」


「おれか?」


「労働してないと食べられないよ。お客でもそこは例外なし。例え王族が来てもりんご収穫させるから私……りんご園の園長だから」


 深い意味はない、適当な言葉を投げつけられてカルヴァは慣れた仕草で炎を準備されている箇所に灯す。

 いつも、焼きリンゴを作るブースらしく整えられている。ボゥ、と相変わらず強火な火力が手から放たれるが、カルヴァは臆することなく、出したまま転がるりんごを炎の中で丸焼きする。


「あ、焼きリンゴだっ」


「炎が今日は違うね!」


 焼いていると、香りも相まって人が寄ってくる。


「!」


 カルヴァの顔つきがこわばる。それに気付いたグラニエスは立ち上がって皆の前に行き、大声で叫ぶ。


「まだ炎のコントロールができないから、怪我するかもしれないし近づかないでー、わかったー?」


 と、宣言していくと皆も「はーい!」と手を挙げて一メートル以上距離を開けていく。グラニエスは、焼き終えていくりんごを手にして、籠へ入れていくと次々人に渡していった。


「これ、持ってって」


「うん!」


「おにーさん!ありーがーとー」


「いいー、焼き加減ーですーねぇー」


 美味しそうですー、ありがとうー、という声を遠くから聞いてカルヴァは俯いた。ぐっとりんごを握る手は怯えでもなんでもなく、戸惑いに揺れる大きな感情の揺れだ。


「「美味しい〜」」


 焼き加減の良さにグラニエスは頷く。このりんご焼き職人は自分が育てた。後方監督面でりんごを食べ、シャリシャリと口を動かす。


「美味しい。焼き加減完璧」


「あれだけ焼かされたからな」


「その分、その胃袋に入ってるでしょ」


 笑みを浮かべてお互い、言い合う。その間も、職人みたいに彼は炎でりんごを焼きつつ会話をする。いつものことだ。

 相手曰く、精神が安定していると火の魔力が燃え上がらず、安定するらしい。


「安定してきた。よし、うまくいってる」


 彼が何度も確認するように呟くのは、なにかしらの魔法の問題を抱えていたらしいが、最近はコントロールできているらしい。

 よかったね、と言ったときのなんとも言えない彼の顔が、気にならないので先に進めていたのだがそれも何とも言えない顔をしていたから折り合いつけていこうじゃないか。


 グラニエスの性格に慣れないとなにもできなくなるからねと、頷く。カルヴァは炎をちょっと弱火にしていき、丁度いい具合にりんごをジュッと焼いていく。

 何度見てもいい火だなと思う。この火で色々できるようになるんだよねと、計画している。

 焼き芋、焼き豆腐、焼き餅、キャンプファイア。豆腐も餅も、まだないけど必ず見つける。

 芋はうちの先祖のノートにあったので、少し遠かったけれどなんとか見つけられたのだ。きっと、見つけて見せると拳を握る。


 炙らせるのもいいかもしれないなと、思案しているとりんご飴の準備が整い鍋に砂糖をガーッと入れていく。

 ここの農園には大きい鍋が常備してあり、砂糖もあるのでここぞとばかりに注文しておいた。


「もっと入れる」


「はーい!グラニエス様〜!」


「匂いが甘いなぁ。楽しみ!」


「いつもより、カリカリに焼かれてるね!」


 子どもたちがわくわくした顔でグラニエスとカルヴァの顔を交互に見ていく。その期待に濡れた目を見た男の子は慣れてない様子と視線に身体を身じろがせる。


「グラニエス様、この方はなんというお名前なのですか?」


 大人組が聞いてくるから名前を教えると、頷きながら彼へ寄って行き声かけを先にしてりんごをこちらへ持ってくる。

 砂糖を絡める作業をしていくのだろうとわかり、皆も声をかけて許可を貰うと次々りんごを焼いて貰ったり、水を差し出す。

 リンゴジュースも渡していくので、周りに飲み物が溢れる。なぜ飲み物だらけになるのかというと、火を扱っているので喉が渇くからといった理由だ。


 しかし、彼はまだ他人に緊張するのか首を振る。けれどそんなことで辞める人はいない。彼のそばにリンゴジュースを置いて無理矢理渡していた。

 やはり、水分補給は大切だからね。

 ウチの領は水分補給もかなり厳しく守らせているのだ。


 働いていても水分、何においてもブドウ糖みたいな感じでリンゴジュースを飲ませている。お金の有無なんて関係ない。辛いのはあってもなくても、同じだから。

 というウチの絶対的な方針で、年間の領民の健康は知られていないけど国土的に上位かもしれない。

 知られてもなんの報奨金も出ないから、データの提出はしてないけどね。


 紙で見るより、実際に見に来れば一瞬でわかることなので、文章化の意味はあまりないと思われる。

 カルヴァは人に世話を焼かれながらりんごをいつものように焼き、その後グラニエスにりんご収穫を体験するように熱望された。

 自分で収穫したら美味しさも上がるよと言われて、素直に頷いたのだ。

 この子はワシが育てた、と一瞬彼に言おうとしたが焼きりんごコースになりそうな予感がしたので、密かにやめておいた。もう少し温めておこう、このネタ、と頷く。


 グラニエスはカルヴァにりんごの取り方をかなり丁寧に教えて、りんごジュースも、その場で絞って見せて飲ませると美味しさが違うと一言言われる。

 当然、味は同じなので美味しさは変化しないというのは皆もわかっているし、彼もそのうち理解してくるだろうけど、それでも美味しいというプラシーボ効果を知っていたのでウンウンと賛同。

 彼は自分のもいだりんごを袋に入れると抱えて、馬車に乗る。領民達に見送られて手を振られるとチロチロと、よく見て見ないとわからいくらい極小の動作で指を動かして振り返していた。


 今の精一杯の返しなのだ、成長したのである。笑顔で手を振られるなんて人生で初めてみたいだったので、グラニエスが手を持ってブオンブオンと大きく振らせれば「な、おい!やめろって」と聞こえた。


 やめさせて、さらに大きい動作になる人たちの「さようなら」「またきてね」の言葉を恥ずかしそうに、嬉しそうに受け止める。


「よかったね」


「振らせたのは、やりすぎだったけどな」


「あんなの小手先だよ」


「小手先の使い方を、間違ってるっての」


 不貞腐れたように、りんごを大切そうに抱えた男の子に「まあまあ」と言った。怒らせたのはお前だろうという視線を感じたけれど、いつものようにスルーしておく。

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