後編
……長らくおまたせしました。
後編
「セオドア、お前の王位継承権を剥奪する!」
王城の謁見の間で強く宣言された。
「あれからもう一週間経ちますのね……」
私は今、母国であったパトリシア王国を離れ、新しい人生を歩み始めようとしていた。
あの卒業パーティーの後、パトリシア王国は上から下への大騒ぎとなった。
それは、第二王妃が処断されからだ。
もっと言えば、第二王妃派の解体、粛清がなされたからだ。
王様は随分前から第二王妃派の貴族の動きに気づいており、探りを入れていたのだ。
だが、つい最近まで全くと行っていいほど尻尾を掴ませなかった。
けれどある日、第二王妃派のガードに空きができた。
あの愚妹が生徒会入りしてからだ。
どうもあの愚妹……いえ、もう縁も切れたので彼女といいましょうか。
あの力は無自覚でいて無秩序に発揮されていたようで、生徒会役員以外にも、第二王妃派の貴族子弟達をも狂わせていたようなのだ。
彼らは彼女を振り向かせようと様々な贈り物やアプローチをかけ、その度に症状は悪化していく悪循環に陥り、ついには第二王妃派の壁にヒビを入れたのだ。
そして、貴族子弟達の行動により情報に穴ができた。
結果だけ言えば、彼女の力によって第二王妃派の牙城は崩れ去る形となったのだ。
それにしても、その後も大変だったわね。
第二王妃派が摘発されたことにより、後ろ盾を失ったセオドアは王位継承権を剥奪された。
そもそもの話、学園での素行の問題もあるので当然といえば当然の結果です。
しかし、それでもあきらめきれなかったのか、声を上げた者がいたのだ。
彼女、ネトリであった。
「王よ、どうか今一度だけセオドア様にチャンスを! 慈悲をお与えください!」
そしてその言葉につづいて、第二王妃様が続いていった。
その結果、王様は一度だけチャンスをお与えになったのだ。
試練を与え、それを乗り越えられればと。
しかしまあ、本当に……わかりやすく、そして愚かな妹……。
私が予想した通りの行動に出るとは……。
おとなしく受け入れていればもしかしたらまだましだったかもしれないのに。
そう、私が王に望んだのは、【もしもネトリがもう一度機会を与えてほしいと望んだら、試練を与えて欲しい】という願いだ。
この国にはかつて、一人の王子を巡って幾人もの王妃候補が争った過去がある。
寵を競うなどであれば後宮のある国であればどこにでもある事と言えるでしょう。
ただ、我が国で起きたのは少々別の事情が起こりました。
それは、王子が第一王妃を選ぶことができなかったのです。
家格や家の力関係、能力、美貌や才能といったものを総合的に見ると全員が同じぐらいになり、能力で選ぶということも難しい事態に陥ったことがあったのです。
その際に用いられたのが【王妃の試練】である。
幾つもの筆記、実技があり、その結果を総合して第一王妃を決めるというものだった。
その後も何度か形を変えて王妃の試練は行われた。
それは時に身分違いの恋だったり、王が幾人もの縁談を断るための最後の手段だったりと様々。
今回の王妃の試練も形を変え、王子と王妃候補を試すための試練となる。
そして最後に王は彼女にこう言った。
「今ならばまだ引き返せるぞ? 本当に試練を受けるのか?」
そう、威圧を少し緩めながら問いかけた。
「も、もちろんですわ! 私こそがセオドア王子にふさわしいんだから!」
そう、ネトリは力強く宣言した。
「よかろう、だが試練を乗り越えられなければその代償は……お主が考えているよりも大きいぞ」
そして、始まった王妃の試練。
「……ぶよ、……で、でた……は、全部……し、……よ!」
開始前にまたなにか言っていたのが聞こえましたけど、またいつもの意味不明ないいわけか何かでしょうか?
なにやら本人はやけに自信があるようですけど、学園での成績は正直、筆記は悪くはないといえる程度だったはず、かと言って実技も……。
とてもじゃないけど、あの試練を超えられるとは思えませんのよね。
あの自信はどこから来るのか、正直理解できませんわ。
こうして試練は始まった。
ちなみに今回の試練ではネトリ以外の参加者もいる。
今回の一件で、それなりの貴族が粛清される事になり、その結果、席が空いてしまった領地を治める貴族を選ぶ基準の一つとしても使われることに。
まあその結果、王妃の試練が完全に貴族の格付け、もとい検定とも言えるような事態になりました。
参加者の殆どは、第一王妃派や中立派貴族で領地を持たない、次男以下の人たちだ。
第二王妃派の貴族で、事件に全く関わってない人たちもいるが、本当にごく少数です。
そして集まった参加者はのべ3桁に届くほどだった。
試練が始まってしばらくたつと、開始前のネトリとは打って代わり、徐々に余裕がなくなっていったのだ。
「まあ当然かしらね、学園で真面目に授業を受けていて卒業できても、最低限のレベルなのだから……」
一つの試練が終わり、次の試練、また次の試練へと進む度にどんどん顔色が変わっていくのが伺える。
青に始まり、最終的には真っ白になってましたわね。
試練の内容は他にも、貴族全般に必要とされる、礼節や作法、マナーなどに始まり、護身術、ダンス、交渉、外交などなど多岐にわたる。
ダンスには北の国などで行われるスノーダンス、エッジの付いた靴で氷上を滑るようにして踊るものもあったのですが、まともに踊るどころか滑ることすら出来てませんでしたわ。
交渉や外交においても、ご自慢の愛らしさを武器にしようとしてはいたようですが、交渉内容が穴だらけでした。
そして全ての試練が終わった後、結果がまとめられ発表された。
最下位、ネトリーナ=ネトリ=パトリシア
それを見た瞬間、彼女は倒れた。
「わ、わた、わた……しが……、お、王妃に……なる……なの……に」
なにやらうわ言をつぶやきながら気絶したようですね。
その後、衛兵に気絶したまま連行される彼女の姿はなんとも滑稽と言わざる得なかったですわね。
そして、第二王妃もまた……。
ですけど、しばらくしてから私の心を満たしたのは満足感でも、スッキリした清涼感でもなく、胸の中にポッカリと空いた虚無感でした。
後はもう陛下の沙汰を待つだけである。
なんなのでしょうね、この空虚なまでの虚しさは……。
その翌日、陛下から彼女たちに対する沙汰がくだされた。
「グレイテシア侯爵家は貴族席抹消の上お取り潰し、余罪追求の間は黒罪宮へ幽閉、その後余罪判明の後にさらなる刑に処する」
まずくだされたのはグレイテシア家に対する判決はお取り潰し、貴族席の剥奪、領地没収、そして余罪追求の間を黒罪宮と言われる隔離施設への幽閉となった。
そして、同じく第二王妃であったシャリーア様も諸々の責任で処断され黒罪宮へ送られることに。
なんでも隔離施設では、元第二王妃とネトリ、その両親が同室で隔離されるとか。
中では一体どんなことになるんでしょうか……ふふふ。
そしてセオドア様は保険の為、白の塔と呼ばれる場所で幽閉されることになりました。
「セオドア、お前を白の塔行きをここに決定する」
「なっ!? 正気ですか父上! 今の王家に王子は私一人だけなのですよ!」
そう、現在のパトリシア王家には男児はセオドア王子だけだった。
「全部が全部とはいいませんが、兄上にも多大な非があるのですよ」
セオドアの叫びに応えたのは、第一王女のエリオノーラ様。
「幼少の頃からの教育に関しては兄上を責めることは出来ませんが、学園に入った後の事は流石に擁護できません! 婚約者がいる中、堂々と不倫するのは王族として、いや男としてどうかと思われます!」
「エリオノーラ!?」
「そして、現在王家には男児はいないとのことでしたが……」
そう、男児は現在セオドア様のみ――という事になっていました。
「なにを……いっているのだ?」
「こういう事さ!」
「なに!?」
エリオノーラ様が服に手をかけ、ドレスを脱ぎ捨てられた!?
そして、脱ぎ去ったドレスの下には男装……、いえ王子様といえる姿のエリオノーラ様の姿がありました。
「本来であれば、この姿を見せることは無いと思っていたのですが、あったとしてもそれはもっと未来のことだと思っていたのですが。いえ、むしろ無いほうが良かったと思っていたのですよ」
「どういう……意味なのだ」
動揺しながらもその意味を尋ねるセオドア様、しかしそれをやれやれと行った様子で答えるエリオノーラ様。
「はぁ、あの困った人達は兄様に王族教育というものを殆さなかったのか? あるいは偏った方向で教えていたのですね。兄様とて知っていると思っていたのですが? 我が国は男児継承、長子優先を仕来りとしてきた国ですよ。そうなれば当然第二王子はスペア、第一王子に何かあった時以外は国王を補佐する者として教育されるのが普通なのですよ」
「何がいいたいのだ……」
「本来なら私もそうなるはずだったのですが、危険すぎたんですよ」
「危険……、まさか……」
ハッとなにかに気付いた様子。
「よかった、離れたことで幾らか影響は抜けたようですね、あの人達がやろうとしてた王にそんな存在は邪魔でしかなかったんですよ。それこそ、毒を使うか事故に見せかけて暗殺しようとするほどにね」
その事実に動揺するセオドア様、否定しようと言葉を紡ぐが
「そ、そんな馬鹿な、いくらなんでも母様がそこまでするとは」
「そうは言っても現に、王女として生活していた時にも何度か暗殺されそうになったからね。兄さんだって知ってるんじゃないか?」
そう、王女様が暗殺されかかったことが何件かあったのだ。
その殆どが阻止されたが、一度だけ毒で死にかけたこともあったのだ。
それを言われてセオドア様は、完全に言葉をつまらせてしまった。
「こうなることが予想されたから父様達は私を今まで、表向きは王女として育ててきたんだ。王女でもこれだけの事が起きてたんだ。これがもし、王子として育ててたら果たして私は今ここに立っていられたかどうか……」
おそらく、生きていたとしてもこうして立っていられたかどうか……。
「兄様には申し訳ないけど、これから私は王女エリオノーラではなく、第二王子エリオスとして生きていきます!」
エリオノーラ様改め、エリオス様がそう宣言された後、セオドア様は崩れ落ち、泣き出してしまった。
ですがそれは、悔しい涙と言うよりは、悔悟の涙のようにも見えました。
「エリー……いや、エリオス、すまなかった……」
意外かもしれませんが、会う機会自体は少なかったですが、セオドア様とエリオス様の関係は悪くなく、むしろ良い方でした。
エリオス様としてはかなり複雑だったとは思いますが、それでも彼女に出会う前のセオドア様とエリオス様の関係は周りから見れば、割と仲のいい兄妹に見えていました。
その後、セオドア様は連行されて白の塔と呼ばれる、王族の隔離施設へ。
白の塔とは、もしもの時の為に王族の血を残すために用意された塔。
入れられる理由は様々、それは罪を犯してしまったのか、あるいは生まれや身体的な理由によるものなのか……。
なんにしても、王家の血を絶やさないようにするための施設です。
何かしらの理由がない限りは、二度と表に出ることはないかもしれません。
一生飼い殺しの生活か、新たに男児が生まれた時にはどうなるのか……。
それから数日後、私は王様から今までの謝礼を受り、この国から離れる為に旅の準備をしていた。
旅の装備や馬などの用意も国持ちでしてくれたため、手元には十分な資金もある。
自分でも何をしたいのかわからないけれど、もしかしたら旅の先で見つかるかもと思ったからだ。
自分の生きる意味を。
この空虚な胸の内を満たしてくれる何かがあると信じて……。
そして出発の前日、私は久しぶりに夢を見た。
明るく、とても暖かな場所で、私にとってはとても懐かしい人と会う夢を。
だけどその顔は、現実で出会ったことのない人。
それなのにとても懐かしい。
私が王家に行ってから、辛い時に夢だけで出会える女性。
夢の中のこの人には、私の自分の中に溜まっていた感情を口にできた。
時折助言したり、私がつらい、苦しい、なんで私ばかり……。
そんな時に現れては、母親に抱かれた様な気持ちにし、時に悪い所を叱り支えてくれた夢。
(もう、私がいなくても大丈夫ね)
夢の彼女は私に告げた。
「もう、会えないの?」
もっと色々伝えたい事があるのに、夢の中ではうまく伝えられなかった。
(多分これが最後。でも大丈夫よ。もうあなたはどこへでも行ける! 自分の幸せを探しに行けるのだから)
「幸せ?」
(そう、あなたの胸の内をきっと満たしてくれる何かが、きっと世界の何処かで待っているはずよ)
「本当?」
(ええ、だがら見つけに行きなさい。あなたの幸せを、大切な何かを見つけるために)
彼女がそう告げると、だんだん彼女の姿が見えなくなっていく。
夢が覚めようとしているのだろう……。
彼女が言うように本当にこれが最後なのだとしたら、この気持だけは伝えなければ。
「いままで、支えてくれて……ありがとう」
(どういたしまして、それから……)
その言葉を最後に、私は目を覚ましたのだった。
それから支度を整え、旅に出る直前、王妃様から一度だけ引き止められたけど、その後は一つだけ忠告をもらってから笑顔で送り出してくれた。
それから国境を目指す中、私の目に写ったのは人々の営みだった。
城下町から始まり、道中の村々の人々の暮らしだった。
「そう言えば、こうやってのんびりと過ごすのはいつ以来だろうか……」
聞こえてくるのは人々のちょっとした談笑だったり、子供の賑やかな声、時には男たちの喧嘩声だったり、商人と客の根切り交渉でそれによってギャラリーが出来てたりと様々。
けれどそれは、人々の日常。
私が今まで触れることのなかった日常なのだ。
思えば家を追い出されたあの時から私は、仕事で孤児院などに訪問したりすることはあっても、こうして街に降りてゆったりすることなどなかったのを思い出した。
お城に入ってからは教育と訓練と仕事ばかり、休みがあっても街に降りる事はなかったのだ。
学院に入っても周りの目があり、力を抜くという行為そのものを忘れていた気がする。
2年になってから卒業式までは、彼女の所為でずっと仕事漬けの日々……。
今思えば良く体が持ったなと、心からそう感じた。
こうして心の余裕をもっていると、仕事で来たときには聞こえなかった人々の声がよく聞こえてくる。
「お母さん、今日の晩ごはんなに~?」
「さぁ、何にしましょうかね~?」
「だったらぼくあれがいい! あれにしよ!」
「そうね~、それも良いかもね?」
「やった~! ぼくお母さんの作るあれ大好き!」
普通に暮らしていたなら何の変哲もない親子の会話。
「ただいま~」
「お帰りなさい、あなた」
「お父さんお帰りなさ~い」
「ご飯にする? お風呂にする? それともわ「言わせねぇよ!? 子供の前で何いってんの!?」ふふふっ」
家族の楽しげな声……、最後何か妙なのが混じってた気がしたけど?。
「今日は何して遊ぶ?」
「かくれんぼ!」
「じゃあ僕はおにごっこ!」
「なら勇者ごっこを」
「「「じゃ、言い出しっぺってことで魔王役よろしく!」」」
「なんでさ!?」
畑仕事の手伝いの後の子どもたちの他愛のない遊びのやり取り。
そんな日常の光景を見ながら、私はポッカリと空いた穴が何なのか薄っすらと理解しだしていた。
そして、国境を超えてしばらくどこへ行くか? 馬に乗りながら当てのない気ままな旅、風の向くまま気の向くまま、まずはこの道の先にある街を目指してみるかと、道なりに続いていた森に入った所で、野外訓練で身についた感覚に引っかかった存在がいた。
「国境越えてほんのちょっと離れたらいきなりこれですか……、そこ!」
腰に下げていた投擲用ナイフを投げると、そこにいた何かが現れた。
ナイフは弾かれ、現れたのは黒ずくめの衣装を身にまとった人たち。
「最近の盗賊は黒ずくめが流行りなのかしら?」
全身黒ずくめの人たちに6人囲まれた中、その内の一人がこちらに向けて言った。
「……ルーテシアだな、恨みはないが仕事なのでな」
「私はようがないんですけど……ね!」
そう言うと同時に馬だけを正面に走らせ、自分は後方にいる黒ずくめの暗殺者3名に向かって飛んだ。
腰に挿していたナイフを左手で牽制に投げつけるとそのまま腰に下げていたショートソードを抜いて斬りかかった。
相手の意表を付けたのか、一人を弾き飛ばして無理やり囲いを突破する。
だけど、そう思ったのもつかの間、抜けた先に更にまた黒ずくめの人たちが、それも大量に現れた。
「ちょっと、いくらなんでも多すぎじゃありませんか!?」
「覚悟!」
飛んでくるナイフを躱し、剣で弾きながらも、複数人に連携されながら囲まれ、どんどん追い詰められていく。
そんな中でも、一人二人と叩き伏せてはいるが、正直キリがない!
「もらった!」
「しまっ!?」
切られた味方を盾にして放たれた一撃で、私の剣が弾き飛ばされてしまった。
そして、別のもうひとりが突き出したナイフが、防具の隙間に向かって放たれようとしていた。
(だめ、やられる!?)
だがそう思った瞬間、上から聞き覚えのある声が聞こえた。
「やらせるかよ!」
「何!?」
黒ずくめの後頭部を飛び蹴りで吹き飛ばし、その反動を利用して飛び、近くにいた他の黒ずくめを蹴り飛ばした人がいた。
「よっ、一週間ぶり! ずいぶんと恨まれてるみたいだな」
「完全に逆恨みよ、多分隠れ第二王妃派に雇われたんでしょうけど」
「半分自滅みたいなもんだったのにな」
それから背中合わせにしながら、黒ずくめ改め、暗殺者の集団と向き合う。
そんな中、ウォルフォード様から渡されたのは意外なものだった。
「それからこれ、忘れもんだ」
「え? これは……」
私が愛用していた、鉄扇だった。
貴族をやめるけじめとして置いていったのに。
「置いていかれても困るってさ」
「そう……、なら仕方ないわね」
鉄扇を構え直すと、ウォルフォード様は続けて言った。
「それに、来たのは俺だけじゃないぜ!」
すると、周囲から一斉に声が上がった。
「行くぞ! 我らが姫君の出立だ! 眼前に留まる敵を一掃せよ! 花道をあけてやれぇぇぇ!」
「「「「「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」」」」」」」」」
前後の道、更には森の中からもその声が聞こえてくる。
周辺を囲っている騎士たちの顔を見ればよくよく見知った顔ばかりだった。
「あれは、王国騎士隊第13番騎士団!?」
「野盗の討伐ついでに見送りだとさ、どう見ても野盗の方が建前の気合の入れようだったけどな」
「まったく、私はもう除隊して、貴族もやめたっていうのに……」
第13番騎士団は、私の王妃教育の一環で、護身術や野営訓練の為に入れられた隊だ。
第13番騎士団の主な役割は、人々の安全を守るために国内や、国境周辺の野盗や魔物を討伐するのが目的とされる部隊である。
そのため、討伐中の野営や山中行軍などは日常の部隊でもあったのだ。
そこに配属された私は、剣を振るうよりも後方支援担当が多かった気がする。
それでも料理もすれば、傷を追った隊員を治療したりすることが多かった。
それでも野盗や魔物と戦ったことも少なくはなかった。
今思えば、あそこにいた日々はある意味、王妃候補のルーテシアではなく、ただのルーとして居られた数少ない場所だったのかもしれない。
他の教育も有り、所属していた期間こそ短いけれど、しっかり覚えてる。
こうして、暗殺者一同はまとめて騎士団に御用となったのでした。
生き残ってる連中から裏とりが終わればおそらく、残っていた人たちも粛清されることになるでしょう。
なんせ、偶然とは言え、他国の王族の方も襲われたのですから、有耶無耶には出来ないですもんね。
そして、事後処理と団長との別れも済ませて、私は改めて旅に出たのだった。
「よかったのか? あの団長さん、ルーに残って欲しがってたけど」
「ええ、私が残ってもいらぬ火種になるだけだからね。それよりもウォルフォード様、学園の時とだいぶ口調が違いますけど」
馬はあの後、騎士団に保護されて無事返された。
あの後から、なぜかウォルフォード様も一緒に行動している。
「ここはもう学園じゃないんだ、それにもう今更だろう? かたっ苦しいのは苦手なんだよ」
「そうですか……、あら分かれ道ですね」
道は左右に分かれていた。
「どうやら、ここでお別れのようですね。私はあちら側に行きますので、ウォルフォード様のお国は向こうでしたね。それでは、お元気で」
そう言って、別れを告げて進んだはずでしたのに……。
「あの、どうしてこっちにきてるんです? 行き先は反対側じゃないですか?」
「いいんだよこっちで、それに女の一人旅は危ないだろ?」
しれっと、おんなじ方向に付いてきていらっしゃってるんですけど……。
「お国はあちらですよね、卒業したのでしたら国に帰らないといけないのでは?」
「ちゃんと手紙は出したから問題なし、国に帰るにしても、どのルートを通るのかは決まってないからな、遠回りでも構わんだろ」
「いやいや、流石に問題でしょうよ! 留学生が卒業してから帰ってこないとか! 下手すれば国際問題ですよ!? 確か王族ですよね!? 国の血税でしょ!?」
国のお金で来てるということを全面に打ち出して、国の方に向かう様に説得するが。
「手紙は出して返事も来た。一応親父の許可も取ってあるし、何より学費は自腹だ」
「えっ!?」
あまりの事に一瞬、頭が真っ白になりかけました。
学園の学費、結構な額だったはず……。
「お国柄、鍛錬は義務みたいなものがあったからな。王族ならなおさらだよ。ついでに王族が率先して魔獣討伐とかやってたからその素材の売却額で問題なし! それに王族って言っても末端の末端、兄貴や姉貴たちで何十人いるやら? 許可が取れてるんだから国際問題にもならん」
「ええ~……」
そして、犬歯を見せながらニカッと笑いながらこう告げた。
「という訳で、お前さんの旅についていかせてもらうぜ」
「王族貴族はもうこりごりですわよ……、言っても無駄みたいですけど」
「そういう事だ、よくわかってるじゃねえか」
ちょっとした頭痛にこめかみを押さえながらも、最後の抵抗に打って出ることにした。
「どうしてもついてくるのですね、わかりました……ならば」
手綱を握りながら足で馬の腹を叩き、走り出したのだ。
「ついてこれるならついてらっしゃ~い!」
「あっ、てめ! ずっこいぞ!」
慌てて駆け出すウォルフォード様を尻目に、まだ見ぬ地平の彼方へ走り出す。
この旅路の先に私の幸せがあるのか、それはまだわからない。
けれども、いつか出会えると信じて私は道を進み始めたのだった。
なお、馬と同じ速度で並走する獣人の脚力をなめていた事を追記しておきます。
その後、旅の途中で聞いた風のうわさではその後に、第二王妃と元侯爵家が公開処刑されたと聞いた。
そこからさらに、第一王妃が第三王子を出産したとの話も流れてきたのだった。
前書きでも書きましたが、本当に長らくおまたせしました。
スランプや、不眠症なんかもかかり、仕事のこともありなかなかかけませんでしたが、書いては消し、書いては消し手を繰り返しなんとかかきあげました。
もしかしたら後日追記したりするかもしれんが、こちらはこれで一旦完結です。
なんども応援コメントを書いてくれた人たちの応援もあって、書くことが出来ました。
応援してくれた人たちにこの場をもって感謝を述べさせていただきます。
ありがとう!




