好敵手、プライドのぶつけ合い
新入生ライブで結羽歌とベースの勝負、彼女はそう言った。
とは言え、何故こうなったのか、事の発端がわからないしどう返せばいいのか......。
「ええと結羽歌、なんでこんなことに?」
適当に質問してみる。
当の本人は拍子抜けたみたいになってるけど......。
「私もよく、わからないんだけど......」
私からやや目を逸らし、俯いてしまった。
恐らく結羽歌の反応からして、この高島琴実という女が勝手に話を持ちかけてきたということだろうな、なんて思った。
「ふーん、じゃあ高島さんはなんで結羽歌と?」
本当は下の名前で言わなきゃいけないけど、どうも抵抗がある。
夏音は例外だけど、高島さんも結羽歌のこと『池田さん』って呼んでたしこれくらい許容範囲だよね?
「池田さんのベースは凄いことになる、この私が言うんだから絶対よ。同じ初心者として負けられないのよ」
この人も初心者か、流石に経験者が初心者に勝負するなんて言ったら色んな意味でアレだけど......。
「その根拠は?」
「池田さんは普段は口数が少なくて、人見知りで、友達もそこまで多くないし、せっかく顔が可愛いのにそれを何一つ活用できてないダメ人間なのよ。でも、ベースを弾くときだけはちゃんとした人間の姿になってるの。だからそんな人に私は負けたくないのよ!」
うわぁ......。
ライバル視してるのか何なのか分からないけど酷い言い様だ、いくらなんでも結羽歌が可哀相すぎる。
「えうぅ......、ひどいよ......」
結羽歌が瞳に涙を溜めている、このこはあんまりメンタル強くないんし少しは言葉に気をつけるべきなのに......。
メンタルの強さがどうとかいう問題でもないんだけどね。
「あんまり調子乗らない方がいいよ」
「!!」
黙ってる訳にはいかないからここは一歩踏み寄ることにする。
調子に乗ってるのは本当だし、それくらい言っておかないと気が済まない。
「あんたに結羽歌の何が分かるの? 人見知りの何が悪いの? 大体最初からそんなこと言ってるようじゃ、あんたは勝負する前から結羽歌に負けてんのよ!」
「そんなことない! 私は池田さんと違って人見知りなんてしないし、顔だって負けてない! ベースができてれば私は池田さんに全てで勝てるの! だからこうして勝負するってのに、あなたはどうして邪魔するの? これは私と池田さんの問題なの!」
「あんたが勝手に結羽歌を巻き込んでるだけでしょ!? 何でもあんたの基準で思い通りに行けるなんて思い込んでるからそんな薄情なこと言えるんだろうけど、それは間違いだから。まあ勝負するのは自由だけど、さっきまでのあんたの発言で結羽歌が傷ついてんの!」
私なんでこんなに怒ってるんだろう、もうちょっと上手い説得とかもあったかもしれないのに......、もうここまで来たら後戻りできないけど。
「音琶ちゃん、もういいよ......」
結羽歌に袖を引かれ、私は我に帰る。
「あ......」
言おうと思ってたことが頭の中からどんどん抜けていく感覚がして、一度今の状況を顧みる。
「ごめんね、私がこんなんだから......」
結羽歌が目を潤ませながら訴えてきた。
この前の浩矢先輩の件やらスピーカーの件やらで結羽歌はきっとすごく辛い思いをしているはずなのに、結羽歌は何も言い返さずにただただ自分を責めている。
「結羽歌......、あんた......」
「あら? もうギブ?」
高島さんが煽るように上目遣いで私たちを見下ろしている。
今すぐにでも張り倒してやりたいけど、結羽歌のために何とか耐える。
だって今、結羽歌が高島さんを睨みつけて、口元が震えながらも何かを言おうとしているんだから。
「確かに、私はあなたみたいに完璧な人間じゃない。そんなこと言われなくたってわかってる」
「な、何よ、雑魚のくせに」
「雑魚かもしれない。でも、ベースは負けない。あなたには、絶対負けない」
結羽歌の眼は鋭く、高島さんは思わず声が裏返りそうになっていた。
こういう所があるから結羽歌は強いのだ、言われっぱなしで終わる様な人じゃないってことは私が一番よくわかってる、はずだ。
「あなたの勝負は受ける。これで私が勝ったら......」
「勝ったら何よ」
一息ついて、結羽歌が言葉を発した。
「さっきの言ったこと、全部無かったことにして」
これまでにないくらい、結羽歌の言葉は強くなっていた。
「......いいわ。でも私が勝ったら、あんたは私の奴隷だから」
間を置いて高島さんが物騒なことを言い出したけど、奴隷なんて絶対思いつきでしょ、適当に選んだとしか思えないんだけど......。
「私はまだ練習するから、二人は帰って頂戴。気が散るから」
捨て台詞のようなものを残し、高島さんはそのまま練習を始めてしまった。
さっきまで結羽歌がしていたってのに......。
「行こ」
仕方ないからここは諦めて、結羽歌と部室から出て行くことにする。
「うん......」
結羽歌も賛同し、二人で外に出た。
その間、私も結羽歌も後ろを振り向くことはなかった。
「音琶ちゃん、ありがと......」
「え? 何が?」
「私のこと、守ってくれて......。何か私、音琶ちゃん達に守られてばっかりだよね......」
結羽歌が頬を紅潮させ、少し嬉しそうに礼を言ってきた。
「ううん、私は当たり前のことしただけだよ」
一旦間を置いて、私も結羽歌に言うべきことを言う。
「ごめんね、嫌な思いさせちゃって......」
私が結羽歌をバンドに誘わなければ、きっと結羽歌はこんな辛い思いはしなかったはず、ベースまで買うように促したわけだし、私は責任を感じていた。
「音琶ちゃんは、何も悪くないよ、全部私が悪いの」
「そんな......」
「大丈夫だよ、ベース、絶対勝つから。それに、ライバルができたこと、本当はちょっとだけだけど......、嬉しかったんだ。高島さん、怖いけど、私のベースは認めてたみたいだったし......」
やっぱり結羽歌は強いよ、何かのために自分のやりたいことを頑張って、強い目標もある。
それに比べて私は......、ただ自己満足のためにやってるようなもんなのに......。
「そっか......、そうとなったら最高のバンドにしようね!」
口ではそう言ってるけど、それが本心なのかどうなのかがわからない。
私がやろうとしていることは、結羽歌が思っていることとは大きく違っている所がある気がするから......。
結羽歌は大切な友達だし、最高のバンドにしたいとは思ってるけど、何かが引っかかる。
「あ、そういえば......」
結羽歌が何かを思いついたように口を開き、続けた。
「今日の朝、こんなのが届いてたんだけど、音琶ちゃん、知ってる?」
考え事をしていると、結羽歌が鞄から1枚の紙を取り出し、私に見せてきた。
「あ......」
今朝、私の元にも届いてた例のチラシだった。




