前日、その前の授業
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6月27日
目覚めが悪い。
そもそも俺にとって前期の金曜日は鬱でしかない、ただでさえ授業が全てのコマにあるというのに、それが終わったら部会があって、飲み会に巻き込まれる。
しかも今日という日はライブ本番の前日ということもあり、練習時間を延長させるだとかで部会の開始時間が21時になっている。
まあそれがあったからその間に練習入れることできたんだけどな。
とは言え、そろそろテストのことも気にしなくてはならないというのに、こんなことで大丈夫なのだろうか。
「お前何で昨日来なかったんだよ」
「そうだよ、滝上に面白い話しようと思ってたのに、結羽歌が居なかったらどうにもならないじゃん」
昨日の授業を全てすっぽかした結羽歌は今日はしっかりと一限から顔を出していた。
どうせ練習やバイトで疲れて寝坊したんだろうけど、二限まで休んだとなれば逆に何かがあったのではないかと思ったりはする。
てか立川、面白い話って何だ、からかってるつもりなら聞いてなんかあげないからな。
そして日高が笑いを堪えてるけど、お前何か立川から聞いたのか?
「ご、ごめん。ちょっと飲み過ぎちゃって......」
「飲み過ぎって......、あの後どんだけ飲んだのよ」
「うーん、数えてないや」
「もう......、あんまりうるさく言うつもりはないけど、気をつけなよ?」
「うん」
あの後って何のことだか、一昨日どこかで会ったのか?
「あ、それでね滝上。一昨日結羽歌と一緒にバンド組んでるって子に会ったんだけど」
「ぶふっ!!」
立川がそう言うと日高がたまらず吹き出した。
てか立川お前音琶に会ったのかよ、別に面白い話でも何でもないだろ、何の他愛もない普通の話だと思うけどな。
「それで?」
「滝上もその子とバンド組んでるのよね? 結羽歌と組んでるって言ってたし」
「まあそうだけど」
何でそんな当たり前のことをいちいち確認するんだよ、勿体振らないで早く喋ろ。
「上川って名前、どこかで聞いたことあると思うのよね~」
「はあ?」
ニヤニヤしながら俺を見る立川、もうこいつの表情を見るだけで何を考えているのかはわかったけど、面倒くさいからスルーする。
「この前日高君と話してた、滝上の意中の女の子と同じ名前なんだよね。もしかしたらって思ったんだけど~、滝上ってあのこのこと......」
「意中でも何でもねえよ、ただのバンドメンバーだ」
「でもさ、この前授業中だってのにあんなムキになって日高君に怒鳴ってたよね? 普通だったらあんなにならないもん」
「さあどうだかな、何の話してたかまでは覚えてないな」
確認のつもりかもしれねえけど、もうこれ音琶であること前提で話進めてるよな、まあ音琶なんだけど。
俺がこうして話を何とか終わらせようとしていたが、立川だけでなく日高まで割り込んできた。
「いや滝上、お前本当に面白えわ......! ここまで素直じゃないとか、別に恥ずかしい話でもないのにさ......!」
「あ?」
「本当にお前が羨ましいよ、こんなに青春出来てる奴なんて滝上くらいしかいないんじゃないか?」
「うるせえな......、大体立川はどこで音琶の名前聞いたんだよ」
「あ、音琶で当たってたんだ」
ほんとムカつくこの女、殴りたい。
「ちっ、まあそういうことにしておく」
「まあ私も、音琶以外考えられないと思ってたけどね」
「うるさい、それでお前が言いたかったことって何だ」
「音琶と滝上ってお似合いだと思ったんだ。ね? 結羽歌」
「う、うん。そうだね......」
結羽歌、お前もか、てか立川の話だとこいつ一昨日の練習の後音琶と飲んだってことだよな? 酔った勢いで変なこと話してたりしないよな?
「......言いたいことはそれだけか?」
「うん!」
即答しやがった、何がしたかったんだこいつ。
「死ね」
俺はそれだけ言って机の上の教科書に視線を移した。
その後聞いた話によると、立川は音琶に会った後日高にLINEしたらしい。そして日高も、俺と音琶の知ってる限りのことを全部話したらしい。
日高てめえ、共犯者だったなんて信じたくなかったけど、まさかそんな奴だったなんて夢にも思わなかったよ失望したよ馬鹿野郎。
とは思ったものの、別にそこまでキレてるわけじゃねえから、いつも通り接してやってもいいんだけどな。
「でもさでもさ」
「今度は何だよ」
「滝上と音琶がお似合いだって言ったのは、冷やかしとかじゃなくて本当にそう思ってるからなんだよ」
「......」
「あんなに可愛い子とバンド組んでるなんて、私が男だったら嫉妬してるくらいだよ。だから頑張って!」
「そりゃあどうも」
立川って普段はやかましい癖にこういう所もあるから、あんまり嫌いになれないんだよな。
「まあ、それ以外は全部冷やかしなんだけどね~」
前言撤回、やっぱりお前のことなんか大嫌いだ。




