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私はエースになりたがっている!  作者: 坂本一輝
第10部 新チーム発足編
366/385

練習試合 『白桜女子中等部 対 初瀬田中学』

『白桜女子さんと試合組めたんだ。よかったね由夢』

「先輩たちのお陰です、響希先輩が相手と色々交流してくれたから、うちと練習試合組んでくれた…」

『そんな事ないよ。由夢が他校との練習試合頑張ってるから相手に選んでもらえただけ』

『全国大会では負けちゃったけど、今日は勝つつもりでいってね!』


 その後、"頑張れ!"という女の子がガッツポーズしているスタンプが送られてくる。


「が、がんばりましゅ…」


 響希先輩からの熱烈なエールに、そう返すのが今の自分にはやっとだった。


「副部長~、そろそろ部員のみんな集めて!」


 顧問の先生が、遠くでそう大きな声で言いながら手を振っている。


「ぴ、ぴぃ!いま行きましゅ…」


 その大きな声に少しだけ驚いてビクンとしてしまったけど、こんなことで怯えているわけにはいかない。


 ―――先輩(しぇんぱい)たちが引退した後、初瀬田中学女子テニス部でワタシは副部長を任されていた


(ワタシなんて、人見知りだし、ビビりだし、副部長なんて似合わないし、できないと思ってた。今でも思ってる)


 だけど、それでもこの役目を引き受けたのには2つ理由がある。

 1つは、ワタシが新チームでシングルス1を任されることが多い選手になっていくであろうということ。

 そういう責任みたいなものが、嫌でもワタシにはのしかかってくるようになるんだ。


 そして、もう1つが―――


「ゆ~めっ!」


 ぎゅっと、背中に柔らかい感覚。

 ふわふわしたお布団に包まれるような白い感覚に、一瞬頭の中が飛んで顔が沸騰する。


「ぴぃっ!」

「きゃ、かわいい由夢のお返事。今日もいただきました」

「莉愛ちゃ…い、いきなり抱き着くのは、ワタシの心臓に悪いというかっ…」

「あは~。だって由夢があんまりかわいいから。かわいいものには抱き着きたくなるでしょ?」

「で、でも~…っ」


 彼女の笑顔の前に、しどろもどろになってしまう。


 そう、この子が新制初瀬田中学女子テニス部の部長、宗谷(むねたに)莉愛(りあ)ちゃんだ。

 元々実力はあったけど、夏の大会は身体のコンディション不良で地区予選から全国大会まで出場選手登録を外れていた子。

 響希先輩曰く、底抜けに明るくてみんなを元気にさせてしまう子。

 いや響希先輩がそれを言うんですかという感じだけれど、響希先輩が言うからこそ、説得力がある。


 新部長に選ばれた理由は、その明るさと人当たりの良さでチーム全体をまとめて欲しいという事だった。

 そして、その補佐をするのがワタシの仕事…。


「由夢は、今日の調子はどう?」


 そんなことを考えているうちにも、ワタシはずっと莉愛ちゃんに抱き着かれていて。


「悪くないよ…。あしゃ、朝ごはんもちゃんと食べられたし、身体の不調は特に…。気持ちの方も、大丈夫」


 指の手を1つずつ折りながら、自分が大丈夫な理由を数えていく。


「今日は由夢がシングルス2、私がシングルス1だから。由夢の対戦相手は、例の水鳥さんかな~?」

「莉愛ちゃんは、多分新倉しゃんだよね」

「あは~。正直私じゃ心元ないでしょ?順番変わる?」


 彼女の言葉に、ワタシはぶんぶんと顔を横に振る。


「そんな事…ない。莉愛ちゃん強いもん」

「由夢が言ってくれると自信になるよ!」

「だから、対戦相手が誰でも、大丈夫。それに、今日は練習試合だから…。練習になれば、勝ち負けはしょんにゃに拘らなくても…」


 きっと、響希先輩ならこう言ってアドバイスしてくれるはずだ、と言うのを頭の中に思い浮かべて1つ1つ言葉を絞り出す。


「由夢のそういうチームに貢献してくれようとする姿勢、素敵!凄いなぁ、私も部長として頑張らなきゃなぁ~」


 莉愛ちゃんはそう言って、再びくしゃくしゃと私の髪の毛に自分の顔を押し付けすりすりさせる。

 これだけのスキンシップを取られてしまうと。


「り、莉愛ちゃん~~~」


 顔が真っ赤になって、何も考えられなくなる。

 莉愛ちゃんはこうやって他の子との接し方がバグる…というか、少しだけおかしくなる時があるけれど、それも彼女の良いところの1つだと思ってる。

 響希先輩はあんまりこういうことしてくる性格じゃなかったけれど、タイプ的には同じ系統の子だと思うし、だからこそ。


(ワタシが莉愛ちゃんを支えたいって、思う…)


 副部長として。

 この子の1番近くに居る子として。

 何より、ワタシにとって莉愛ちゃんは―――大切な、女の子だから。


「み、みんなを呼ぼう。そろそろ試合に向けて最後の調整をしないと」

「そうだね!よーし、今日は白桜さんに勝って美味しいものをみんなで食べに行こ~!お~!!」

「お、お~…?」


 力強く右腕を挙げる莉愛ちゃんにつられて、よろよろと右手を掲げる。


 ワタシたちは、白桜さんとすればワタシたちも、なんだろうけど。

 前のチームで全国大会まで戦って、新チームの始動が遅れているという立場にある。

 都大会で夏が終わった子たちに比べて、1か月。時間的なロスがあるのは間違いない。


 だからこそ、響希先輩や風花先輩は新チームに気をかけてくれているし、そのおかげで新チームの発足はつつがなく行われ、練習試合もできる環境にチーム全体がなりつつある。

 今日、もし。


 全国大会で先輩たちが敗れた白桜さんに勝てるようなことがあれば。


(それはきっと、凄い自信になるだろうなって)


 そんな予感がする。

 ワタシたちは都大会で優勝もしていないし、関東でも全国でも途中で負けている。

 でも、だから。

 今度こそは、絶対に勝って優勝してやるという気持ちはどこのチームよりも強いつもりだ。


「莉愛ちゃん」

「ん?なに由夢?」

「頑張ろうね、今日の試合」

「あは~、勿論だよ~。ぎゅ~~~!!」


 莉愛ちゃんに頭をなでなでされて、また一段と強くぎゅーっとされると。

 恥ずかしいし、頭はくらくらしてくるけれど、それでも今は1つ、"向こう"を目に遣る余裕が、ワタシには生まれていた。


(勝ちます、しぇんぱい…!!)


 今日の勝利を、響希先輩と風花先輩に。

 貴女たちの『娘』は、こんなに頑張ってますよって、そう伝えたい。





 その日、白桜は予想以上の苦戦を強いられた。


 全5試合のうち、最初に行われた3試合。

 ダブルス2試合とシングルス1試合、ここから今日の白桜のコンディションの悪さ、初瀬田の自分たちがやりたいテニスをそのまま体現しているということが如実に表れる。


 ダブルス2―――仁科、長谷川ペアは個々の能力の高さもあり、前半は押していたものの初瀬田のダブルス2が連携を中心としたコンビプレーを見せ始めると試合の形勢は逆転。実戦での経験の無さ、2人の息の合わなさが表面化することとなり、力押しも通用せず。4-6で、この試合を落としてしまう。


 ダブルス1。

 三浦・山本ペアはその息の合ったプレーで善戦をしたものの、敵シングルス1の練度の高さ、実力の高さの前にあと一歩及ばず、5-7でここも落としてしまう。


 そして、シングルス3。

 河内は自分の強みであるパワーテニスでゴリ押しをしようと序盤から攻め続ける。

 しかし、敵は夏に鏡藤らと全国を経験した敵2年生シングルス3、星田菜緒。シングルスとして経験の浅い河内の弱点を的確に攻めてくるテニスで中盤以降形勢が逆転。最後までパワーで押し通そうとした河内のテニスとの相性の悪さもあり、立て続けにゲームを取られ3-6で敗戦。


 正直に言おう。


(いくら全国レベルの敵である初瀬田相手とは言え―――)


 ここまで苦戦を強いられる…いや、言葉を変えよう。

 ここまで自分たちのテニスが通用しないとは、思っていなかった・


「3戦全敗…雰囲気も良くないですね」


 ダブルス2のコートからシングルス2以降が行われるこのコートへ来ていた小椋コーチからも焦りの色が見える。


「所詮練習試合…とも言っていられないな、これは」


 これは練習試合だ。

 究極的に言ってしまえば、勝敗はどうでもいい。

 より多くのものを得て終わることが出来れば勝敗以上の成果が取れたと言える、しかし。


(今日の内容は…)


 この結果、内容で今日は良い試合だったとはとても言えそうにない。

 相手が全国で戦った選手たちを要する全国レベルの強豪だったとしても、それは変わりない。


 私たちは名門・白桜女子―――それが、このザマとは。


「監督、」


 そこで。


「わたしが流れを変えてきます!」


 こう言える彼女の力強さに、今は任せるしかない流れだった。


「お前が背負う必要はない」

「それでも、です!ここで空気を変えられるのが、わたしの強みだと思ってます」

「藍原…」

「絶対、勝ってきます!」


 そう言ってラケットを左腕に握り、コート内へと駆けていく藍原。

 その背中を見て―――


(待て)


 何故か、その言葉を言いたくなった。

 だが、私の喉からその言葉は出てこず、藍原の背中を見送ることしかできない。


 ―――私は、藍原の可能性を信じてこの試合のシングルス2を任せた


 エースを目指すと言っている彼女にとっても、その道を歩むにはこの道を往くしかない。

 だが、何故か。

 この試合が始まる瞬間、何か『嫌な感覚』が、頭の中を支配して止まらなかった。

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