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私はエースになりたがっている!  作者: 坂本一輝
第9部 全国大会編
333/385

分析・赤桐

 ―――試合前日、夜

 ―――宿泊ホテル近くの公園


 もう日が沈み、辺りはすっかり暗くなっている。

 それでも白桜の選手たちはこの公園内のスペースで練習を続けていた。


 主な練習内容は素振り、フォームチェック。


 わたしも少しサーブのフォームが気になって、手を出したら最後・・・もう1時間近く。

 何度も何度も確認するように左腕を振り続ける。

 1回戦の時に感じた、あの良い感触・・・あれを忘れたくなくて。焼き付いたあの感覚が頭の中から消えていかないうちに、何度も同じ動きを繰り返す。


(ゲームカウント5-4、ポイント40-15・・・決めにいかなきゃいけないところ!)


 頭の中で試合内容を想定して、その時その時に合わせたサーブをイメージする。


 鋭く腕を振り、しっかりとフォロースルーをとる!


「―――!」


 惜しい。

 ネットにボールが触れて、フォルトの判定。

 頭の中の大観衆がため息を吐く。

 このみ先輩がドンマイ、と励ましてくれるところまで、バッチリ想像出来ているのに。


(もう一度、立つんだ・・!)


 あのコートに、先輩と一緒に。

 そして最高の試合をして、勝つ。

 例え相手が全国最強の学校であろうと、その中の誰が来ようと―――関係ない。


「そろそろ交代の時間だよー」


 咲来先輩の声が聞こえ、部員達の手が止まる。


「もうですか?」

「公共の場所だからね。交代の学校ももう来てるから、みんな切り上げて」


 終わりか―――もうちょっと練習を続けたかったという思いもある。

 まだ不完全燃焼・・・明日へのこの気持ちをずっとラケットにぶつけていたかったけど、しょうがない。


(明日に疲れが残ったら元も子もないし)


 この後、ミーティングもある。

 今はそのことに、頭を切り替えるべきだろう。





『前日の試合で圧巻の実力を見せつけた白桜・水鳥文香!』


 ホテルの食堂ロビーで付けられっぱなしになっていたテレビから流れてくる。


『その実力には高校のスカウトもビックリ! 他校から訪れた偵察も目を丸くします』


 この間の2回戦の模様と、そこで頭角を現した文香への賛辞―――


『あれが白桜の水鳥文香か、と納得しました。彼女の力は赤桐の真田や黒永の黒中と比べても遜色がない。全国の1年生の中でもトップレベルですよ』


 テレビのテロップに表示される、"全国トップの1年生!""今大会に怪物現る!?"の文字。


『水鳥文香に、いま名前が出た真田飛鳥、黒中麻衣。更に青稜の宮嶋美南、八重山第一の古波蔵や燕山の森岡姉妹など、今年1年生世代の選手たちがこの大会で大きな才能の片鱗を見せつけています。彼女たちを"栄光の世代"と名付ける動きも一部で見られており、その中でも世代トップと言える水鳥文香は大きな注目を集めそうです』


 おお~と、その瞬間食堂ロビー内に感嘆の声が溢れた。


「あ、あれ・・・」


 でも、ちょっと待って。


「わ、わたしの名前が見当たらないんですけど!?」


 今の特集、わたし、全く取り上げられてなかったよね!?


「白桜ダブルスを支えるサウスポー・藍原有紀の名前がまったく見られないのはどう考えてもおかしいでしょ!」


 1ミリくらい名前出してくれてもいいんじゃあ!?


「そうなの! 藍原さん、もっと取り上げられてもいいと思うの!」

「ですよね先輩」

「うんうんっ」


 こくこく、と首を大きく振る海老名先輩。

 ああ。この人はこういうときでも味方になってくれるんだなぁと嬉しくなる。


「まぁそう騒ぐな、藍原。子供(ガキ)じゃないんですから」

「でも、このみ先輩っ」

「悔しいなら明日の試合で結果を出すんですよ。イヤでもお前がここに居るんだってことを、全国の奴らに分からせてやろうじゃないですか」


 ―――その言葉が、欲しかった

 どうして先輩って、わたしが言って欲しいことを的確に当ててくれるんだろう。

 その瞬間には嬉しさで、今まで怒っていた事が頭の中に引っ込んでいったほど。


「も、勿論ですっ。藍原ここに在りと見せつけてやりますよ!」

「あーもう先輩、こいつおだてるとすぐうるさくなるんですから」

「貴女はもう少しばかりお上品になった方がよいかと思いますの」

「そんな、ひどい!」


 瑞稀先輩、仁科先輩から飛んでくる辛辣な言葉。


「あ、藍原さん。私は元気がある子って素敵だと思うの」

「こういうとき慰めてくれるの海老名先輩だけですよ・・・」


 他の2年生ってホントわたしのこと、突き飛ばすようなことばっかり言うんだから。

 褒めて伸ばすって発想はないのかしら。


「水鳥ちゃん、どう? 実際全国で騒がれてみて」


 そこで部長が、話を文香の方へと持って行く。


「別に・・・、私はこういうの慣れっこですし、周りから言われるのはなんとも思いません」


 文香はどこか遠くを見るような表情で、呟くように言う。


「水鳥さんの性格なら大丈夫そうだね」

「ふてぶてしいというか何というか・・・やっぱ並の精神じゃないね、アンタ」

「いえ・・・」


 咲来先輩と野木先輩の言葉に、つーんとした表情で返す文香。


(やっぱり、"外"での文香はすごいな)


 一緒に生活してると、特に2人部屋の中では・・・精神的に脆かったり、弱音を言ったりするところも見たりするけれど。

 一歩外に出たら、それは表に出さない。文香らしい。


(逆に、文香のそういう一面も知ってるんだって思うのって、なんか優越感というか・・・)


 他人の知らない彼女を知っているようで、なんかこう・・・得した気分になる。

 わたしだけが知ってる文香の表情、みたいな。


 閑話休題。


「今から準々決勝・対赤桐戦のミーティングを行う」


 監督の一言から、雰囲気が一変。

 今までのわいわいとした歓談の空気は無くなり、部員たちの視線は真剣なものに。


 この切り替え、相変わらずすごいな先輩たち。


「まず、この赤桐中学というチームですが、みんなも知っての通り・・・全国で『最強』の学校だと言われています」


 コーチが説明をしながら、ホワイトボードをがらがらと押してくる。


「ここを注目してください」


 そしてビシッと、そのホワイトボードに書かれた一点を指し示す。


「これはとある雑誌社が大会前に行った、チーム別のランク付け評価です。我々白桜は総合評価Bとなっていますね。対する赤桐の総合評価は、」


 わたしは、初めてこのランク付け表を見たけれど。


「AA」


 その事実に、息を呑まずにはいられなかった。


「このAAという評価は、赤桐の他には黒永学院・・・この2チームしか付けられていない、このランク付け表の中でも特別な意味を持つ数値だ」

「端的に言えば、白桜(ウチ)と比べれば2段階ほど上の評価を受けているチームです」


 B、A、AA・・・と考えると、確かに2ランク違うということなのだろう。


「特にこの赤桐を印象づけているのが、シングルスの榎並、富坂、真田・・・。この3選手」


 皆、聞いたことのある選手ばかりだ。


 『八極』、全国でもトップレベルの評価を受けるシングルスプレイヤー、富坂選手。

 "西日本最高の選手"と言われる全国最高峰のサウスポー、榎並選手。

 天才1年生として大会を湧かせる真田選手。


「そして、これも皆知っていると思うが・・・、赤桐側はこの3選手をどこで起用するのか、指定してきた」


 そう。

 昨日のテレビ中継のことを、部員達ももう全員知っていた。


「『富坂をシングルス2』で起用する。この発言は、真田をシングルス3、榎並をシングルス1で起用すると言ったことと同義と捉えている」

「赤桐の幸村監督は過去に、榎並選手をエースとして認めるような発言を何度かしています。つまり、この試合―――彼女をシングルス1に据えて試合を任せるものと考えられますね。1年生の真田選手をシングルス1に置くメリットもないですし」


 コーチは言いながら、ホワイトボードのそれぞれの選手の名前の上にS(シングルス)1、2、3の数字を書き加えていく。


「監督」


 そこで話に割って入ったのは、


「自分は"どこで"試合に臨めばいいですか?」


 ―――まりか部長だ。


「私、シングルス2でも1でもどちらでも構いませんよ」


 彼女は自信満々に告げる。


「富坂愛美、榎並命。どっちが相手でも負けるつもりはありません」


 『貴女に言われた場所で、結果を出す』と。


 ・・・それを聞いた瞬間、この食堂中の視線が監督の方へと向く。


 みんな、待っているのだ。

 彼女の決断を。

 彼女が下す、采配を。


「・・・それに、ついてだが」


 ゴクリ。

 皆が息を呑み、監督の言葉を待つ。


「明日まで、待って欲しい」


 それは、わたしからしてみたらちょっと"意外なこと"で。


「これは準々決勝を・・・いや、"お前たちの夏"を左右するような重要な判断だと思っている。だから、今晩一晩考えたい」


 初めて―――ああ、この人でも迷うことってあるんだなって。


「明日の朝一番、もう一度ここに集まった時。私の口から直接伝えるつもりだ」


 そんなことを感じるくらいには。

 今の監督の表情からは、そのたった一つの采配に、『死ぬほど』悩んでいるんだってことが・・・ひしひしと伝わってきていた。

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