能ある鷹(?)は爪を研ぐ
「強くて重いショットを打つには、スイングの質を上げる必要があるんですが」
先輩はいつもと違う方の手・・・、わたしと同じ左手でラケットを握る。
「お前の場合、その独特のテイクバックと手癖があるのでなかなかセオリー通りにやっても上手くいかないと思うんですよね」
先輩はわたしのフォームを真似ようと手首をぐねらせるが。
「・・・ぜんっぜん再現できんです。お前の手首どうなってんですか」
「あ、あはは。ちゃんと関節繋がってますから大丈夫ですよ!」
これってフォローになっているだろうか?
「それを度外視しても、お前のフォームはちょっと手打ちなんですよね。ちょっと見てろです」
先輩はそれから二通りのスイング方法を見せてくれた。
1つ目は手打ちと言われる、手だけを使いスイングスピードを速くしたフォーム。
もう1つは腕だけでなく肩、上半身全体を使ってボールを押し込むようにするフォーム。
どちらが強いショットが打てるフォームかは一目瞭然だった。
「それに手打ちは長く続けてると腕に負担がかかって怪我の元になったりするんですよ」
「へえぇ~。初めて知りました」
「お前、一体今までどこで誰にテニス教わってたんですか」
先輩は呆れた表情をしつつも、咳払いをして話を進める。
「更に普通は威力のあるショットを打つ場合、ボールの回転を気にしなきゃならないんですがお前の場合、それは割愛しましょう」
そこまでやってると1ヵ月じゃ到底不可能ですから、と先輩は言い切る。
「ボールを身体の近くギリギリまで引き付ける。そして身体全体でスイングをする」
先輩は自分のフォームではあるものの、それを強調したスイングをゆっくりとやって、見せてくれる。
「そして、これがお前の1番修正しなきゃならないポイントなんですが」
「そんなものがあるんですか?」
「ある意味お前を象徴するものですからね」
先輩はため息をつくような調子で言う。
「とにかくボールを無理矢理強く叩こうとしてる点です。面でボールを捉えて、そのまま力任せにインパクトしてる」
「それっていけないことなんですか!?」
「大きなテイクバックで強引なショットを打つなんて愚の骨頂。お前の場合、その変則テイクバックは良いにしても、強いショットを打つんだと言う気持ちがはやってボールを強くインパクトすることしか考えられてない。まさに力押し一辺倒のパワーバカの考えですね」
うう、そこまで言われると凹む・・・。
わたしががっくりと肩を落としていると、このみ先輩は優しくわたしの肩に手を置く。
「まあ、そう落ち込まなくても良いですよ。今日からは私が付きっきりで練習に付き合いますから」
「先輩・・・」
「お前に足りないのはしっかりとした指導を受けること。これから毎日、納得がいくまで素振りをやってもらいます」
「素振り、ですか」
「強いショットを打つにはしっかりしたフォームを身につけることとスイングスピードを上げることが何より効果的です。それには、ひたすらラケットを振って練習するしかない」
ひたすら練習・・・。
やっぱりそうなるよね。練習以外に強くなるための道なんて無いんだ。
―――エースになるには・・・誰よりも練習しなきゃならない。
「望むところです! 先輩、わたしに最強のスイングを教えてください!!」
「ふふっ、私、お前のそういうバカなところ、嫌いじゃないですよ」
思わず笑ってしまった先輩に対して。
「こういう生き方しかできないものですから!」
わたしは今日もまた、意志を言葉に出して伝えた。




