分からない!
「ああ゛~~~~」
夕食後、部屋のベッドに倒れ込んだ。
「あの鬼畜ピンクめぇ・・・」
先ほどまで行われていた所業を思い出す。
『練習時間終わるまで走ってろです』
『え、終わるまでずっとですか!?』
『今日のところは、です。明日からも長距離、短距離、坂ダッシュ。とにかく走ってもらうんで、よろしくどうぞ』
命令には絶対服従。
わたしはげんなりしながらも承諾すると、走り始めた。
この人の気が済むまでやらなきゃいけないんだから、やるしかない。
当の先輩はと言うと、グラウンドの端にある用具倉庫を使ってひたすら壁打ちを始めていた。
(面倒見るって言っておきながら、別々に行動するんじゃん・・・)
あの人はわたしの事なんてどうでも良いからか。
そんな風に曲がって考えてしまう。
今のわたしにはどうしてもあの人のやることを好意的に受け止めることは出来なかった。
『はっ、はっ・・・』
学校施設のまわりをひたすら走る。
途中、1軍の練習コートの前を横切るのだけど。
そこには激しい練習をこなす1軍の選手たちと、そして球拾いをやっている1年生の姿があった。
正確には分からないけれど、わたしと文香以外の1年生全員が参加しているように見える。
(文香・・・)
ふと、彼女の名前が頭をよぎる。
その瞬間。わたしの前方を走る、文香の姿を見つけた。
そうだ、文香も体力強化の練習をしているんだった。
彼女が視界に入った途端。わたしの心の何かに火がついた。
―――とりあえず、文香の前に出よう。
そんな考えがふつふつと湧き上がってきたのだ。
わたしはペースを上げ、一気に文香を追い抜く。
しかし。
文香はそれを無視しない。まるでわたしに抵抗するように、ペースを上げてくる。
そして一瞬の間に追い抜かれてしまった。
『!』
わたしはそれが気に食わず、再び彼女を追い抜く。
そしたらまた追い抜かれて。そんな事を繰り返していたら・・・。
「死ぬぅぅぅ・・・。足が痛゛いぃ」
ベッドに放り出した足を見る。
無茶しすぎた。
まさに足が棒になるという表現がしっくり来る。
別に文香と競ってたわけじゃないんだから、自分のペースでゆっくり走ればよかった。
わたしの悪い癖、その最たるものが出てしまった気がする。
「うるさいわね。静かにできないの」
二段ベッドの天井・・・、つまり上の段からそんな声が聞こえてくる。
文香もなんだかんだ言って相当堪えているようだった。
食事が終わると一目散に部屋へと帰って行った彼女の姿を思い出す。
「昨日とは随分様子が違うわね。何かあったのかしら?」
「・・・別に」
わたしはあの鬼畜ピンクに釘を刺されている。
"この主従契約は絶対に口外するな""寮では極力話しかけてくるな"と。
(何よ、人に知られたくないならあんな事しなきゃいいのに!)
バーカ。バカ! 先輩のアホ!!
疲れで動かない身体に苛立ちを覚えながら、わたしは目を瞑って鬼畜ピンクに罵詈雑言を浴びせ続けた。




