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私はエースになりたがっている!  作者: 坂本一輝
第3部 都大会編 1
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食い違い

「小嶺姉妹は(はる)選手が都内でも有数のスライスショット使い、(きり)選手が一撃必殺の強力なフラットショット使いと、双子だけどプレースタイルが全く違うペアです」


 咲来先輩の言葉と共に、榛、切のショットを打つ様子が撮影された映像が食堂に設置されたディスプレイに流れる。

 夕食はとっくに終わり、今は偵察係が撮影してきたビデオ映像を見つつ、緑ヶ原の対策・作戦確認を行っている最中だ。


「それじゃあ試合中にどっちがどっちか分からなくなる心配はないって事ですか?」


 わたしははいはい、と挙手をしながら質問を投げかける。


「それがそういうわけにもいかないの」


 咲来先輩は困ったように腕を組んで。


「この2人、本当に似ていて外見で判別することがほとんど不可能なの。大会出場中はいつも同じ髪型をしているし、ユニフォームやシューズ、リストバンドの色まで同じ。1番厄介なのが、プレー中はほとんどお互いの名前を呼ばないこと・・・」

「完全に相手をかく乱させるための戦術ッスね。なるほど、そりゃあ双子にしか出来んスよ」


 隣に座っていた万理が半ば感心するようにそう呟いた。


「声かけなしで、連携が取れるんですか?」

「取れるんだよね、これが。よく双子は常識を超えた何かで繋がってるって話があるけど、本当にそういうものがあるんじゃないかと錯覚するくらい」


 咲来先輩の近くに座っていた部長が、お手上げと言ったようにひらひらと手を挙げながら言う。


「対策としては、どっちがどっちだとかいう詮索はしないというのが定石でしょうね。沼みたいに、考えれば考えるほど敵の術中にはまることになる。・・・いいかしら? 智景、仁科さん」

「はいですの」


 仁科先輩の返事が聞こえる。

 ぱっと熊原先輩の方を見ると、ぶんぶんと首を縦に振っていた。


「そしてダブルス1の最上・楠木ペアだけれど・・・」


 わたしはふと、自分の左手のひらを見つめた。

 さっきの練習風景を、思い出していたのだ。


 ―――宮本葵のプレーを見て、感じたこと

 ―――それを踏まえて例のサーブを打ってみたのだが


『・・・!?』

『燐先輩のレシーブが詰まった!?』

『姉御、今の・・・!』


 今までにない感触がした。

 かみ合わせの悪かった装置に、足りていなかった歯車を付け足して、スムーズに動き出した気分。

 どうしてもクリアできなかった問題を、"あれ"がクリアさせてしまったのだ。


『とうとう完成しましたねっ』


 そう言って飛びついてきたのはこのみ先輩だった。

 わたしの腰にぎゅーっと抱き着いて離れない。

 誰よりも一緒に練習してきた人だから・・・誰よりも喜んでくれてたんだ。


(あのサーブがあれば、明日の試合・・・)


 初めてのシングルス。

 それも準決勝の大舞台。

 緊張が無いと言えば嘘になる。確かに緊張みたいなものはあるのだ。


 しかし。


 ―――それ以上に


 興奮(ドキドキ)の方が、何倍も強い―――


「そしてシングルス3、藍原さんの対戦相手になるのが」


 わたしは不意に自分の名前が出たことに驚いて、身体がビクッと反応し、思わず背筋を伸ばしてしまう。


「は、はい!!」

「いや別に返事しなくていーから」


 左隣に座っていた瑞稀先輩に突っ込まれつつ、わたしは頭を映像の方へと切り替え直す。


「新倉雛」


 その名前を聞いた瞬間、条件反射のようにふと燐先輩の方に目が行ってしまった。


 ―――燐先輩の、妹


 その事は他の先輩たちの会話から、大体察することが出来た。

 たまたま苗字が同じなわけではない。本当の、実の妹。


 新倉雛の映像が流れた瞬間。

 燐先輩の表情が・・・ほんの少し。

 曇ったような気がした。


(・・・燐先輩?)


 どうしたんだろう。

 まるで嫌なものを目にしたような、そんな表情に見えた。

 気のせいだろうか。だって、実の妹さんだよ。本当の家族。それを見て、嫌悪感を示すだろうか。


(見間違い、かな)


 しかし。

 わたしは今の燐先輩の表情に、少し心当たりがあった。


 ―――あの表情を、わたしは知っている


「雛選手の最大の長所として挙げられるのが、この粘り強さね」


 映像の中の新倉雛が、もうどう見ても無理と言う打球に追いついて、それを打ち返す様が流れ、彼女はそれを更に返されても、尚打球に食らいつく。


「とにかくボールに対する執着心が半端じゃない。なかなか1ポイントを取らせてくれないの。多分だけど、相手がボールをインパクトする瞬間に、右に打つか左に打つかという程度の事が天性の勘のようなもので分かるんじゃないかと」


 粘って、粘って、粘って。

 その強い執着心に焦った敵が、甘いボールを返してしまう。それを新倉雛は見逃さず、確実に仕留める決定力の高さ。


「威力の高いショットや前陣に上がることで超攻撃的なテニスを仕掛け、早めにポイントを取る藍原ちゃんのテニスとは真逆だね」


 部長の冷静な言葉に。


「わ、わたしはどうすれば良いのでしょうか!?」


 焦って、声が上ずる。


「こりゃ力でごり押すのが1番なんじゃないですかね」


 部長の近くから声が聞こえてきた。

 声から察するにこのみ先輩なんだろうけど・・・この位置からだと、アホ毛がくりんと動いてることしか分からない。


「粘れないほどのパワーと威力での一点突破。敵がバリアを張ってくるなら、真正面から力をぶつけてぶち破ってやればいいんですよ」


 さすが、このみ先輩。

 わたしに理解できる言葉のチョイスがよく分かってる!


「だそうだけど、藍原さん?」


 咲来先輩が少し微笑みながら、首を傾ける。


「はい! 非常によく分かりました! バリアブレイク、この不肖藍原めにお任せください!!」


 自分の問題には、ある程度答えが出た。

 あとは―――


(燐先輩)


 わたしは、先輩とお話しなきゃいけない。

 何故か、そんな事を直感していた。





 ・・・ん。


 真っ暗なはずの部屋に点る灯りで、瞼の裏が明るくなって目を覚ます。


「センパイ・・・?」


 まだ朝には早すぎる。寝てから数時間しか経っていないはず。

 擦りながらなんとか目を開けると、机の上を間接照明が照らし、その灯りの下にノートを開いて何かを考えているセンパイの姿があった。


「あら、起こしちゃった? ごめんなさいね、雛」

「いえ。それはいいんですけど、センパイ、何を・・・?」


 センパイの足元を見ると、過去に使った戦術ノートが山のように積み上がっている。


「白桜の過去のオーダー傾向を見返していたの」

「・・・!」


 そこで、センパイが何をしていたのか。

 ううん。

 してくれていたのかを、理解する。


「恐らく明日の試合、新倉燐をシングルス3で起用してくるとは思うけれど・・・。"不確定事項"があって、100%の確証が取れなかったから」

「センパイ・・・、どうしてそこまで」

「雛。あなたの為だもの。あなたは燐に勝って、過去の問題に決着をつけなくちゃいけない。あなたはそのためにテニスを続けてきたんでしょう? だから、ここでワタシがオーダーを読み間違えることがあってはならない・・・!」


 センパイはそう言って、ノートを1枚ぺラりとめくった。

 あたしは居た堪れなくなって。


「センパイッ!」


 ぎゅっと、センパイに抱き着いていた。

 柔らかい感触。そしてふわふわのストロベリーブロンドが鼻をくすぐる。


「ふふ、甘えっ子ね。雛は」

「・・・センパイだけです」

「え?」

「あたしのことを1番に考えてくれるのは、センパイだけ・・・」


 センパイに抱き着く腕に、自然と力が入る。

 この人が居たから、あたしは救われた。この人だけがあたしを理解してくれる。

 今まで、周りの人間は私を1番に扱ってくれたことなんて無かったから。


 ―――親、親戚、大人たち

 ―――あの人たちはいつだって、完璧過ぎる姉を見ていた

 ―――"あの子は天才だ"と


 でも、あたしはそれに嫉妬したことなんて無かった。

 大人とはそういうものだと、思っていたから。

 それが当たり前なんだと。


(だから嬉しい。愛おしい。センパイが、センパイの気持ちが―――)


 あたしに愛をくれた人。

 1番をくれた人だから。


 そう。

 だからあたしは姉貴のことを嫉んだことなど1度も無い。

 あたしがあの人を許せない理由は、もっと別のところにある―――

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