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第61話 ある秘書官の帰路

 それはとあるエルフ秘書官の帰路。


「納得いかないのだよ!」


 ジュリが駄々をこねるように言った。彼女は今、帝都中央ターミナル行きのバス乗り場にいる。


「なんで淳と弥生はあっちで、ボクだけ別行動なの⁉︎」


 この調子で先ほどから憤慨の嵐。つまりはそういう事である。


「こんなの絶対おかしいのだよ!」


「おかしくありません」


 ぴしゃりと鋭い一声。そしてマリーはきりっと眼鏡を持ち上げた。


「あなた達とラムちゃんの冒険士資格は、現在のところ完全に停止してるわ」


「うっ」


 ジュリが痛いところを突かれた顔で口をつぐむ。少女のお目付け役たるエルフの敏腕秘書はこれ以上の駄々を認めなかった。


「あなた達がもしこれからも冒険士を続けたいのなら、一度協会本部に行って停止処分解除の手続きをする必要があるの。これは主に講習とか始末書とかね」


「ううっ」


「幸いあなた達はチームでも登録していたから、四人のうち誰か一人が行けば済むわ」


「そ、それならチームのリーダーだった淳が行けばいいのだよ!」


「百歩譲って仮にそうだとしても、ジュリさんはついて行かなきゃ駄目よ」


「なんでっ⁉︎」


「停止処分の原因を考えれば、当然です」


「う……う〜、ボクも天や淳達と一緒にラムに会いに行きたいのだよ〜」


 ジュリがいよいよ泣き言を口にすると。


「そんなの私だって行きたかったわよ!」


 知性的な叔母の仮面をブン投げ、遂にマリーが吠えた。


「どうして私が姪の冒険士とか姉夫婦とかの面倒を見なきゃいけないのよ⁉︎ こんなの絶対おかしいでしょ⁉︎」


「マ、マリーさん?」


 たじろぐジュリ。


「私がシスト会長に頼まれたのは天さん達の旅のサポートなのよ! 断じて身内のおもりなんかじゃないわっ!」


 しかしてマリーの不満は止まらない。


「なにが『トモくんとお忍びでソシスト旅行に行くから案内よろしくね♪』よ! それもわざわざ天さんの目の前で頼むなんて、あれ絶対にワザとだわ!」


「あ、それボクも思った」


 天の前でそんな話をすれば、彼がマリーに気を配って帰省を促すのは半ば当然の流れである。そしてマリーもまた、惚れた男に気を使われれば断るという選択肢を取りづらくなる。人情というものを熟知した実に巧みな計略だ。


『うふふ。持つべきものは姉想いな妹ね』


 悪魔の戦略家現る。その名はミレーナ。つまりはマリーの姉である。恩を仇で返すとはまさにこのことだ。


「もう、姉さんは昔からそうだわ! 自分勝手でこっちの都合なんてお構いなし。義兄さんも姉さんが絡むとポンコツになるし。毎度毎度振り回される私の身にもなってよ!!」


「……なんか、うちの両親がすみません」


 ジュリが申し訳なさそうに頭を下げる。


「とにかく、あなた達は見習いとはいえあの零支部の一員になったのよ。なのにいつまでも資格停止者じゃ格好がつかないでしょ」


「それは、確かにそうです……」


「せっかくリナさんが口を利いてくれたんだから、その恩に報いる意味でも一日も早く冒険士に復帰したい、そう言って周りを説得したのはあなた達よね?」


「……はい」


「じゃあ、まずやるべきことは形ある謝罪と反省よ。違う?」


「いえ、おっしゃる通りです……」


 マリーのお説教タイムは続く。


「だいたい、こんな事いちいち人から言われなくても自分で気づくものよ。反省が足りない証拠だわ」


「す、すみません」


「それに、ただでさえあなたはシャロンヌさんの心証が最悪なんだから、少しでも評価を上げられるよう努めなさい」


「ううぅ、あれは半分以上はミリーのせいなのだよ」


 そこで。


「ジュリ〜、マリ〜〜!」


 子供のようなはしゃぎぶりで手を振りながら近づいてきたのは、やたらとバカでかいサングラスをかけたミレーナである。


「今トモくんから連絡があって、もうすぐこっちに合流できるって」


「……姉さん。いい加減、家族の前で義兄さんをそう呼ぶのやめた方がいいわよ」


「……ボクもできればやめてほしい。この前ミリーも同じこと言ってた」


「えー、だってトモくんはトモくんだもん」


「……あと、その喋り方もやめてくれない? 本気でイラッとくるから」


「うぅ、ボクの中の両親のイメージがどんどん崩れていくのだよ」


「えー。――あ! トモくんが来たみたい。ここよトモく〜ん♪」


 こうして、マリーはジュリと姉夫妻を引き連れて西大陸へと帰っていった。


「一週間で職場復帰とか……これただの外国旅行じゃないのよッ⁉︎」

 

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