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第59話 一撃

 魔力の強さが人の強さ。

 魔術の才能が人の才能。

 魔技の力量が人の力量。

 この世界ではそれが当たり前だ。

 この世界ではそれが普通だった。


 しかし今日この日。


 その常識が覆されることになる。



 ◇◇◇



 鋭く、速く、深く。

 稲妻のようなリナの右拳が、異形なる牛頭の凶戦士ミノタウロスの喉を食い破る。


 《闘技・螺旋貫手》


 風を突き抜く衝撃音が戦場を走る。それは己の五体を凶器とし魔物と対峙する、全く新たな戦闘スタイル。魔技に頼らず、武器を使わず、魔力に左右されない。闘技の初伝に数えられる突き技の一つである。


「つぎ」


 そして続きざまに放たれた左の貫手が次の獲物を捕らえる。蜥蜴頭の怪人ハイリザードマン。深緑の鱗に覆われた硬い腹部が、まるで紙に刃を通すように易々と貫かれた。


「グ、ェ……」


 リナが手を引き抜くと同時に、大蜥蜴の魔物は低い呻き声とともに地に倒れ伏す。同じく牛頭の魔兵士も、もはや起き上がってはこなかった。


 Cランクモンスター二体を素手で瞬殺。


 しかしそこに達成感や歓喜はない。これらはリナにとって、あくまで前哨戦に過ぎないからだ。


「…………」


 より深く、より高度に。リナは集中力を高める。鋭く研ぎ澄まされた意識と感覚。それら全てはさらなる大物を狩るために。


 リナはその存在を静かに見据えた。


「ギロロロロロロロロロロロローーッ!!」


 準災害級モンスター〔マウントバイパー〕


 猛毒の牙を持つ赤目の大蛇が、その大きな口を最大限まで開いて、殺意を帯びた咆哮で威嚇してくる。リナを怨敵と見定め、破壊し尽くすことを決めたのだ。


 両者の前方がひらけたのはその直後。


 戦場に一本の道ができた。次の瞬間。


 《特性・HPアップ発動》


 リナは己の持てる力の全てを解放し、矢のように駆け出した。


「勝負!」


 練気を纏い、地を滑るように宙を翔ける。

 それはリナが唯一修めた『皆伝』の闘技。

 それはリナが唯一マウントバイパーを一撃で仕留められる技。そしてそれは、人型の新たなる可能性を示す道標。


「ハァアアーーッ!」


 金色(こんじき)の蹴りが真昼の空に月を描く。


 《闘技・皆月(ミナヅキ)


 瞬間、空を裂く光の蹴撃が、迫りくる大蛇の牙を跡形もなく粉砕する。


 巨大な毒蛇をも喰らう必殺の一撃。


 マウントバイパーの頭部が爆発するように大きく弾け飛ぶ。そして数瞬後には、超大型の蛇の魔物はただの肉塊と化した。


 ――まさに刹那の決着――


 その場に居合わせた誰もが息を呑む。魔力と魔術の才に見放された少女が、たった一撃でマウントバイパーを倒した。準災害級のモンスターを圧倒した。魔技に頼らず、武器を使わず、己の五体のみで。それは人型の歴史が変わる瞬間だった。


「ワォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーン!!」


 雄々しい勝鬨が戦場に木霊する。後世に語り継がれる歴史的戦い。一堂邸の戦いと名付けられた人型と魔物との第一戦。この戦いにおける公式記録は多数存在するが。そのうちの一つに、次のような文章が記されていた。


『若き日の天才武闘士、天拳のリナの活躍により、人対魔の第一戦は人型側が勝利を収めたのである』


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