第42話 史上最高の男の娘
「ここから先へは一歩も通さぬ!」
天、シャロンヌ、弥生、ジュリの四人は東館を出る途中。仁王の如き迫力で屋敷の母屋と離れをつなぐ渡り廊下の間に立ちはだかっていた坊さん騎士、グラスと合流した。
「世話をかけたな、ハゲ」
「おおっ、これは主君!」
天はシャロンヌの時と同様に、ハゲことグラスに労いの言葉を掛ける。周りには大勢の屋敷の使用人達がいた。彼等は皆一様に困り果てた顔をしていたが、そちらは弥生とジュリが対応した。
「ご迷惑をおかけしました。これから私は中央館に向かいますわ」
「ボクも一緒に行くからさ、淳はこのまま休ませてあげてほしいのだよ」
二人がそう告げると、使用人達は安堵の表情とともに道を開け、天達を送り出してくれた。外は肌寒い風が吹いていた。草と土の匂いが強く感じられる。辺りはすっかり藍色の夕闇に包まれていた。
「ところで、あの童の体は無事に回復したのですかな?」
ふとそんな疑問を口にした者がいた。皆を護衛する形で後ろからついてきていた聖騎士グラスである。ちなみにシャロンヌは一足先に中央館に向かわせた。理由はいくつかあるが、とりあえずこの面子だと彼女は別行動のほうが望ましい。天がそう判断したのだ。
「まあ、いちおう体は治ったんだがな……」
「はい。お体の方は回復致しましたわ……」
「うん。体の方はもう大丈夫なのだよ……」
「?」
天、弥生、ジュリの三人は揃って歯切れの悪い返事をする。問いかけたグラスは当然ながら小首を傾げた。彼等の頭上を照らす月はまだ出ていない。
「まさか、あんな事になるとはな」
天はそう呟くと、夜の闇に包まれた東館の方角に顔を向けた。
◇◇◇
一堂家本邸東館・淳の自室。
薄明かりにぼんやりと照らされ室内。重苦しく陰鬱な空気があたりに満ちていた。そんな部屋の中には、ぽつんとひとり取り残された貴族の少年の姿があった。
「ちくしょう……!」
少年は肩を落とし、寝台に座ってうなだれていた。
「どうなってんだよ、これは……っ」
少年は堅く唇を噛みしめ、固めた拳で自らの膝を叩いた。
「これじゃ話が違うじゃないかよ!」
キッと顔を上げて、ベッド脇の円卓の上に置かれた一枚の鏡を睨みつける少年。
「なんで……なんで……!」
煌めく長い黒髪。輝くような白い肌。完全に左右対称を成した体。それはまさに非の打ち所のない容姿。鏡の中には――女神のような美貌を持つ『絶世の超美少女』が映っていた。
「なんで俺はこんなに綺麗になってんだよぉおおおおおーー‼︎⁉︎」
この夜。ここエクス帝国に、人型史上最高の男の娘が誕生した。
Lv 18
名前 一堂 淳
種族 人間
年齢 16歳
性別 一応男
職業 Dランク冒険士(12355人/冒険士人口)
最大HP 250
最大MP 70
力 45
魔 24
耐 46
敏 39
知 80
美 999




