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第三話 王子様との再会

 王子様の元での仕事は、よくわからなかった。見たこともないほど豪華な建物に通うことになり、上等な服を支給されて、ふかふかの絨毯の上を歩いた。もちろん、支給された服は、私の普段着のように穴はあいていなかった。

 仕事の内容は、温室の植木に水をやるとか、野菜の皮を剥くとかいったもので、ときどき同じ建物内で働く人への伝言を頼まれる。

 王子様の元で働き出して10日が過ぎたころ、呼び出された。私が水やりを任された温室にあるテーブルセットに、王子様が座っていた。ガラス張りの温室に降り注ぐ光が王子様の髪にあたって、輝いている。どこかに枯れた葉っぱがないだろうかと、私はあわてて温室の中を見まわした。


「仕事には慣れたか」

「まだ働いて10日ですので、至らないことが多いのですが……努力いたします」


 細かな模様のついたティーカップで優雅にお茶を飲みながら、王子様は「うむ」と言った。

 そういえば、まだ処刑を中止してもらったお礼を言っていない。私はパレードを邪魔してしまい、連行されたのだ。意を決して、おずおずと切り出した。


「あの……先日はパレードを邪魔してしまい、大変申し訳ございませんでした。本来なら処刑されるところ、このような温情をかけていただき、大変ありがたく思っております」


 エプロンの端をぎゅっと握りしめている私に、王子様は不思議そうな顔をした。


「処刑とは、何の話だ?」

「パレードの邪魔をしてしまいました。本来なら処刑されるところ、働いて罪を償えとおっしゃっていただき……」

「いや。違うが」


 私の言葉を聞いた王子様は吹き出してむせ、笑いはじめた。

 罪を償うためでないと言うなら、いったいなんだと言うのだろう。私は混乱して、エプロンの裾を握ったり離したりをくり返した。


「お前はジャガイモ一個を追いかけて、パレードに闖入したのだ。王子のパレードにな。……他の者なら、わざわざ追うような真似はせぬ。つまりお前にとって、ジャガイモ一個がそれほど貴重なものだったということだ」

「罪を償うためではなかった……ということでしょうか」

「違うとも。だから仕事を紹介したのだ。ジャガイモ一個を貴重に思うほど貧しいのかと」


 パレードを邪魔した罪でなかったということだけは理解できたが、私はすっかり混乱してしまった。


 ──だったら別に、ここで働かなくてもよかったのでは?


 確かに我が家は裕福ではないが、王子様の元での仕事が罰でないなら、従う必要もなかったのではないか。

 王子様は善意で、私に仕事を紹介したのだろうけれど──。

 私は目を回しながら、母の言葉を思い出していた。


 ──王子様というものは、突然やってきて、一方的に姫を見そめてキスをする。生活は一変するのに、周りは祝福ムード。地位があるから、断るのも一苦労だ。……この恐ろしさが、お前にわかるかい?


 私は王子様の恐ろしさを目の当たりにしながらも、これは善意なんだ、王子ムーブなんだと自分に言い聞かせた。

 やっぱり王子様は、恐ろしい存在だ。

 私が支給された服のエプロンに、うっすらとシワが寄っていた。

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