33 巨大猪に襲われ、とんでもない結果に……!
俺はミミをかばうように立ち上がりながら、ラッシュボアを見上げる。
きっとこいつらは、腹が減って食い物を探していたんだろう。
そんなところに、ブラックドラゴンも惹き付ける美味しい体の持ち主が現れた。
結果、どうなったかと言えば、俺が獲物に認定されてしまった。これが有名税……。違うか。
ラッシュボアの群れは、次々に雄叫びを上げる。
咆哮だけでは収まらず、その場で地面に足を蹴りつけはじめた。
……今にも突進して来そうだ。
「こっちに来るな!」
そう叫んで俺が石を拾って投げつけるのと、ラッシュボアが突進してくるのが同時となる。
投げつけた石は先頭を走るラッシュボアの眉間を貫いた。頭部を貫かれた個体は絶命。突進の勢いのまま、転倒する。
後続のラッシュボアはそれに追突する形となって、将棋倒しのように倒れた。
「今だ!」
俺は倒れた群れ目がけて、石を連続投擲。
身動きの取れないラッシュボアたちは投石を受け、あっさりと死んでいった。
いきなりの戦闘であったが、ものの数秒で全滅させることに成功する。
「ふぅ、何とかなったな」
『マスター、つよーい!』
俺が手の甲で額を拭う中、ミミが驚きの声を上げる。
確かに、ここまで巨大な個体を適当な投石で倒せてしまうのは異常だ。
レベル99、恐るべし。
「ついでに、こいつらも回収していくか」
と、倒したラッシュボアをアイテムボックスへ収納する。
ウィンドウを開いて数を確認すると、ラッシュボア×14と出た。
軽トラサイズの猪が十四頭。これだけ大きいと食い出がありそうだ。
「そうだ、あの村に行ってみるか」
『どこか行くの?』
ラッシュボアを退治したことを知らせておけば、安心してもらえるのではないだろうか。
ついでに倒したラッシュボアをあげれば、村の修復費用と食料の足しになるかもしれない。
縮んでもらったミミを胸ポケットに入れ、村があった場所を思い出す。
「ミミ、ちょっと寄り道するね」
『はーい!』
思い立った俺は、早速村を目指した。
「あら、こんなところまで捜索?」
村へ向かう途中、オレリアさんと再会する。
「いえ、オレリアさんの村へ行こうとしていたんです」
「何もない所よ? それに今はラッシュボアに襲われた影響で、人を迎えられる状態じゃないわ」
「そのことで知らせておきたいことがあったんです。詳しくは村に着いてからってことで。ちょっと失礼しますね」
俺はオレリアさんを横抱きにし、駆け出した。
のんびり歩くより、こっちの方が速い。
「わ、ちょっとちょっと! は、速いッ、速いって! キャァアアアアア……ァ!?」
あまりの速度に、オレリアさんが悲鳴を上げてしまう。
だが、それも一瞬。
「着きました」
彼女を降ろし、村に到着したことを告げる。
「……ぇ? えええ!? なんで数秒で着くのよ! そんな距離じゃないわよ!?」
「まあまあ……。着いたんだし、いいじゃないですか」
混乱するオレリアさんをなだめる。
「そ、そうね……。もう、なんかそれでいい気がしてきたわ。それで、知らせたいことって何かしら?」
「はい、実はラッシュボアの群れと遭遇して、全滅させました。だから、もうこの村を襲ってくることはないです。まあ、別のモンスターが来るかもしれないですけど」
「…………」
俺の報告を聞き、こめかみを押さえて黙り込むオレリアさん。
しばらく沈黙が続いた後、口を開く。
「この村はね、元々冒険者の野営地だったの。この辺りは食肉に適したモンスターが多数生息しているから、良い狩場なのよ。だから、腕利きの冒険者がよく居座ったの。それで野営地が拠点になり、宿になり、村になった、というわけ」
「へぇ……、そうだったんですね」
「だから、この村は他の村と違って、作物の栽培ではなく、モンスター狩りを生業としているのよ」
「それでこんな山奥に」
「そういうわけ。つまり、村の者は私も含めてモンスターのことに詳しいのよ。……ラッシュボアは、そう簡単に倒せる個体じゃないわ。一頭を数人がかりで取り囲んで仕留めるようなモンスターよ。私が貴方と会ったのは本の数分前。そんな短い時間で、ラッシュボアを単独で倒すのは不可能。ましてや群れを倒すことなんて、絶対無理よ」
「あ、今出しますんで」
俺はそう言うと、アイテムボックスからラッシュボアの死骸を全て出した。
信じてもらえないのなら、説明するより現物を見せたほうが早い。
十四頭出すと、ちょっとした山になってしまった。一頭がデカいので仕方ない。
「…………」
オレリアさんが再びこめかみを押さえて黙り込んでしまう。
数秒後――。
「村長呼んでくる」
と、ボソッと呟き、村の中へ入って行ってしまった。
俺は村の前で取り残される形となってしまう。
このまま待っていた方がいいのかな。
「何事じゃ……! なんで無言で押すんじゃ! オレリア、何か言いなさい!」
「……いいから。こっち来て」
俺がぼんやりと村の前で立っていると、オレリアさんがアゴ髭を蓄えたお爺さんをこちらへ押して来るのが見えた。
何か揉めてるんだけど、大丈夫だろうか。
「オレリアいい加減にせんか! 何なんじゃ! 急にこんな所まで連れてき……て、いった……い何のつも……り……。って、なんじゃこりゃーッ!?」
お爺さんはラッシュボアの死骸の山を見て絶叫し、ぶっ倒れた。
「だ、大丈夫ですか!? ひとまずこれを食べてください」
俺はお爺さんを抱き起こすと、餅スキルで月見団子を一つ作り、癒やし効果スキルを大量に注ぎ込んだものを食べさせた。
「おお……、どなたか知りませんが、ありがとうございます。これは美味しい甘味ですなぁ……。身も心も若返るようですじゃ」
もむもむと月見団子を咀嚼し、うっとりとした表情となるお爺さん。
「その子はまるもっちー君。そこにあるラッシュボアを倒した張本人よ」
オレリアさんが、俺を凶悪犯みたいな言い回しでお爺さんに紹介する。
もうちょっとマイルドに言ってもらうことはできないものか。
「…………」
すると、お爺さんはこめかみを押さえて黙り込んだ。
――お前もか。




