146 錬金術の正体に驚愕!?
結果、ヴィヴィアンさんの挑発に乗る形で、ジョゼさんの錬金術授業が始まった。
えらく急な展開だな……。こっちは心の準備ができていないぞ。
「誤解を恐れずに言えば、錬金術とは魔法陣を介して発動する魔法のことだ。魔法陣での魔法の発動を基本として、付与魔法と魔道具に派生していく感じだな。付与魔法は身につけるものに魔法陣を描き、道具や身につけるもの能力を向上させるものだ。そして、魔道具は魔法陣が描かれた部品を組み込み、複雑な機能を生み出した道具のことを言う」
「魔道具なら知っています。付与魔法はジョゼさんがプレゼントしていたやつですね」
魔道具なら携帯コンロやテントなど、自前で色々持っている。
付与魔法は以前、ジョゼさんがヴィヴィアンさんにお祝いでプレゼントしていた腕時計のことだろう。
「その通りだ。では、実際に魔法陣を描いて魔法を発動させて見せよう」
俺の言葉に頷いたジョゼさんが、紙とペンを取り出して何やら描き始めた。
「もう、張り切っちゃって。初めての授業で失敗しないでよ?」
ジョゼさんの真剣な表情を見て、ヴィヴィアンさんがすかさず茶々を入れる。
「う、うるさい! ヴィヴィが見ていると、間違いを指摘されそうでやり辛いな……」
そう言いながらも、ジョゼさんがペンを走らせた紙の上には複雑な模様と文字がびっしりと描かれていた。
文字と模様が一体となり、まるで絵画のようだ。かっこいいな。
「うふふ、間違っていれば指摘するまでもなく、魔法は発動しないわ」
「いちいちうるさいぞ。よし、描けた。この魔法陣に素材を置いていく。今回はティーカップに茶葉と水、それに砂糖を少々。そして、発動に欠かせない魔石を置く。最後に魔力を通せば……」
描かれた魔法陣の上に、ジョゼさんがティーカップを人数分置く。
次に、ティーカップの中に水と茶葉と砂糖を入れた。
最後に魔法陣の中心に魔石を置いて、指をパチンと鳴らす。
途端、魔法陣が眩い光を放つと同時に、ボフンと白煙が上がった。
煙が消えると、美味しそうな紅茶が完成していた。
ティーカップの中に入っていた茶葉は消え、琥珀色に透き通る液体が湯気を立てている。
「おお……」
目の前で起きた出来事に言葉を失う。
これが錬金術か。
『マスター、光ったよ!』
ミミも目の前の光景に驚いて、俺を揺すってくる。
「とまあ、一連の順序を経て紅茶の完成というわけだ。これが錬金術さ、分かったかい?」
うまくいった事に安心したのか、ほっと息を吐いたジョゼさんが完成した紅茶をひと口すする。
「組み立てる……、いやイメージした完成品に作り上げるって感じなのかな」
材料を組み立てるとか、加工するという言葉だけでは足りない。
ただ加工しただけなら、紅茶の中に茶葉が残っているはずなのにそれがない。
不足分を補ったり、不要なものを消したりもしている印象がある。
まるでマジックを見せられたみたいだ。
「うむ。まあこれはデモンストレーションだがね。本来なら普通に紅茶を入れた方がはるかに効率がいい。錬金術で紅茶を作るとコストが見合わないからね。次はもう少し分かり易いのでいこうか」
興が乗ったのか、ジョゼさんが新たに魔法陣を描く。
「魔法陣に魔石と……、なにか手頃なものは……。よし、このスプーンでいこう。二つを設置し魔力を通す」
魔法陣の真ん中に魔石とスプーンを設置し、ジョゼさんが指を鳴らす。
それと同時に、またもや魔法陣が発光。スプーンが直立し、回転を始めた。
「とまあ、こんな感じで魔力が尽きるまで回り続ける、といった寸法だ。これが付与魔法や魔道具に使われている仕組みに近いな。実際は部品に直接魔法陣を描くことが多いけどね」
「魔力を使って、あらかじめ決められた動作を繰り返すわけですね」
電池で動く家電製品のような感じかな。
家電製品より、もっと幅広いことが出来そうではあるけど、そう考えるとイメージしやすかった。
「ふふ、いいじゃない。錬金術がどういったものか理解してもらうには良かったと思うわよ」
と、言いながらヴィヴィアンさんが紅茶を傾ける。
その声音にはいつもの挑発めいた含みはなく、本心から賞賛していることが窺えた。
「あ、ありがとう」
ヴィヴィアンさんにお褒めの言葉を頂き、俯くジョゼさん。
その顔は耳まで真っ赤になっていた。
「奥が深そうですね」
とても汎用性に富む技術だ。
だからこそ付与魔法や魔道具などに派生しているのだろう。
「我々錬金術師の最終目標はこれを魔力一つで全てやってのけることだ。魔法陣や素材を一切使わず、魔力のみによってあらゆるものを作り出す。それが頂だ」
「魔力のみで……」
魔力で魔法陣を描き。
魔力で材料を代替し。
魔力で加工し、現界させる。
つまり、身一つで物を作り出すって事か。
そこまでいくと、生み出すと言った方がいいかもしれないな。
「まあ、現実には不可能だけどね。理想は高い方がいいでしょ?」
と、ヴィヴィアンさんが笑う。
武道の達人が素手で岩を割るとか、木刀で大木を切断する的な表現に近いのかな。
達人の逸話で出てきたりするけど、実際には不可能的な?
「……案外いけそうな気もしますけどね」
話を聞いただけなら、なんとかなりそうな気がしたけど、難しいのかな。




