番外編・別れ際に大変情熱的な求婚をされましたが、承諾した結果おどろきの溺愛が始まりました。《前編》
『最終話・大団円』で、ヴァネッサが求婚された直後のお話です。
ラウレンツ殿下が私をぎゅうぎゅうと強く抱きしめる。
嘘みたいだ。
こんな小説みたいなことがあるとは思えない。
一度は諦めた恋の相手が目の前にいただなんて。
「ああ、そうか!」
彼は突然そう叫んだかと思うと、私を引き離した。
「ヴァネッサ、お父上に今すぐ俺と結婚すると伝えてくれ!」
「もちろん伝えますけど、今すぐですか」
ラウレンツ殿下は真剣な顔でうなずく。
「婚約破棄してから十日も経っている。新しい婚約が決まっていたら大変だ」
「それはないと思います」
「ちょっと待て、敬語はやめてくれ。ヴァルとしていたように話したい」
「は――。えっと、わかったわ。気を付ける」
この人はラウレンツ殿下だけど、レイ。私の相棒で大好きなレイ。
よし。
「心配することはないわ。父は私の結婚したくない気持ちを尊重――というか、私に結婚させることはとうに諦めていたから」
「そうなのか? だが心配だな。よし、すぐに婚約を結びなおそう」
そう言ってから、彼は首をかしげた。
「待てよ。破棄したとはいえ、一年も婚約をしていたのだから、もう結婚でもいいのかではないか?」
ダメです――!と侍従たちが殿下にすがりつくかのように群がって、叫ぶ。
「あなたはともかく、ロランディ公爵令嬢の体面をお考えください!」
「そうか。仕方ない。ならば婚約だな。行こう、ヴァネッサ。出発は延期だ。今すぐやるぞ」
ラウレンツは私の返事も聞かずに当然のように手を繋ぎ、歩き出す。この感じがレイにそっくりだ。本人だから当然なのだけどね!
「『あなたはともかく』ですって」と侍従の言葉を思い出して笑ってしまう。「そんなに好き勝手にやっていたの?」
「そんなことはない。城にいるときの俺は、品行方正な王子だ」
「婚約破棄をするあなたが?」
ラウレンツ殿下が私を見た。
「どうしてもヴァルを諦められなかった。気持ちを押し込め婚約者と結婚したとしても、俺はいつか絶対にヴァルを探しに行く。だから婚約破棄するのがお互いにとって一番いいと考えたんだ」
「ヴァルとして聞くと嬉しいけれど、身勝手な理屈ね。あなたの婚約者が私でよかったわ。婚約破棄されて、とても嬉しかったもの」
「そういえば」と殿下が楽しそうに笑う。「あのときのヴァネッサは、やけに『体が弱い』を強調していたな。生気みなぎりまくりなのに、なにを言っているんだとおかしかったよ」
「失礼ね!」
笑顔でそう返すと、なぜか殿下は表情を固くした。
「どうかした?」
「いや」と顔をそむけるラウレンツ殿下。その顔が、ほのかに赤い。「ヴァルでもヴァネッサでも、笑顔は同じだなと思って」
ドキリとする。
ほんの少し前までは彼にはなんとも感じなかった。なのにレイだとわかったとたんに、ときめいてしまうのだから不思議なものだわ。
◇◇
破棄したときと同じように、ラウレンツ殿下が勝手に必要書類を作成してお互いにサインを書き込んだところで、サロンに国王陛下がとびこんできた。
「ラウレンツ!! ヴァネッサ嬢に求婚したとは本当か!!」
陛下に続いて王妃様、第一王子殿下ご夫妻もいらっしゃった。
「ええ、このとおり」とラウレンツ殿下は婚約宣誓書を彼らに見せる。
「ヴァネッサ嬢――!!」と陛下が叫んで、椅子にすわる私に抱きついた。「ありがとう! 本当にありがとう! このバカ息子の気持ちを変えてくれて!」
「本当! ラウレンツをもらってくれてありがとう!」と反対側から王妃様が抱きついた。「あなたのおかげで、私たちはようやく安心することができるわ! ラウレンツは悪い子ではないのだけど、自分勝手が過ぎるのよ!!」
王宮に平和が訪れたと言って、嬉し泣きし続ける国王ご夫妻。
ラウレンツ殿下は「大げさだ」と不満げだ。
「ありがたいけど、本当にいいのかい?」と心配そうに訊いてきたのは、第一王子殿下だ。「ラウレンツはいいヤツなのは間違いないが、かなり苦労することになると思う」
そのとなりで王子妃様が力強くうなずく。
イヤだわ。ラウレンツ殿下って家族にこんなふうに思われているのね。私とまるっきり同じだわ。
「みなさま。ご心配なく。大丈夫だと思います」
「そのとおり」とうなずくラウレンツ殿下。「俺が愛した人はヴァネッサだった」
「どういうことだ?」と陛下。
「運命の人は、認識変更魔法で姿を変えた彼女だったんです!」
「なんと! 本当に運命的ではないか」と目をみはる陛下。
「そういうことで父上、彼女から離れてください」
「いや待て」と第一王子殿下が弟と私の顔を見比べる。「お前、『運命のひと』には王子としてではなくアレの姿のときに出会ったと言わなかったか? いったいどういう状況だ?」
ラウレンツ殿下が私を見る。それにともない、全員の視線が私に集まった。ちょっと照れてしまうが、きちんと話さないとね。
「実は私も殿下と同じく、フリーの対魔獣騎士なんです」
「なっ!!」
陛下たちは驚愕の表情だ。それはそうだと思う。女性の対魔獣騎士は少ないし、フリーとなれば皆無に近い。
「確かに運命ね」
「なるほど、同じ穴のムジナか」
と、第一王子夫妻が同時に納得する。王子殿下の言葉が微妙な感じがするけど、気にしないでおこう。
「フリーの対魔獣騎士……」と陛下。
ラウレンツ殿下が婚約宣誓書を陛下に渡す。
「父上。俺たちはまずはロランディ領の復興に注力し、それが済んだらふたりでまた魔獣退治の旅をします。な、ヴァネッサ」
「ええ」
これは婚約の書類を書くよりも先に決めた。
お互いに早く一緒に旅に出たくて仕方ないのだ。
二度と無理だと思っていたレイとの旅ができるなんて、夢のようだ。
「『また魔獣退治の旅』……」
そう呟いて、陛下ががっくりと肩を落とす。
「……ラウレンツには最高の伴侶ね」と王妃殿下
「でしょう?」とラウレンツ殿下が満面の笑みを浮かべて私を見た。
心底嬉しそうな笑顔に、私も嬉しくなった。
◇◇




