88話 エコリク大森林 2
私は携帯錬金セットの携帯錬金窯で醤油とソースを調合していた。素材の方が幾つかあったので、量に問題は出ていない。他の回復アイテム調合にも支障を来すことはないと思う。
「ウェアウルフの肉か……何気に食べたのは初めてだな」
「あらあら、王子様はやっぱり上品な料理しか食べてないってわけ?」
「ははっ、確かに仕留めた直後の肉を焼いて食べる……それよりは上品な料理を食べて来たと言えるか。しかし、私的にはこういう雰囲気で食べる料理の方が好きかもしれん」
「ふ~ん、意外な反応ね」
「そうか? それに……調味料が上質じゃないか」
クリフト様そう言いながら、私が作った醤油をかけて肉を頬張る。そして、一瞬だけ私に視線を向けてくれた。なんだか嬉しいしぐさだ。クリフト様に喜んでもらえるのはやっぱり嬉しい。
「まあ、それはちょっとだけ認めてあげてもいいかも。調味料なかったら、本当に不味いしね、ウェアウルフの肉は」
カミーユは調味料がかかっていない肉をわざと食べながら、味を比較しているようだった。何もかかっていない、ただ焼いただけの肉を食べた時の彼女は面白い顔をしている。
「味がしないですね……」
「そそ、こうやって、食料を現地調達する場合は便利な魔物だけどね~。そういう時に、調味料忘れると大変だけど……今回は助かったわね」
感謝する気はないんだろうけど、カミーユも一瞬だけ私に視線を合わせた。まあ、彼女の場合はそれが自然なのかもしれない。サイフォスさん達によってテントなども張り終えて、火を囲んで私達は食卓を楽しんでいる。
自然界での食卓……何年振りだろう、こんなのは。私の隣ではサイフォスさんが黙々と、ウェアウルフの肉を食べている光景も流れていた。見た目とは裏腹に野性的な食べ方をしている。手づかみで魚を捕る感覚というのか。
「お腹空いてたんですか?」
「いや、そういうわけじゃないけど……グリフォンが居るかもしれないからさ。エネルギーを溜め込んでおかないとね」
「エネルギー?」
「僕は魔法を使う時、普段使うメンタルポイント以外に、食事のエネルギーポイントも使えるんだ」
「えっ、それって凄いんじゃ……」
「そ、そうかな……? あははは……」
ちょっと、サイフォスさんは照れているようだ。
普通に考えて、魔導士の中でも高レベルなスキルを習得しているような気がする。単純に他の魔導士より、魔法を使えるってことだし。
「グリフォンってサイフォスさんでも危険な相手なんですか?」
「それは勿論……Aランクの魔物だしね。気を引き締めないと」
「そうなんですね……」
オディーリア様の言っていた通り、トップクラスの冒険者でも警戒しないといけないレベルなんだ。そういえば、インビジブルローブで姿を隠している五芒星の人達はどうしてるんだろう? 一応、事前の会話では、グリフォンの襲来に備えているはずだけど……周辺で隠れて食事してるのかな?
「大丈夫だよ、アイラ。僕が君のことを守ってみせるから……」
「あ、ありがとうございます……」
サイフォスさんは笑顔になって、私の肩に触れていた。あれ……なんだか、雰囲気がおかしいような。
「あ~~あいつって、ハニートラップとか得意そうね」
「……それは、どうだろうな……う、うん」
なんだかカミーユがとても、失礼なことを言っている気がする。それになによ……クリフト様も否定していないような。私、そんなんじゃないし……ないわよね?
まあ、楽しいし別にいっか。
「王子殿下、私の命に懸けましても、殿下のお命はお守り致します」
「ああ、ありがとう、ロブトー兵士長。あなたが居るから、ホーミング王国の兵士は士気が上がっているのだからな」
「勿体ないお言葉でございます。しかし、本当に上手い肉になりますな! アイラ殿の調合技術はすばらしい!」
ロブトー兵士長も喜んでウェアウルフの肉にソースを付けて食べてくれていた。また1つ、錬金の幅が広がった気がする。こういう調味料をエンゲージの店で売ったら、主婦層のお客さんを取り入れられるかもね! ふふ、楽しみになって来た。
と、ここまでは順調だったんだと思う……うん、私もグリフォンが凶悪魔獣だとは聞かされていたけど、この面子なら普通に倒せるんだと思っていたし。それに五芒星の守りもあって……。
カミーユがお花を摘みにその場を離れたのが原因か、それともサイフォスさんがテントの中の荷物を取りに行ったのが重なってしまったのが原因か……。
「アイラ様! その場を離れてください!」
「えっ!?」
背後から忍び寄って来たのは、大怪鳥……白い翼を大きく広げ、私の目の前に来ていた。嘘……恐怖の余り、私はその場から動くことが出来なかった。こんな巨大な鳥が音もなく忍び寄って来るなんて……。
既に五芒星は攻撃に移っていたけど、グリフォンに効いている様子はなく……そのまま、私はグリフォンの爪で切り裂かれた。
「アイラ!!」
クリフト王子殿下の大声は多分、私の耳には届かなかっただろう……オディーリア様からいただいたレシピの防御石がなかったら。私を包むバリアがグリフォンの爪をガードしていたのだ。




