50話 顧客 1
商売をする者にとってお得意様、つまり「顧客」の存在というのは非常に重要だと思う。顧客がたくさん居る方が、定期的にどれだけの量が売れるという計算もし易いし、お店の売り上げ向上にはむしろ必須。
「女、このエリクサーは1万スレイブでいいのか?」
「は、はい……1万スレイブですけど……」
カエサルさんと挨拶をしたあの日、あれから数日が経過した現在、私はそんな重要な「顧客」になってくれそうな人と話をしていた。今までも何度か来てくれていた人だけど……名前はシグルド・バーゼルさん。聞くところによると、トップクラスの冒険者なんだって。
「エリクサーが1万スレイブか、なるほどな……」
話し方も相当に怖く、白髪の長い髪、焦点の定まっていない鋭い瞳と相まって迫力を加速させている。身長もカエサルさんと同じかもっと高いかも。何より、横幅が違うわね。太っているというわけじゃなく、ゴツイ……。
カエサルさんも、鋭い眼光を持っていたとは思うけど、シグルドさんの場合は……普通に怖い。その威圧感は圧倒的な強さから来ているんだろうけど……。
「まあいい。そのエリクサー、5つ貰おうか」
「5個……ですか?」
「ああ。なんか不都合でもあるのか?」
「い、いえ……特にないですけど……」
大人買いにも程があるレベルだった。彼の買い物だけで、私は5万スレイブもの金額を手に入れる。5万スレイブって言ったら、一般的な家庭の5か月分くらいの生活費に相当するはず。それをシグルドさんは即金で出して、5個のエリクサーを持って行った。う~ん、アイテムの買い方まで迫力ある人だわ。
「彼がトップクラスの冒険者と称されている、シグルド殿……なるほど、確かにとてつもない威圧感ですね」
「ライハットさんでも勝てなさそうですか?」
ライハットさんは伯爵令息だけど、確か武闘派のはず。ここに来る以前はクリフト様の護衛役でもあったはずだし。そういう意味合いで聞いてみたんだけれど、
「まさか……私など、真っ向勝負で挑んだ場合、勝負になるかすら怪しいですよ。私は所詮、貴族として安全な立場に居ますからね。彼のような命のやり取りをする場で生き残っている人物とは比べ物にならないでしょう」
「そ、そこまでの差が……」
完全に予想外の返答が返って来た。ライハットさんの真に迫った表情からも嘘だとは思えないし。まあ、5万スレイブもの大金をアイテム購入に使える人だし、相応の実力を持っていても不思議ではないと思うけど。
彼が顧客……つまりは私のお店のお得意様になってくれたら、それはもう、とんでもない程の利益を生んでくれそう……。キース姉弟やオディーリア様も近くに出店していることだし、売り上げで負けない為にも、顧客を手に入れることは重要よね。
「シグルドさん……それから、カエサルさんかな……」
シグルドさんはエリクサーを5個も購入してくれた。あの時点で私の店の品揃えは分かってくれたはず。蘇生薬なんかもあるしね。品揃えで負けない限り、私の店のお得意様になってくれる可能性は高い。あとは、お医者様であるカエサルさんとのパイプラインの確保が重要かな?
「ライハットさん、私、カエサルさんの診療所に顔を出してみようと思います」
「か、カエサル殿の診療所、ですか?」
「はい……なにか?」
「い、いえ……ですが、アイラ殿も有名になっております。護衛役として私も付いて行きたいと考えます」
すぐ近くなはずだから大丈夫だと思うけど……でもまあ、心配してくれるのは嬉しいかな。
「ありがとうございます。じゃあ、お店の閉店と一緒に、二人で向かいましょうか」
「はい、そうしましょう!」
なんだか、ライハットさんが元気になっているように見えるけど気のせいかな? まあいいか……。とりあえず私達は、新たな「顧客」獲得の為に動き出すことを決意した。




