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283話 キングスシャドー その1


「Sランクに該当している魔物か……流石に凄まじい速度だ」


「シグルドさん……」


 Sランクに該当している魔物であるキングスシャドー。マリアベルもそれは分かっていたようで、彼女から話を聞いていた。


「危険だよあの魔物は……見たところ、物理攻撃は全て効かないみたいだし! アイラは私の傍から離れないでね」


「わ、わかったわ……ありがとう、マリアベル」


 シグルドさんとキングスシャドーの戦い……私にはほとんど何が起こっているのかは分からなかった。あまりにも早すぎて見えないわけだけど……でも、シグルドさんが攻めあぐねている……なんとなく、それだけは伝わって来た。


 マリアベルは魔法障壁を張って、私を守ってくれているみたい。この結界の外に出たら命が幾つあってもたりなさそうね……。


「シグルドさんでも倒せない……?」


「今はシグルドさんを信じるしかないよ」


「ええ、そうだけれど……」


 マリアベルの驚き具合は尋常ではなかった。自ら戦いに行かないところを見ると、彼女でもキングスシャドー相手には分が悪いのかもしれない。腕相撲の時はシグルドさんの腕を折ったほどだけれど、実戦経験では天地の差があるのかもしれないわね。


「……」


 先ほどからシグルドさんはずっと無言でキングスシャドーと戦っているようだった。キングスシャドーの姿はほとんど見えないけれど、苦戦しているのが伺える……大丈夫なのかしら? 見たところ、シグルドさんの身体には傷が増えて行っているようだけれど……。


「キングスシャドー……俺が以前倒したグリーンドラゴンよりも上位の存在か……ふん、面白い」


「ヴヴヴヴヴヴ……」


 シグルドさんはどうやら、以前倒したドラゴンとの戦力差を感じ取っているようだった。グリーンドラゴンよりも強いなんて……マリアベルのペットであるダークドラゴンと互角とかそれ以上かもしれないってこと? 確かダークドラゴンはシグルドさんでも勝てないかもしれないとは聞いているけれど……そんなことって。


 相手へのダメージはどのくらい与えたんだろうか。シグルドさんは目に見えて傷を負っているけれど。


「ねえ、マリアベル」


「どうしたの、アイラ?」


「今、シグルドさんがどのくらい敵にダメージを与えたか分からない? なんだか不安で……」


「えっとね……それは……」


「どうしたの?」


 マリアベルはめずらしく言葉を濁していた。はっきり言うタイプの彼女にしてはめずらしいことだ。私は余計に不安になってしまう。


「マリアベル……?」


「えっとね……シグルドさんはまだ、相手にダメージを与えていないと思うよ」


「なっ……そんな……!」


 信じられない言葉を聞いてしまった。あのシグルドさんがまだ相手にダメージを負わせていない? そんなことがあり得るのだろうか……クリフト様の話では、シグルドさんはあのグリフォンを余裕で倒していたと言っていたけれど。グリフォンは確かAランクモンスターのはずだ。キングスシャドーはSランクモンスター。確かに上位の存在ではあるけれど、たった1つのランクの差がここまでになるのだろうか? 私は信じられなかった。


「くくく……面白い。久しぶりに歯応えのある敵というわけだ」


「ヴヴヴヴヴヴ」


 シグルドさんは言葉とは裏腹にダメージを負っているようだった。物理攻撃完全無効という特性は思った以上に効いているようだ。


「大丈夫なの、マリアベル……あなたも加勢した方が」


「このレベルの戦いだと、私は足手まといになると思う。私は実戦経験が全然足りていないから……今はアイラを守ることに専念した方がいいよ」


「マリアベル……」


 スペックはともかくとして、実戦経験の面では16歳の普通の女の子だということかしらね。だからこそ痛感しているのかもしれない。自分は役に立たないことを。だから彼女は自分の出来る精一杯をしているのか……では、私はどうなんだろう?


 薬でサポートしようにも今回はグリフォンの時とは違う。敵の動きが見えないのだから。私は魔法障壁がなければ単なる獲物でしかない。エリクサーやエリキシル剤を使う暇すら与えられていないのだろう。


「マリアベル……」


「今はシグルドさんを信じるしかないと思うよ……」


 マリアベルはいつになく真剣だった。私にできることはそのくらいか。相手の動きはほとんど見えない。でも、シグルドさんの傷は深くなっているのは分かる。キングスシャドーの強さを思い知りながら私は唇を噛んで耐えるしかなかった。


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