274話 ドラゴンと少年 1
(エディ・スミス視点)
「こ、これが……ダークドラゴン!?」
「ゴルルルルル……」
僕はマリアベルさんとシグルドさんに連れられて、彼女のペットであるというダークドラゴンと対峙していた。
「こ、この威圧感は……!」
人の領域では決して到達できないであろう迫力はまさに圧巻の一言だ。僕は上手く声が出せないレベルで緊張していた。シグルドさんが勝てるかどうか分からないと言うのは伊達ではないということか。
「私の友達のフェンだよ、エディ君。ちょっと怖い雰囲気だけど、人間を襲ったりはしないから安心して」
「あ、安心ですか……はい……」
マリアベルさんはいつも通りの元気さでダークドラゴンこと「フェン」にじゃれついていた。もうその段階で信じられないけど……いくらマリアベルさんが強いとは言っても、とても目の前のダークドラゴン以上だとは思えない。おそらくこの感覚は間違っていないはずだ。そのくらい桁が違う実力をダークドラゴンからは感じていた。
ただ、それと同時にダークドラゴンがマリアベルさんに懐いているのは疑いようがない。じゃれ合う時のダークドラゴンの表情はとても穏やかに見えるからだ。僕にとっては近づくのも怖い存在だけどね……。
「これがダークドラゴン……すごい迫力ですね」
「なかなか良い刺激になるだろう?」
「そうですね……良い刺激にはなりそうですが……」
僕はシグルドさんにそう答えた。でも内心はありがたいという想いより、恐怖の方が勝っていたのだ。伝説の竜族を前にすれば当然のことなのかもしれないけどね……ははは。
「ダークドラゴンと相対するのは、まだ早かったか?」
「わかっているんじゃないですか、シグルドさんも人が悪いですね……」
「だが、ドラゴンを目の前にするというのはお前の今後に、役に立つはずだ」
「?」
どういう意味だろう? シグルドさんの言葉が理解できなかった。
「圧倒的に強い魔物と出会っていれば、カイザーホーンと相対した時に緊張しなくなるだろ。お前の今後に役立つというのはそういうことだ」
「あ……そういう意味だったんですね……」
「ああ、お前の試験に役立つだろ?」
何と言えばいいんだろうか……シグルドさんにしか思いつかない荒業だな。ものすごい力技だけど、あの人なりの優しさなのかな。
「シグルドさんは、僕がカイザーホーンを倒せると思っているんですか?」
「ふん、それは知らん。お前次第だな」
「そうですね」
僕はいつの間にか笑顔になっていた。先ほどまではダークドラゴンに対する恐怖でいっぱいだったのに。今はマリアベルさんとじゃれ合っているダークドラゴンに、少しだけ親近感が湧いていた。
「グルルルルル……」
「……」
あ、ダークドラゴンと目が合った。あんまり歓迎されている様子はないかな……前言撤回。ダークドラゴンはあくまでもマリアベルさんが近くに居るから、僕を威嚇しないだけであって、僕のことは単なる雑魚にしか見ていないのだと思う。
「ダークドラゴンのフェン……彼に一度はいつか認められたいですね」
「ほう、面白いことを言うじゃねぇか。その意気があれば、カイザーホーンの単独討伐も可能かもしれんな。楽しみだ」
シグルドさんは挑戦的な笑みを僕に見せていた。応援はしてくれているんだろうけど、あくまでも僕の努力次第だと言いたいんだと思う。ダークドラゴンはシグルドさんへの態度は違うように見える。シグルドさんが近付いても威嚇する様子を見せないから。もしかして、ダークドラゴンに初めて実力で認められた人間がシグルドさんなんじゃ? あながち間違ってもいなさそうだから怖いね。ダークドラゴンの背中に乗れる人みたいだし。
僕もいつかは彼の領域まで行きたいと思う。そうすれば、本当の意味でアイラさんに告白できるだろうし。自信があるわけではないけど、頑張りたいと思う気持ちは誰にも負けないつもりだ。
「そういえばアイラさんの様子はどうなんですか?」
「アイラか? 気になるのか?」
「それはもちろん……だって、数日前にはライトアンバーのお店で酷いことを言われたんでしょう?」
「ああ、そんなこともあったな」
数日前にアイラさんはシグルドさんとカミーユさんを引き連れて、ライトアンバーの従業員に自分の店の従業員にならないかという交渉をしている。その時に酷いことを言われたと後から聞かされたけど……アイラさんは今も普通にお店経営をしている。内心は傷付いているのかもしれない……だって、誘拐に遭った直後なんだし、傷付いていない方が不自然だ。僕はそれを聞いて許せないという想いを強く持っていた。
「まあ、相手の店の連中に対しては気にするな。アイラも今は特に問題を抱えていない。相手の出方を待っているという感じだ。お前はまだ精神的に不安定なところがあるからな。あまり思い詰めると、また暴走してしまうぞ?」
「うっ……それは……」
「お前はアイラのことになると、どうも冷静ではいられなくなるみたいだからな」
「……!」
僕は自然と顔が赤くなるのを感じた。否定したいけれど、否定できない。なぜならそれは真実だからだ。僕はアイラさんのことになると冷静さを失う。これは間違いない。
「くくく、照れているところ申し訳ないが、ダークドラゴンの背中に乗ってみる気はないか? 貴重な体験になると思うぞ」
「……えっ?」
シグルドさんはとんでもないことを言いだした……ダークドラゴンの背中に乗る!? 襲ってこないとは言っても、決して僕を歓迎していない相手の背中……僕の命は今日までかもしれない。




