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273話 誘拐後のお話 4


「アイラさん、あなたは恵まれているわね」


「恵まれている? どういう事ですか?」


「わからないんだ。随分とお花畑なのね、頭の中が」


「……」


 意味の分からない言葉が飛んで来る。勝手に私を頭の悪い娘だと言いたいようだ。どのような感想を持ってもその人の自由だけれど、私は少しムッとしてしまう。


「意味が分からないから聞いているんです」


「いいわよね、あなたは。有り余るお金を使って2号店をオープン出来たんだから。しかも、優秀な仕入先や護衛まで付けて。周囲からはクレスケンスの生まれ変わりだとチヤホヤされているんだし」


「……」


 言いたいことは分かるけれど、納得は出来なかった。2号店をオープン出来たのは周囲の人が頑張ってくれたからだし、私だって遊んでいたわけじゃない。


「他の弱小の店がどうなろうと、あなたには関係ないでしょうけどね」


「クラフト商会のことですか?」


「ま、そういうことね」


 ライナさんは私を目の仇にしている。店長であるナックさんが捕まったのは私のせいだと、あんなにはっきり言うくらいなんだから。


「私はどう思われても構いませんが、私に協力をしてくれた人達を悪く言うのは止めてください。お願いします」


「あら、言うじゃない」


 ライナさんは行き場のない怒りを私にぶつけているだけだ。きっと、彼女も自分が悪いことは分かっているはず。でも、今は恨む相手が私しかいないということだろうか。彼女自身を責めても意味がないと思う。


「あ、そういえば隣国の王子様も協力してくれてるんだっけ。いいわね、薬の材料なんかも無料で調達出来て。将来は王子様の夫人になるのかしら? あ、それとも平民という出だから、あくまでも愛人関係? どのみち楽な人生を送れそうね。羨ましいわ」


 ……前言撤回。私は早くもキレそうになってしまった。クリフト様もそうだけれど、周りの人の悪口を言うのだけは我慢ならない。


「いい加減にしてください、ライナさん! 私の周囲の人を馬鹿にするのだけは許さないですよ!?」


「なっ!?」


 彼女は私が思った以上に叫んだからか、身体をびくつかせた。それからすぐに後ろに下がっている。


「な、なによ……! 急に叫んで……」


「私は決して遊びながらお店経営をしているわけではないです。それなりに頑張っているつもりです。未熟な部分も多々ありますが、クリフト様達はそんな私に協力してくれたんです。私にとっては何よりの関係性で財産でもあるんです。宝物なんです。私に対する言葉であればまだ我慢しますが、彼らに対する誹謗中傷は絶対に許しません」


「……ふん」


 私は久しぶりに自分の感情を爆発させたように思う。誘拐された時は別の意味で爆発しそうになっていたけど、今回は自分の意志で。私の宝物を傷付ける行為は絶対に許せないと思えたから。ライナさん……いえ、ライナは不機嫌そうな表情をしていたけど、それ以上言い返すことはなかった。



「少し前までは小娘の印象が強かったが……なかなか言うようになったな、アイラ」


「えっ、シグルドさん……?」


 あれ、意外なところから称賛みたいなセリフが聞こえたような……間違いなくシグルドさんの声だった。


「成長しているようだな。安心したぞ」


「ありがとうございます。でも、なんだか似合わないですよ、シグルドさん」


「お前は俺をなんだと思っているんだ?」


 前にも似たようなやり取りがあったような気がする。私は軽くシグルドさんに微笑んだ。シグルドさんは見掛けよりもずっと優しい。それはもう私が誰よりも知っている。


「言っておくけど、私はあんたに協力した覚えはないわよ」


「カミーユさん、誘拐された時助けてくれたじゃないですか。ここまでも護衛してくれてますし」


「ふん、知らないわよ」


 ああ、駄目だ……カミーユはシグルドさんとは違い正面から褒めてくれることはないわね。見た目通りの性格と言えるかしら。でも、カミーユも信念を貫き通しているのは知っている。認める時はちゃんと認める人だ。でないと、冒険者ランキング4位なんてとてもいけないだろうからね。


まあ、カミーユはこういう人だ。その方が安心するし、私も変な気を遣わずに済む。


「言い過ぎましたかね……」


 店の中はすっかり沈黙が響いていた。私達以外に話している人が見当たらない。私の叫び声は外まで響いたはずだ。何事かと思われているかも……。


「まあ、こういう場面でなら言っておいた方がいいだろう。店として舐められるわけにもいかないしな」


「別にそういうつもりじゃないんですけど」


「どうでもいいから。もう帰るんでしょ? これ以上ここに居ても意味ないだろうし」


 カミーユはなんともめんどくさそうな表情で言った。本当にランドアンバーの店に興味がなさそうだ。誘拐犯が店主の店なんて潰れても何とも思わないのかもしれない。それが普通の感情とも取れるけどね。


「それじゃあ、私は帰りますね。もしも、雇用についての相談がありましたら、すみませんけどエンゲージまで来てください」


「あんなこと言われてまだ雇う気でいるのね……流石というか神経が図太いというか」


 カミーユは聞こえるか聞こえないかギリギリの音量で呟いてた。雇用の件と先ほどのやり取りを同一に考えたくないだけ。人の手が足りていないのは事実だし。言いたいことが言えたので、少しすっきりもしたしね。


「この店だってクラフト商会に見限られなければ……こんなことには……」


 私達がライトアンバーから出る時、ふとそんな言葉が聞こえて来た。ライナさんの声ではないと思う。クラフト商会か……仕入れの大手商会よね。私の仕入れ先の1つにもなっているけれど。ライトアンバーの経営が傾いたのは、クラフト商会との仲が絶たれたからか。お店経営って本当に難しいわね。


 私はそんなことを考えながら、エンゲージ2号店への帰路に着いた。


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