272話 誘拐後のお話 3
薬屋「ランドアンバー」……誘拐犯の一味であるナックさんが店長として経営していたお店だ。私とカミーユ、シグルドさんの3人が訪れた時はライナさんという女性の方が対応してくれたのだけれど。
現在の空気は最悪と言っても過言ではなかった。
「アイラさん、店長が起こした誘拐事件については同情するわ」
「そ、それはどうも……ありがとうございます」
「でも、自分の店の従業員になれだなんて、どういう了見なの? 哀れみでも感じて私達を救おうとか考えているのかしら?」
直接的な物言いをしてしまったかもしれない。ライナさんや他の従業員の方たちだって、店長のナックさんが捕まって動揺しているだろうに。
「急なお話を持ってきてしまったことに関しては謝罪いたします。でも、私のお店の従業員として皆さんを雇いたいという気持ちに嘘はありません」
それが過ちを犯してしまった、ナックさんの願いでもあるはずだから。
「そうなの、ご立派な主張ね。とても17歳の少女の発言には思えないわ。自分のお店が大繁盛して余裕だからこその発言なのかしら?」
「それは……ナックさんからも頼まれていましたし。彼女達に罪はないと」
「へえ、そんな会話をしたんだ。誘拐犯の店長と」
明らかに信用していない目つきだった。話そのものは疑ってはいないようだけれど、私のことを心底蔑んでいるというか……そんな敵意が見られるような気がする。
「それで? ナックさんとの約束があるから、私達に救済をということで従業員の話を持ち出してきたわけね。このままだと路頭に迷ってしまうから」
「端的に言えばそうですね」
「本当に馬鹿にされているわね……」
ライナの視線がとても痛かった。女性にこんなに睨まれるのは何時以来だろうか?
「言われたい放題じゃない、あんた。言い返さなくていいわけ?」
「カミーユさん?」
張り詰めた雰囲気が漂い出した頃、突然口を開いたのはカミーユだった。
「従業員として雇いたいって話は済ませたんだし、もういいんじゃないの?」
「えと……どういうことでしょうか?」
意味が分からなかったので私は聞き返した。
「だってそうでしょう? あんたは自分の店のメリットの為に、彼女達を雇いたいんでしょう」
「そうですけど……」
「なら、これ以上、話す必要はないんじゃない。用件は済んだんだし、後のことはそっちが勝手に決めることでしょ」
カミーユらしい考え方だった。彼女の言い分はこれ以上は、救済する必要はないと言っているのだろう。雇いたいという意思を伝えるだけで、十分だと言いたいわけだ。いや、確かにその通りなんだけど……。
「シグルドだってそう思うでしょう?」
「まあ、そうだな。アイラは誘拐された身なわけだし、ここの従業員に蔑まれる立場ではないはずだ。これ以上、この場所にいることはお前のデメリットになるだろうからな」
「……」
確かにこの場所に留まっていたら、ライナ達に何を言われるか分かったものじゃない。こっちは被害者なのだから、そんなことを言われる筋合いはないとシグルドさんは言いたいのだろうか。どうしよう……選択肢としては、このまま立ち去るのが一番な気はするけれど。
「随分と被害者面するのね、あなたって」
「え、ライナさん……?」
「元はと言えば、あなたがエンゲージなんてお店を作らなければ、店長だって犯罪を犯さずに済んだのに……!」
ライナは唇を震わせていた。シグルドさんはそんな彼女を見て、かぶりを振った。
「おいおい、アイラのせいではないだろう。元々、店なんていうのはジャンルを問わず、競争社会だっていうのに」
「アイラ・ステイトのせいよ! ナックさんがクラフト商会から見限られて経営難になったのは、エンゲージのせいよ! 誘拐に遭ったのだって自業自得じゃない! なによ、被害者って……あなたは加害者よ!」
「加害者……」
流石にそこまで言われるとは思っていなかったけれど。ライナは涙目になり、先ほどよりも鋭く私を睨んでいた。




