271話 誘拐後のお話 2
「私だって何もメリットがないのに、助けようとは考えていません」
「ふ~ん」
カミーユは半信半疑の様子だった。まあ、わからなくはないのだけれど、信じてほしい。
「具体的にはどうする気?」
「ナックさんのお店で働いていた人達を私の店で雇いたいと思います。ナックさんのお店は潰れるでしょうから、あの辺りの土地は値段が下がるでしょう。それなら、私が安くなったお店を買い上げて、エンゲージの3号店にするのも有りですね」
私はとりあえず考え付いたことを話したけれど、的を射ているとは思っていなかった。なんとなく、ナックさんの願いを聞き届けたいという想いが強かったから当然なのだけれど。
「3号店って……こんな近くで同じ店をオープンさせても意味合いは薄くない?」
「うっ……」
カミーユの言う通りだった。私は従業員を助けたいという想いから、適当に話をでっち上げたに過ぎない。矛盾がでてくるのは仕方ないところだった。でも……従業員に罪はないはず。この想いだけは間違っていないはずだ。わざとではないけれど、クラフト商会に見限られたのは私が店を出店したからなのだし。
「でも、従業員が増えるのは私の店のメリットになります。それに、現状はこのお店以外にも同じ薬を販売するところがあっても良いと思いますし。2つ店舗があれば、近い方を選べるじゃないですか」
かなり無理矢理な話だけれど、なんとか理由付けにはなったと思う。すると、シグルドさんが笑い出した。
「くくく……俺としてはメリットよりデメリットの方が多い気がするが、お前の稼ぎならば何とでもなるだろう。応援してやってもいいんじゃないか? どうなるか見物ではあるしな」
「ちょっと、シグルドあんた……楽しんでいるでしょう?」
笑いながらも賛同してくれているシグルドさんに、カミーユは睨みを利かせていた。
「デメリットしかないものを楽しみだけで賛同するんじゃないわよ。馬鹿じゃないの?」
「ふん、人生ってのは楽しんだ者勝ちだぜ。アイラの稼ぎならば失敗しても人生経験にはなるだろう」
「……それは」
「意外なことだな、カミーユ。お前がアイラの心配をするとは思っていなかったが」
「なっ! なに馬鹿なこと言ってんのよ……! 誰が心配なんて!」
カミーユは大きな声をあげて、明後日の方向に顔を向けた。まあ、彼女が私の心配をするなんて考えにくいけど……シグルドさんはそんなカミーユの態度を見て楽しんでいるようだ。なんだか、シグルドさんのイメージ像が崩れそうな場面だった。
「まあいい。アイラ、ナック・バルバロイの店に交渉に行くなら俺が護衛として付き合うぞ」
「そうですか、ありがとうございます。シグルドさん」
「ああ、エディ、お前はここに残って2号店の警備に当たれ」
「わかりました、シグルドさん」
「まあ、俺だけでアイラの護衛は十分だが……」
「待って。私も行くわ」
手を挙げているのはカミーユだ。
「お前が?」
「護衛は何人いてもいいでしょう。あんな誘拐事件があった直後なんだから」
「それもそうだな」
「では、私はエディと同じように、2号店の警備に当たっておこう」
「頼むぞ、アルファ」
「任せておけ」
トントン拍子にメンバーが振り分けられた気がした。まあ、あんな大きな事件の後だし、流石に1人で出歩ける勇気はなかったけどさ。オディーリア様の護衛である五芒星も今はいないし……。
それにしても、シグルドさんとカミーユの二人が付いて来てくれるのね。なんだかアンバランスな気はしてしまうけど、実力的には全く問題なさそう。
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「ふざけないで……! あなたは私達を馬鹿にしているの!?」
「えっ……?」
2号店から歩き、雇い入れの話をしにナックさんのお店に行った時だった。最初に予期していなかった言葉が返ってきたのは……。
「ナックさんの店を追い詰めておいて……自分のところの従業員になれだなんて、よくもそんな都合の良いことが言えるわね……!」
ええと、これって明らかに歓迎されてないわよね? まずかったのかしら……。




