270話 誘拐後のお話 1
「大丈夫でしたか、アイラ様!」
私が無事にエンゲージ2号店に戻ったと聞いてから、マラークさんは護衛を連れてやって来た。とても焦っているようだけど、私の身体自体は無事だ。
「はい、マラークさん。ご心配お掛けしましたが、私は大丈夫です……」
「さ、左様でございますか! 本当にご無事で何よりです!」
「ありがとうございます、マラークさん」
「いいえ! 何も出来ずに申し訳ありませんでした! 誘拐犯に屈するところでありましたので……!」
マラークさんは人質交換とお金の支払いに応じる気だったみたいね。それを悔いているのか、私を助けられなかったことを後悔しているのか……どのみち嬉し過ぎる反応かな。マラークさんは一番最初に出会った時の印象と本当に変わったと思う。今は感謝しかないくらいだし。
「こいつらが、誘拐犯だ」
「ありがとうございます! シグルド殿! ここからは私達が責任を持って対応いたします」
「ああ、そうしてくれ」
ナックさんを初めとした誘拐犯達全てがマラークさんに引き渡された。これで然るべき罰を受けることになるだろう。
「本当に済まなかった、アイラ・ステイト……いくら金の為とはいえ、俺は決して許されない選択肢を選んでしまったようだ」」
「ナックさん……」
拘束されたナックさん……私は何とも言えない表情で彼を見ていた。
「もしも許されるなら……俺の店の従業員に被害が行かないようにして欲しい」
「ナックさん? それって……」
いきなりの懇願? に私は戸惑ってしまった。どういうつもりだろうか?
「店の従業員は全く関係ないんだ。これは本当だ……俺の命を懸けてもいい。もしも、君の財力で容易ならば、なんとか救ってやってほしい。俺の店が潰れることは間違いないだろうからな」
「……」
「誘拐犯が何を言っている? そんな都合の良いことがあるわけないだろう? 連れて行け!」
「はっ!」
マラークさんの護衛によって誘拐犯達は連れて行かれた。私は何も言うことができなかった。私がここに2号店を出したことで、仕入先との関係が崩れた。現在、クラフト商会は私と契約関係にある。だからこそ、何とも言えない感情が浮かんでいたのだ。
「アイラは自分のことを考えた方がいいよ? 精神的に参っているでしょ? あいつらのせいで」
「それはそうだけど……」
私は変な袋小路に入っている気分だった。マリアベルの言い分が正しいとは思うけれど、ナックさんはともかくとして、関係ない人達にまで影響が出てしまったのは誤算だったと思える。どのみち、今の私には余裕がないのだけれど。
「お前は変に人がいいからな。どうせ、誘拐犯の店の従業員を救いたいとか考えているんだろ?」
「う……」
シグルドさんは流石だった。私は何も言っていないけれど、簡単に見抜かれていたみたい。
「え、本当なんですか? アイラさん?」
エディ君は気付いていなかったのか、私を心配そうに見つめている。なんというか……答えにくい状況ね。
「ええと、私が出店したおかげで、ナックさんの店は危機的状況になっているわけですし……」
「あんた馬鹿じゃないの? 本気で言ってるわけ?」
「カミーユさん……」
カミーユからも駄目だしを受けてしまった。やっぱりこういう考え方は間違っているのかしらね。
「あいつらのせいで大変な目に遭ったっていうのに……エディの奴が駆けつけるのがあと数分でも遅かったら、あんた精神崩壊ものの屈辱を受けていたのよ?」
「それは確かに……そうですね」
カミーユの言っていることは尤もなことだった。もしも本格的に犯されていたら、こんな考えはとても持てなかっただろう。何日も寝込む事態になっていたはずだ。でも……私はどうしてもナックさんの従業員に非があるとは思えない。ナックさんの最後の言葉……あれはそれ程に切実な願いだと思えたから。




