264話 VSエディ・スミス 1
「はああああ!」
「ぬうっ!」
黒々強いオーラみたいなものに纏われたエディ君……私には何が起きているのか分からなかったけど、物凄い速さで動き、シグルドさんを吹き飛ばしたことは分かった。飛ばされたシグルドさんは反対側の壁に激突している。衝撃で破壊された壁が砂煙を立ち込めさせていた。
「なっ……シグルド!?」
「シグルドさん!」
カミーユとマリアベルの二人は吹き飛ばされたシグルドさんを心配して、大きな声をあげていた。どうしてこんな事態になっているの? 私に襲って来た誘拐犯達と戦っているなら分かるのに、どうしてエディ君とシグルドさんが……。
「アイラさん、もう少しだけ待ってくださいね。今、あなたの脅威は全て排除しますから……」
「エディ君……」
脅威の排除……それには誘拐犯だけでなく、シグルドさんも混ざっているような気がしてしまった。いや、今の状況ならば確実に含まれていると思える。本来なら頼もしいはずの言葉なのに、少しだけ不安がよぎってしまった。
私は先ほどまで、見張りの二人から襲われかけていた。話を聞く限り殺す気はないとしても、無事に帰す気はなかったみたい。それとも急に何かを催したのかもしれないけれど。現在の私は服が破かれていて下着の状態になっている。本当に危なかった……あと少しエディ君が来てくれるのが遅かったら、私は心に一生のダメージを負ってしまったかもしれない。
いや、今の時点でもとても忘れられない衝撃は受けているけれど。それだけに、エディ君が来てくれたのは本当に有難かった。でも、今のエディ君は少し怖いかもしれない。私の状態を見てこんな風になってしまったようだけれど、彼は現在、誘拐犯の皆殺しを考えてシグルドさん達と争っているのだ。
「この距離なら……ゴメンね、エディ君!」
「うっ……! これは……!?」
そんな時、マリアベルが手をかざした。すると、エディ君の動きが緩慢になる。
「くっ……」
「とりあえず動きを止めるから……抵抗しないでよ」
これは見たことのある光景だ。冒険者ランキング1位のチームリーダーであるネプトさんも同じような超能力で、相手の動きを止めていた。マリアベルもそれが出来たということか。エディ君は明らかに動きが鈍っていた。
「く、くそ……何をする……!」
「あんた落ち着きなさいよ、なんでアイラを助けに来た者同士で喧嘩してんのよ。シグルドは大きく吹き飛ばされるし……気抜き過ぎじゃないかしら」
カミーユは動きを止められたエディ君の近くに立ち、首を絞められていた男を引っ張り上げた。そしてそのままもう一人の誘拐犯の前に放り投げる。華奢な女性とは思えないパワーだった。
「なぜだ! 貴方方まで誘拐犯を助けると言うんですか!? アイラさんがあんな目に遭わされたのに!」
動きを止められているエディ君だけど、必死に抵抗しているようだった。ドス黒い瘴気のようなオーラはさらに彼の周囲に立ち込めている。
「ええと、えと……私はなんて言えば良いのかな……」
「あんな目にって……まあ、確かに酷い目には遭ってるけど……」
「だったら!」
我を忘れているエディ君とは違い、カミーユは冷静だった。吹き飛ばされたシグルドさんを心配している様子もないし。あの人なら問題ないと判断しているのかしら。
私が最後まで犯されていないことは確かだけど、遠距離からでよく判断出来たと思う。流石に冒険者歴が長いだけあるわね。あれでも24歳と若いけど。場を収束させるには私が全てを話せば良いのかもしれないけれど、声が上手く出て来ない。心では考えが纏まっていてもそれを表に出せないでいた。どうやら私はかなり動揺しているようだ。
「僕の邪魔をするなら……シグルドさんの前に貴方方を排除します!! はあああああ!」
「な、嘘……! 拘束が破れる!」
「はああああ!!」
先ほどまでは明らかに動きが鈍っていたエディ君。次の瞬間にはいつも通りの動きをしているように見えた。マリアベルの超能力による拘束を力で振りほどいたということになる。信じられない……マリアベルはかなり無茶な能力を持っているはずなのに。
おそらく今までのエディ君ではあり得ない力を発揮しているはずだ。カイザーホーンを倒すことがクリア条件だと言っていた彼は目の前にはいない。私の目には獣が暴れているようにしか見えず、さらに私から言葉を奪っていた。
「嘘でしょ? あの拘束を打ち破るなんて!」
「しっかり防御しなさいよ、マリアベル! 来るわよ!」
シグルドさんに浴びせた突進攻撃……それを今度はマリアベルとカミーユの二人に行うようだ。私が気付いた時にはエディ君は目の前から消えていた。




