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260話 アイラ救出作戦 1


(エディ・スイス視点)


 僕の前にはマラーク神官長の姿があった。アイラさんの誘拐を聞き、相当に焦っている様子だ。彼の周囲にはアルファさんやシグルドさん、マリアベルさんの姿もある。それから、カミーユ・シェイド? と呼ばれる女性の姿も。確かかなり有名な冒険者だったと思うけど、僕は面識がなかった。


「なんということでしょう……まさか我が国の象徴でもあるアイラ様が誘拐されてしまうとは……未だに信じられません」


「マラーク神官長、お気持ちは察するが紛れもない事実です。今後、私達が行うべきはアイラをどのように救うかでしょう」


「その通りですな、アルファ殿」


「私はマラーク神官長の配下でもあるんですよ? 殿、というのは少し……」


「これは申し訳ない。しかし、アルファ殿はどちらかと言うと高名な冒険者という立ち位置ですからな。やはりこの言葉遣いの方がしっくりくるというものです」


 以前はどのように呼ばれていたのか知らないけど、アルファさんはマラーク神官長から敬語を使われている。それだけでも、アルファさんの地位の高さを確認することができた。そもそも、マラーク神官長自身の地位が聖王や大臣のすぐ下に位置するのだから。


「無駄話はそのくらいでいいだろう。問題はアイラの奴をどのようにして助けるかと言うことだ」


「そーだよ、そーだよ~~! 居場所については特定できているのにさ!」


「あ、ああ……確かにマリアベル殿はサーチ能力でアイラ様の場所を特定したとのことだが……」


「そーだよ! 南にある廃屋……その一区画に何人かの人間が集っているんだってば! 誘拐犯の逃げた方向とも一致するし間違いないよ!」


「う、うむ……しかしだな、もしも間違っていたら……」


 マリアベルさんのサーチ能力は熱探知機のようなもので、廃棄された廃村に多数の人間が集まっていることは察知できている。ただし、アイラさん自身をそのサーチ能力で判別することは出来ない。マリアベルさんの言葉は予想でしかなかった。


 確かに通常は無人の村の一画に人が集中するなんて考えられないことだけど……さらに誘拐された直後となればなおさらだ。そんな偶然は起こり得ないだろう。


「もしも間違いだった時が不安か?」


「ええ、シグルド殿。既に身代金の要求は来ています……あまり犯人側を刺激するのは、得策ではないかと」


「得策ではない、か……なるほど」


 シグルドさんは何かを考えているようだった。そんな悠長なことをしている場合ではないはずだ。アイラさんの命が掛かっている……すぐにでもその廃村へ向かって出発するべきなのに。僕は苦虫を噛み潰したような表情になっていた。


「誘拐の状況を考えても、その廃村に犯人が潜んでいることは濃厚だと思います。すぐにでもそいつらを潰しに行った方が良いんじゃないですか?」


 僕は焦りの気持ちを抑えられずにいた。なんと言っても初恋の人が危険に晒されているのだ……すぐにでも駆動したいという衝動がどうしても出てしまう。


「君は……?」


「冒険者のエディ・スミスです。まだまだ上位ランキングには乗れない身ではありますけど」


「なるほどエディ殿か。既に身代金の2000万スレイブは用意出来ている。犯人が金で解決を望んでいるなら、2000万スレイブを支払うのが無難だと思う。あまり激しい抵抗は得策ではない」


 僕はマラーク神官長の態度に愕然としてしまった。


「そんな……! 犯人たちが身代金を得たからと言って、アイラさんを無事に返す保証はありません! それにもしも無事に戻って来たとしても、身代金を支払ったという事実が生まれてしまったら他の者達もアイラさんを狙うかもしれない!」


 僕はマラーク神官長の考えには賛同できなかった。彼なりにしっかりと考えた上での発言だと思うけど、犯人側に譲歩するのはあり得ない。


「まあ、落ち着けエディ」


「シグルドさん! でも……!」


「落ち着けって言ってんだよ」


「あ……すみません」


 シグルドさんの気迫に、僕は縮こまってしまった。それ程にシグルドさんの表情は真剣だったのだ。


「マラーク神官長、俺もエディの言う通り身代金を支払うのは得策だとは思えない」


「シグルド殿? しかしそれでは……」


「犯人側に譲歩してしまっては、アイラが無事に戻って来たとしても、その後にも危険が付き纏うだろう。また新たな誘拐犯が生まれるだろうしな。今回の件は俺達で叩き潰した方が賢明だ」


「で、では……例の廃村に向かうということなのですか?」


「そういうことになるな」


「し、しかし……! アイラ様に万が一のことがあったら……!」


 マラーク神官長はアイラさんの身を第一に考えている。それは痛いほどに伝わって来るけど。それでもやはり、身代金を渡すことには賛成できなかった。


「まあ、心配する気持ちは分かるが……向かうメンバーは俺とアルファ、それからマリアベルになる。これほどの面子は早々揃えられないぞ。信頼しては貰えないか?」


「シグルド殿……ぬう。確実にアイラ様を救えるのですか?」


「万全は期すつもりだ。あいつが攫われたのは俺達のミスでもあるからな。万が一の時は……犯人どもを1人残して皆殺しにするさ」


「……!」


 シグルドさんの言葉はとても迫真に満ちていた。アルファさんやマリアベルさんも鋭い瞳になっている。世界中を見ても最強レベルの人々の集まりと言えるのかもしれない。誘拐犯の実力など計算するまでもないといった雰囲気だった。確実に勝てるという自信があるのだろう。


「シグルドさん、僕も連れて行ってくれませんか? 約束しましたよね?」


「ああ、分かっている。ただし、冷静に行動をすることだ。大丈夫か?」


 シグルドさんは僕がアイラさんを誘拐されて、どれだけ怒りを覚えているか分かっているようだった。僕が犯人に対して考えもなしに斬りかかることをしないようにと忠告しているのだろう。


「大丈夫です……できる限り冷静に行動することを約束します」


「よし、決まりだな」


 この瞬間、僕達のアイラさん救出作戦が実行されることになった。


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