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256話 誘拐 1


 私はナックさんに民家の隅にある空き地に連れて来られた。こういう場所の方が上手く話し合えるとのことだ。私の2号店はギリギリ見えない位置だけれど、それほど離れているわけではない。今現在は色々あって、五芒星の護衛は連れていない状況だけれど……まあ、同業者との話くらいなら護衛は必要ないだろう。私は安心してナックさんの話を聞くことにした。


「俺が思うに、薬屋で重要なのは仕入先だと思われます」


「あ、それはそうですよね。私も同じ意見です」


「アイラさんはクラフト商会とのコネクトを持ったと聞いておりますが?」


「あ、それは……はい、そうですね」


 クラフト商会は小売店舗にからすれば、有名な商会なのだろうか。素材調達専門で生計を立てているらしいけど……シグルドさんやクリフト様だけに素材調達をお願いするわけにもいかないので、私は最近、クラフト商会と契約を結んだのだ。定期的に安定した仕入れは非常に重要だったから。


 ナックさんの情報網に引っ掛かっているということは、クラフト商会はかなり有名なところみたいね。まあ、あのオイゲン商会とも以前は契約していたという話だしね。


「なるほど、やはりそうでしたか。クラフト商会と縁が出来たことは薬屋としては大成功かと思われます。長い付き合いをしていった方がよいでしょうな」


「ありがとうございます、勉強になります」


「いえいえ」


 その後も幾つかの薬屋の心得みたいなものを教えてもらった。例えば、従業員の配置や配慮など……非常に勉強になることが多数だった。ナックさんとこうして話したことは、今後にとても活きて来ると思うわ。


 そして、それなりの時間が経ったとき……。


「ああ、すみません。時間を取らせてしまいましたね。今回はこのくらいにしておきましょうか」


「あ、そうですね。私もそろそろ戻りたいと思います。貴重なお話をありがとうございました」


「とんでもないですよ、私もアイラさんとこうして話せたことは勉強になりましたし」


「そうですか? それなら嬉しいのですが……」


 私はナックさんに尊敬にも近い感情を抱いていた。彼とは長い付き合いをしたいと思う。それはきっと、エンゲージにとっても良いことだと思うから。そんなことを考えて、空き地から出ようとしたら……見慣れない馬車が猛スピードでこちらに向かって来た。えっ……?


「動くな、お前達!! 逆らえば命はないぞ!!」


 馬車は私とナックさんの目の前で止まり、中からは覆面をした男? が複数出て来た。刃物を持っており、私とナックさんの首元にそれを当てた。えっ……これって……。


「なっ……」


「よし! 二人を馬車に入れろ!」


「了解!!」


 私の身体は強引に近付いて来た馬車に運ばれてしまった。目の前にいたナックさんも同様のようだ……これって誘拐? そんなことを考えてしまったけれど、馬車の中に入れられた私は一切の抵抗が出来ず……。



------------------------


(ナック・バルバロイ視点)


「やった! 成功だ!」


 俺とアイラ・ステイトは目的地の空き地で同時に攫われた。覆面で顔は分からないが、おそらくオリバと思われる人物が歓喜に震えている。他の4人のメンバーも同じようだ。


「やったぜ! アイラ・ステイトを連れ出せた! 身代金は2000万か、3000万か!?」


「いくらでも構わないぜ!! 俺達は一生安泰には変わらないんだからな!」


 覆面の面子はかなり舞い上がっているようだ。操縦席の一人も合わせて覆面の面子は5人……5等分にするということか? 俺が200万スレイブの配分だから、当初の身代金の額を考慮すると1800万スレイブになるわけだ。単純計算で一人当たり360万スレイブというわけか。


 360万ゴールドという額は個人の金額としては相当なものだ。それだけの額の貯金が出来ると考えれば、一生安泰と思う者もいるだろう。まあ、俺にはどうでも良いことだが……200万スレイブを貰えるなら文句はない。このまま被害者を装ってこの場をやり過ごせば安泰には変わらないんだからな。


 アイラ・ステイトは恐怖のゆえか、先ほどから一言も発していない。


「大丈夫ですか、アイラさん?」


「は、はい……大丈夫ですけど……」


 やはり恐怖が勝ってしまっているのか……彼女の口数は少なかった。少なからずも罪悪感が芽生えてしまうな。アイラの性格が良いだけに猶更か……まあ、いまさら引けないことには変わらないのだが。


 と、そんな時、走らせていたはずの馬車の近くから爆撃音が聞こえて来た。その衝撃は凄まじく、俺達にまで響いている。


「一体、なんだって言うんだ!? 今のはなんだ……?」


「正確には分からないけど……どうやら、アイラ・ステイトの店の方から放たれているみたいだぜ!」


「なんだと!? にしてもこんなに強力な爆撃……シグルド達が戻って来たのか!?」


「いや、その様子はないようだが……」


「とにかく馬車を走らせろ! 捕まったら終わりだと思え!」


「わ、分かった……!!」


 俺達を乗せた馬車は予期せぬ爆撃に苛まれながらも、目的地を離れ当初のアジトへと歩を進めて行った。



-----------------------------


(カミーユ・シェイド視点)


「アイラを……返せぇぇぇぇぇ!!」


 私としても予期せぬ光景が目の前に広がっていた。向こうの空き地に馬車が入ったと思ったら、アイラ・ステイトが連れ去られた……ナックとかいう薬屋も連れ去られたみたいだけど。その事実に気付いた時には全てが遅かった。


「うわぁぁぁぁぁぁ!」


 店員の一人であるマリアベル・ウォーカーがメテオの魔法を乱打し始めたのだ。おそらくはアイラが誘拐されたことを察知して、無差別に撃ち込んでいるのだろうけど。このままではまずいわね。


「やめなさい、あんた!」


 私はマリアベルの頬を思いっきり叩いた。そんなことをするつもりはなかったけど、一刻を争うので仕方のないことだ。


「なっ……!? いきなり何を……!」


 マリアベルは驚いている様子だったけど、こればかりはしょうがないわよね。


「あんたのメテオが凄いのは分かったけど、無差別に撃ってるんじゃないわよ! 関係ない人を巻き込むどころか、アイラ自身も危険に晒すでしょうが!」


 私も咄嗟のことで機転がきかなかった……気付いた時には馬車は私の魔法の射程外に行っていたし。射程の届くマリアベルを責める資格はないだろうけど、それでも止めたことは正しいはずだ。あのまま放置していたら、どれだけの死者が出たか分からないし。


「で、でも……アイラが攫われちゃったんだよ……!?」


「分かっているわよ。それでもメテオを無差別に撃ち込んでよい理由にはならないわ。アイラ自身を死なせては意味ないでしょ?」


「うう~~~、それは……」


 かなり不満気な様子だったけど、マリアベルの感情はとりあえず落ち着いたようだ。まったく……この子の噂は聞いていたけれど、こんなにとんでもない娘だったなんて思わなかったわよ。


「馬車の進んで行った方向は分かったわ。とにかく、今後の作戦を練ることの方が重要ね。護衛の面子が帰って来るのを待ちましょう」


「は、はい……分かりました……」


 ふう……なんとかマリアベルは分かってくれたようね。この子が本気で反抗したら、悔しいけど私じゃ対処できないだろうし……ったく、シグルドの奴はなんて子を飼っているのよ……!


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