255話 悪巧み 3
(ナック・バルバロイ視点)
「……」
俺がアイラ・ステイトの店を訪れた時、予期せぬ人物が目の前に立っていた。冒険者のカミーユ・シェイドだ……確かかなり上位の冒険者だったはずだが。
「あら、アイラのお客さん?」
「ええと……どうなんでしょうか」
カミーユは俺に話しかけて来た。アイラも戸惑っているようだ。くそう……せっかくシグルド・バーゼルもアルファ・ルファもいない時間帯を狙ったと言うのに……! オリバの調べた情報によると、その二人以外に護衛役はいないとのことだが……このカミーユ・シェイドはどういうことだ? オリバの計算ミスなのか? それとも単に偶然店を訪れただけなのか……。
大丈夫だ、俺は計画の通りに動けば良いだけなんだから。精神を乱すことはない。
「初めまして、アイラさん。俺はナック・バルバロイと申します」
「あ、はい。初めまして……アイラ・ステイトです。よろしくお願いします」
「ええと、失礼ですが……お薬を買いに来られたのでしょうか?」
アイラはどことなく戸惑っているようだった。まあ、客と思われる人物にいきなり自己紹介をされたのだから当然か。それと俺の顔はやはり知らないようだな。そちらも無理はないことか。彼女は他の店に挨拶回りをしていないらしいからな。
「薬を買いに来た、というよりも今回は挨拶に来たんですよ」
「挨拶……私にですか?」
「はい、そういうことになります。俺は向こう側の通りで薬屋を営業している者でして」
「それではナックさんは薬屋の店長さんなんですか?」
「はい、そうですね。今後ともよろしくお願い致します」
俺はアイラ・ステイトに向けて深々と頭を下げた。彼女も俺と同じくらい頭を下げる。
「こちらこそよろしくお願い致します! 私の方が後に出店したのに、挨拶に行けなくて申し訳ありませんでした!」
「いえいえ、そんなことは気になさらないでください。あなたの店はとても繁盛しているようですし、お忙しかったでしょうから」
「い、いえそんなことは……」
「……」
こうして見るとどこにでもいる素直な女の子といった印象だな。周囲の平均よりも幾分か美人な印象はあるが、そんなに悪い子には見えない。少しだけ罪悪感が出て来るが……今さら引けないな。
「へ~~~、おじさんも薬屋の店長さんなんだね! よろしくね、私はマリアベル・ウォーカー! このお店の従業員だよ! 私も錬金術士なんだ、アイラにだって負けないんだから!」
「う、うん? そうか……」
なんだか元気な子に話し掛けられたな。この店の看板娘といったところだろうか? まあ、今はアイラ・ステイトの件に集中しよう。
「ところでアイラさん」
「はい、なんですか? ナックさん」
「お忙しいところ恐縮なのですが、店の経営面について少しご相談させていただけないでしょうか?」
「相談……ですか? 今、でしょうか?」
「可能でしたら……難しいですか?」
なるべく客が少ない時期を狙ったのだが、アイラは少し悩んでいるようだ。俺のことは怪しまれていないはずだが……あまり時間を掛けてしまうとジグルドやアルファが戻って来るかもしれん。そうなると、誘拐自体が上手くいかないだろう。
「あ、大丈夫ですよ。今はアウゴさんもマリアベルもいますし。少しだけでしたら時間を取れると思います」
「良かった、ありがとうございます。無理を言って申し訳ない」
「いえいえ、気になさらないでください。私としても他の店長さんの経営状態やお話を聞くのは勉強になりますから」
「左様でございますか、勉強熱心な方だ。俺の知っている範囲の知識で良いならお伝えいたしますよ」
「ありがとうございます、ナックさん」
よし! なんとか連れ出すことが出来るぞ! 成功したも同然だ!
「随分とモテるわね、あんたって」
「茶化さないでくださいよ……カミーユさん」
同時にカミーユからも遠のくことが出来る。彼女から離れていればとりあえずは成功と言えるだろう。店の店員はアウゴとマリアベル……あの二人は無視していても問題ないだろうしな。
この後の計画では俺達は前にある民家横の空き地に行けば良い。そこで適当な会話をして……俺も被害者になるという寸法だ。後は頼んだぞオリバ!




