229話 繁盛
「アイラ様、上級回復薬と中級回復薬を10個ずついただいてもよろしいでしょうか?」
「はい、ありがとうございます」
「アイラ様、風邪薬を全種類もらえると嬉しいです!」
「畏まりました」
「アイラ様!」
「アイラ様……!」
ダークドラゴンの騒動から数日。私の店は非常に繁盛していた。2号店は現在、私とアウゴさんで主に回している感じだ。
「大繁盛ですね、アイラ様!」
「あはは、繁盛しているのは嬉しいんですけど……ダークドラゴンを使役しているという風に見られているのは不本意というか……」
噂は尾ひれが付きやすい……マリアベルが主導で行っているダークドラゴンの使役は、私が操っているように見られているのだった。マリアベルの正体は住民達にも知れ渡っているはずなのに、私の方が信仰されているのが気になった。やっぱり、モーレス大公が懸念していた通り、クレスケンスへの信仰力は弱まっているのかな?
その時の流行りみたいに、1000年も経つと廃れていくみたいな……。まあ、マリアベルの正体もまだ分からないままだしね。正体不明の彼女よりも、正体がはっきりしている私に対して信仰の念が強まるのは当然のことなのかもしれない。
本音で言えば非常に困るけれど……恥ずかしいしね。
「繁盛しているようで何よりだな、アイラ」
「アルファさん! はい、とても光栄なことです!」
私の護衛役を務めてくれているアルファさんが2号店を訪れてくれた。彼女やシグルドさんを含めて2号店の重要な顧客だ。2万スレイブでもエリクサーや蘇生薬は売れているので、今月の売り上げは過去最高になるかもしれない。
ネプトさんから教わったアイテムの複製方法を実践して、エリクサーなどの品切れも限りなく0に出来ているしね。
「マリアベルとシグルドは北の大地に行っているんだろうが、クリフト様達はどうしたんだ?」
「クリフト様とオディーリア様は今朝の馬車でお帰りになりましたよ。また、来てくれるということですが」
「なるほど……クリフト様は何かと忙しいだろうからな」
クリフト様はユリウス殿下やオイゲン商会の件で忙しいのだと思う。裁判をするにしても、クリフト様が直接法廷に出る必要もあるようだし。アルファさんがオディーリア様の名前を口にしなかったのは面白かった。彼女は身分に見合わない放浪を楽しんでいるというのが分かっているからだろうか。
「それにしても……素晴らしい、アイラ様の店の品揃えは実に豪華ですね」
「アウゴさん、ありがとうございます」
マリアベルに代わって、接客をお願いしているアウゴさんだけど、エンゲージ2号店の品揃えに感動しているようだった。
「エリクサー、蘇生薬、万能薬に加えてエリキシル剤まで売っている……本当に信じられません。私はこんな場所で働けて、とても光栄ですよ。勉強にもなりますからね」
「あはは、ありがとうございます……」
マラークさんも最初はそうだったけど、オーバーリアクションはロンバルディア神聖国の行事になっているようだ。宗教国家だし信奉する対象には敬意を払うのは分かるんだけど……未だに私自身が敬意を払う対象になっているという自覚がない。だからこそ違和感が出てしまうのだと思う。
私は適当に誤魔化しながら場の空気が悪くならないように努めていた。
「ふふ、アイラの立場も楽しそうだな」
「楽しくはないですよ……もう、アルファさんは他人事だと思って」
「いや、そんなつもりじゃないのだけどな」
私達は軽口を叩き合いながら楽しんでいた。マリアベル以外にアウゴさんも加わり、楽しい2号店経営になりそうだ。マリアベルやシグルドさんは北の大地に行ったけれど、素材調達をしてくれるしクリフト様やオディーリア様はたまに訪れてくれる。そんな面白い2号店だ。
と、そんな楽しい雰囲気を持っていたけれど、一人の少年が現れて空気が変わった。
「あ、あの……アイラさんですよね?」
「えっ、そうですけど……」
少年は私よりも歳下に見えた。格好から察するに冒険者のようだけれど……場の雰囲気が変わっているのを感じる。
「上級回復薬を売ってくれないでしょうか?」
少年は懇願するような話し方だった。ここは薬屋なんだしお金さえ払ってくれれば売らないわけはないんだけど……なんだかその少年はワケありのような印象だった……。




