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223話 素晴らしい手のひら返し


「制限時間の30分が経過しましたね、錬金勝負は終了です」


 私とアウゴさんはクリフト様の言葉に合わせるように、同時に手を置いた。アングラ・モーレス大公は両手を胸の前で合わせている。クレスケンスにお祈りでもしているのかな? 乙女チックだ。


「さて、上級回復薬の完成品の数をチェックしましょうか」


「いえ……その必要はないでしょう、クリフト王子殿下。私の上級回復薬の数は25個、それに比べてアイラ殿の上級回復薬の数は50個ちょうどになります」


 それは私がチェックした数と一致していた。アウゴさんもとっくに数え終わっていたようね。彼は肩を落としているようだった。


「まさか、2倍もの差が付くとは……思ってもいませんでしたよ……」


「ば、馬鹿な……! クレスケンス様の庇護を受けているはずのアウゴが、これ程の差で負けるとは……!」


 アウゴさんの様子を見たモーレス大公は目頭を押さえているようだった。もしかして泣いているのかしら? アウゴさんも悔し涙を見せている気がする。


「こんなことがあって良いのか!? 1000年前のクレスケンス様の実力を世に知らしめるために活動してきたというのに……クレスケンス様のお力はこんなところで潰えるはずがないのだ!」


「申し訳ありません、モーレス大公殿下。クレスケンス様の名を汚してしまって……」


「アウゴよ! お前が悪いことなどありはしない! これは何かの間違いなのだ……! こんなことが起こるなど間違い以外には……!」


 あ、宗教家にありがちな言葉回しになってきた気がするわ。モーレス大公はかなり熱烈なクレスケンスの信者だと言われているけれど。本当だったみたいね。


 錬金勝負に勝ったのは私だけれど、その喜びに浸るのは違う気がしてしまった。どうしたらいいんだろう。


「どうしましょうかね……」


「アイラの勝利に終わったんだ。ご退場願えば良いんじゃないのか?」


「シグルドさん、それはそうなんですがこの状況では言いにくいですよ」


「しかし、この場にいられても邪魔なだけだろう?」


シグルドさんは泣き叫んでいるモーレス大公には興味がないようだった。まあ、彼は冒険者なのでそもそも錬金術に興味がないんだろうけど。


「それはそうじゃな。帰って貰うのが正解じゃろうて」


「私も二人の意見に賛成だな」


「酷かもしれないが、帰っていただくのが順当か」


 オディーリア様、アルファさん、クリフト様も同じ意見のようだった。まあ、勝手に勝負を挑んで来たのは向こうだしね。しかも相手の出したお題で完勝したんだし。しかし、このまま冷徹に帰ってくださいと言える雰囲気でもない……私が悩んでいると、急にマリアベルが言葉を発した。


「ええと、なんで二人が泣いているのか分かんないけど、クレスケンスってどうも私のことみたいだよ?」


「えっ?」


「あ……」


 そう言いながらマリアベルは変装を解いて見せた。その瞬間、モーレス大公とアウゴさんの表情が変わる。


「ま、まさか……そんなはずは!?」


「し、しかし……このお顔は確かにクレスケンス様! 本人だ、間違いない!」


 マリアベルは二人のあまりの態度に完全に引いているようだった。自分の顔を見て先ほど以上に涙を流しているのだから、当然と言えるだろう。私だってその姿にはかなり引いてしまっているし……。


 というより、この状況はマズい気がする……だって、周りの人々にもマリアベルの姿が見られているんだから。私はそっちの方が気になってしまった。


「お、おい……あの顔ってクレスケンス様だよな?」


「おそらくはそうだろうけど……あの方は今日も氷漬けになってたぞ? 瓜二つの別人なんじゃないのか?」


「万が一、クレスケンス様が降臨なされたのだとしたら凄いことよね。アイラ様と並んで立っているんだから」


 皆、驚いてはいるようだったけれど、そこまででもないようだった。一部の狂信的な人達以外は、そこまで驚かないのかな?


「あれれ? なんだか意外な反応……」


「ふむ、おそらくは新たな信仰の対象であるアイラが降臨したからであろうな」


「降臨って、オディーリア様……降って来たみたいじゃないですか」


「間違ってはおらんじゃろう? さらに、ロンバルディア神聖国に来て早々瘴気の問題を解決したのじゃからな。アイラがいなければどれだけの被害を出していたかを考えると、住民の関心がアイラに移ったとしても不思議ではなかろう」


 確かにそういう考え方もできるのか。マラークさんも私のことを信仰の対象にしていたみたいだったし、眠れる1000年前のクレスケンスよりも現在の生きている信仰の対象に向かうという考え方は、分からなくはない。


「かのクレスケンス様がまさかアイラ・ステイト……いや、アイラ殿と一緒に錬金術の研鑽をされていらっしゃったとは! このモーレス! 何たる無礼を……!!」


「ええ、研鑽? そんなことしてたかなぁ? ただ、お店の店員をやって腕相撲とか楽しんでただけだけど……」


 モーレス大公の態度があからさまに変わっている。私のことを「殿」付けで呼んでいるし。コントか何かを見ているようだけれど、本人は至って真面目なようだ。私はどういう表情をして良いのか分からなかった……。


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