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189話 瘴気の名残り


 ロンバルディア神聖国の王都ヴァレイ……ここに2号店をオープンしないか、という話がマラークさんから出ている。移り住むことは拒否したけれど、とりあえず、2号店の件については保留状態にさせてもらった。


 私は護衛のシグルドさんとアルファさんの二人と一緒に、ヴァレイを散策していた。ただし、今回は瘴気の名残りを見ていくという目的があったりする。周辺の村々も含めて、軽く3桁の死亡者を出したらしい今回の瘴気……その名残りは決して軽いものではなかった。


「2号店のオープンについて考えているらしいじゃねぇか。どういう風の吹き回しだ?」


「どういう意味ですか、シグルドさん?」


 竜巻による被害を見ていた私だけれど、急にシグルドさんが質問してきた。


「言葉の通りだ。お前はマラークのことが嫌いなんじゃなかったのか?」


「嫌いって……別にそんなことは。最初は崇められてたので信用出来なかったっていうのはありますけど、その考え方も少し変わったっていうか……」


「ふふ、瘴気発生事件の際のマラーク殿の働きぶりを聞いたからだろう?」


「そうですね、アルファさん」


 瘴気発生の際のマラークさんは本当に忙しそうにしていた。そもそも、大聖堂に戻って来ることが稀だったけれど。一人でも住民の人達を救う為に色々と対策を講じていたんだと思う。自らが瘴気で倒れてしまう危険を冒しながら。そんな話を聞くと、どうしてもマラークさんへの印象も変わってしまうわ。


 100人を超える死者が出た今回の事件でも、マラークさんは毅然と働いていたと聞いているし。再発防止の対応策を練ることは最優先課題とのことだ。


「私としては薬屋の2号店をオープンさせたら、少しは王都ヴァレイの為になるのかなって思っていたところで」


「それはまた同じような事件が起きた時に、助かる人間が増えるかもしれんっていう魂胆か?」


「まあ、そういうことですかね」


「あまり情に流され過ぎるのもどうかと思うぞ。お前は経験がないだろうが、俺達冒険者は毎日のように同業者の死体を見ているんだ」


「ど、どういう意味ですか……?」


 なんだか怖いことを言われた気がする……。


「個人で助けられる命には限界があるということだ。俺達がこうして歩いている時にも、世界のどこかでは秒単位で人間が死んでいるだろう。2号店をオープンさせるのは人助けではなく、単純に利益目的で始めた方が良いぞ。どのみち、仕入れルートの確保など、大変になるだろうからな」


「そ、それは確かに……」


「言い方は悪いが、シグルドの言葉にも一理あるとは思うな」


 アルファさんもシグルドさんと同じ考えみたいだ。2号店を始めるなら、誰かの為じゃなく自分の為にした方が良いと言うことか。確かにそうかもしれないわね。マラークさんにはまだ言ってないけれど、以前に言われた2号店オープンの為の援助は断るつもりだし。


 流石に瘴気発生事件が起きた後では頼みにくいし、最初から断るつもりでもあったし……。


「2号店のオープンか……なかなか、楽しい話をしているじゃないか」


「あ、カエサルさん……!」


 王都を散策していた私達の前に現れたのは、医者のカエサルさんだ。仕事の関係で来れないと聞いていたけれど……来れるようになったのかしら?


「ど、どうしてこちらに……?」


「ああ、アイラを労いに来たというのもあるが……俺の本業は医者だろう? 瘴気の名残りが残っている者達の診察をしているのだ。向こうでの仕事は一時的に他の者に任せている」


「な、なるほど……」


 カエサルさんはまさに今の王都ヴァレイにはうってつけの人物だろう。優秀な医者なんて、マラークさん達からすれば是非、欲しい人材だろうし。今、ヴァレイには凄い面子が集まっている気がする……。


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