169話 サンスクワット大聖堂 2
「アイラ様! お越しいただけたのですね!」
「あ、マラークさん……」
クレスケンスを見ていて不思議な感情に囚われていると、奥の部屋から私の名前を呼ぶ声がした。神官長の一人であるマラークさんだ。私をここへ招いた張本人ね。彼はズカズカと歩いて私の元までやって来た。物腰は柔らかいのだけれど、どうも苦手意識がある。
なんというか……心の中で何を考えているのか分からないというか……そんな感じだ。
「マラーク神官長、アイラは現在私達の護衛の対象になっています。それ以上の接近はお止めいただけますか?」
「これはアルファ・ルファ殿、失礼をした。貴方やシグルド・バーゼル殿を護衛に付けられるとは……流石は奇跡の錬金術士ですな、アイラ様」
「あはは、どうも……」
マラークさんは相当に上機嫌になっているようだった。私としては「奇跡の錬金術士」という肩書きも面映いんだけどね。
「マラークさん、私のことはもっと普通に扱っていただけませんか? なんだか面映いので……」
「しかしアイラ様……アイラ様は既に王都ヴァレス内で有名でございます。生きた錬金術士でありながら、3大秘薬を容易に作れるお方だとね」
「ああ……もうそんな噂が……」
サンスクワット大聖堂の周囲に居る人々の視線が先ほどから気になってはいた。もしかしたら、私が入って来たことに気付いているのかもしれないわね。
「お、おい……あの人ってまさか……」
「ええ、私も先ほどから思っていたんだけれど……」
なんだか変な声が聞こえてくるわ……私を噂しているような気がする。まあ、私の目的として世界一の錬金術士になるというのがあるし、噂されるのは喜ばしいことではあるんだけどね。
ただ、オディーリア様も言っていたけれど、信仰の対象にされるのは御免だわ。あの氷漬けのクレスケンスみたいに、縛り付けられるかもしれないし……。そう意味ではシグルドさんやアルファさんに護衛をお願いしたのは正解だったわね。安心感が半端ではないし。
「サンスクワット大聖堂を訪れられたのは見聞も広がるし、良かったと思っています。その点に関しては感謝いたします、誘っていただいて……」
「とんでもないことでございます、アイラ様。そうおっしゃっていただき、このマラーク、大変光栄でございます」
他国でいうところの公爵クラスはあるらしいマラーク神官長。その方にここまで言わせるのは相当な気もするわね。素直に喜んでおこうと思う。
「……」
「さっきから、やけにクレスケンスを見ているな。何か気になることでもあるのか?」
「いえ、シグルドさん……そういうわけではないのですが……」
「我らが神聖国の象徴たるクレスケンス様。1000年前の錬金国家の長にして、最高の錬金術士であったと言われております。アイラ様には何かシンパシーのようなものが感じられるのではないですか?」
「た、確かに言われてみると……」
1000年前の最高の錬金術士ならば、おそらくは歴代最高の錬金術士なのだろうクレスケンス。私が比肩するなんて恐れ多いけれど、マラークさんの言葉は的を射ているように思えた。
なるほど……シンパシーか……。
私はロンバルディア神聖国に来てすぐに明るい話題に巡り合えたのかもしれない。氷漬けのクレスケンスの姿が私とそんなに変わらないくらいの年代の、女性だったことには驚いたけれど、本当に見れて良かったと思う。
私も心のどこかでは見てみたいという欲求はあったからね……。




